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捨ててゆく私「我慢の代償」

茶屋ひろし2024.02.09

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年末からずっと松本人志報道を追いかけていました。松本人志と吉本興業の対応も、ネットの反応も、「まあ、今はそうだよね」と思うものが多く、次から次へと答え合わせをしているような感覚になります。

「去年テレビが壊れてからずっとテレビ見てへんねんけど、松ちゃん、どうしたん? なんか息子がときどき教えてくれるんやけど」
という女友達に、#MeToo運動から国内のフラワーデモ、そして去年の法改正があっての松本人志なのよ、とひと息に説明したら、「ふーん、そうなんや~」とふわりと着地しました(したのか)。

筋というか、物事の流れの基本はそこにあって、それが見えない人には、松本人志が被害者になるような世界に反転する、という現象があちらこちらで起きている気がします。

周囲の人たちと話題にする時も気を遣います。
いま、社員さんは40代後半から50代の女性が多いのですが、去年のジャニーズ問題の時は、「芸能界ってそんなもんじゃないの?」とか、「(告発は)売名行為だと思う」という感じで、性被害の告発の矮小化、あるいは二次被害になってしまうような反応が多かったので、「そんなもん、っていっても被害者は当時、子どもですよ」とか、「でも、ほんとだったら大変なことですよね」なんて、相手の気持ちを踏まえて、あたりさわりのない方向へ持っていきました。

これは、その人の生きてきた時間がかかわっているので、むやみに「それは違うと思います!」とは言いにくい、ということだと思います。

今回の松本人志の件を、私がずっと追ってしまうのも、この時間が関係しています。大阪ローカルのテレビにダウンタウンが出てきたのは1987年の「4時ですよーだ」、そこからダウンタウンとずっと接してきた過去の時間をなかったことにはできないし、性加害を繰り返していた人の世界で笑っていた自分を、完全に過去にするには時間もかかる。

被害に遭われた方にとっては「そんなの知ったことじゃない」と思いますが。

往年のジャニーズファンの人たちの、ジャニー喜多川&事務所擁護の反応を見た時も、性的虐待を受けてきた男の子たちにときめいていたことになる、というグロテスクなねじれを直視することの困難さを思いました。

松本人志の件も社内で、「ついて行った女性たちも悪い」とか、「男の人ってそういうもんでしょ」と矢継ぎ早に感想が生まれていました。
「だって、そういうふうに親に言われて育ってきたから」
私と同世代の彼女の危機管理としての「常識」。被害を被害として認識して、それを告発することが難しかった時代の処世術。

けれど、話を聞いていると、学校で、電車で遭った自身の性被害や友人の体験などがどんどん出てきます。被害に遭わないように気をつけて、言いたいことも我慢してきたのに、それでもあった被害、何も解消されていない過去の話です。
そこには、「ついていった女性も悪い」「告発は嘘なんじゃないか」と言い始める女性たちの「我慢してきた人生」が現れているようにも見えます。

ジャニーズや宝塚、松本人志の性加害やいじめが罪深いのは、アイドルやスターやお笑いの存在が、そんな理不尽な世の中を生きていくための希望やガス抜きになっていたところにあって、ファンの人たちにとっては、それで救われてきた過去まで否定されたような気持ちになるところじゃないでしょうか。

たまたま私にとって、ジャニーズや宝塚はそこまでの存在ではなくて、松本人志もマッチョになってワイドショーに登場するようになったこの10年くらいは敬遠するようになっていたので、そこまでのショックは受けませんでした。

それにしてもの半生の長さよ。

くしくも先月から宮藤官九郎のドラマ「不適切にもほどがある!」が始まって、そのなかで1986年と2024年の対比が行われています。38年前…ダウンタウン登場の一年前です。
二話目で早速「不同意性行為」の言葉が使われていました。
アップデート、コンプライアンス、働き方改革、といった言葉が先にきて、体や気持ちがついていけてない人たちを、昭和からタイムスリップしてきた阿部サダヲがほぐしていくような感じでした。

そういえば去年、ひさしぶりにあった友人女性が「茶屋君、私ね、アップデートという言葉は嫌いよ」と言い放ったのが新鮮でした。
詳しくは聞けませんでしたが、なんとなく、その人が生きてきた時間の話なんだろうな、と思いました。そんなに簡単に更新できないものもある。

それでも、我慢しなくてよかったことはたくさんあるし、これからの人たちにそれを強いることはできない。
最近ネットで読んだ若い芸人さんのインタビューにあった、「ハラスメントに耐えうる強さなんていらない」という言葉に共感します。若くない私にとっては、ここで止めるという思いです。人権運動のすべてがそうだと思いますが。

松本人志の報道が見せた、40年の時間と社会の変化。
当人は「あれ、そんなにアカンかったんか」と未だにピンときていないんじゃないかと思います。でないと提訴しないでしょう。
女性が性被害を我慢することより、それは「アカンこと(人権侵害)」だ、という常識がほしい。

先日、ダウンタウンに憧れて若い時に芸人を目指していた男友達に「どう思ってんの?」と聞いてみたら、「裁判に敗けたら敗けたで、勝ったら勝ったで、その時になんていうのか、コメントが楽しみ」と、松本ワールドに居続けている夢が返ってきました。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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