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No Women No Music 第37夜 シリアからの声/ジ・オーケストラ・オブ・シリアン・ミュージシャンズ

ほんま えつ2017.06.05

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シリアのシネマクラブで1日前に知りあいアラン・レネ監督の「ヒロシマ・モナムール」を共に観た友が目の前で銃弾に倒れて横たわる。撮りためた壊滅していくシリアの画像を持って2011年5月、戦禍を逃れた映画監督オサーマ・モハメンドのドキュメント映画「シリア・モナムール」。詩的な構成のなかに浮き彫りになるシリアの凄絶な日々と悲しみに観終わったあとしばらく席を立てなかった。


2010年12月のチュニジアの反政府デモから発した「ジャスミン革命」は「アラブの春」という大きな民主化運動へ。エジプト、リビアなど民主化への政変の波は、2011年アサド大統領の長期独裁政権国シリアにも押し寄せた。当初平和的な反政権運動が政府軍の抑圧に相乗して次第に過激なものになり武装衝突、血で血を洗うような内戦へ発展し、ロシア、欧米の介入で収束のつかぬ戦争となっている。これを書いている今朝の新聞でも、米軍のシリア空爆で市民が百数名死亡した記事がある。


オサーマ・モハメンド監督のように母国シリアを離れ散り散りとなったシリア国立交響楽団の音楽家たちを再会させたいと、アメリカへ渡った楽団のコンダクター、イッサム・ラフェアはUKロックグループ、ブラー/ゴリラズの中心人物デーモン・アルバーンに相談する。デーモンはバンドとは別プロジェクトとして活動するアフリカ・エクスプレスの一環としてシリアの音楽家たちが再会できる場をつくりだした。そのプロジェクトが2016年6月、多彩なゲストを招いてイギリス、オランダ、トルコ、デンマークをまわり、その模様を収録したアルバム『ジ・オーケストラ・オブ・シリアン・ミュージシャンズ&ゲスツ』を聴いて胸が熱くなった。デーモン・アルバーンは以前からアフリカやアラブの音楽を自らの音楽にも取り入れ、各国のミュージシャンたちとも交流していたというが、2010年ゴリラズのアルバムでシリア国立交響楽団と共演し同年シリア公演も行っている。戦争が始まる前年に、シリアではデーモン・アルバーン率いるゴリラズのコンサートをみることが出来たのだ。戦争による破壊はあっという間だということに戦慄する。


アルバム『ジ・オーケストラ・オブ・シリアン・ミュージシャンズ&ゲスツ』は、イントロダクションで男性、女性のアカペラが響きわたった後、壮大なオーケストラ演奏へと入っていく。民族楽器とオーケストラが醸すアラブならではのメロディに身も心もうねりだす。かつてシリアの日常にあった文化の豊かさを思わずにはいられない。歴史あるモスクや城壁といった美しい建造物がたたずむオリエンタルな魅力に満ちたシリアの風景が切なさをともなってうかびあがる。中盤の長尺のインストナンバー「アル・ハレジャ」はネイ(中近東の縦笛)とンゴーニ(西アフリカの伝統弦楽器)の演奏を中心にオーケストラのソロパートも絡みながら疾走感あふれ身を乗り出し手拍子をしたくなるほど。ライブ会場の熱気も最高潮なのがつたわってくる。約80分にもおよぶ長尺のアルバムもオーケストラのインストを交えて登場する国境を越えたアーティストたちの熱い演奏に聞き入ってしまう。シリアのアレッポ出身女性ボーカル、ファイア・ヨウナン、チュニジア出身のスーフィー歌手ムニール・トロウディ、セネガルの男性グリオー(西アフリカの世襲制の伝統伝達者)、セク・ケイタ、今夏の来日公演も心待ちのモーリタニアの女性グリオー、ヌーラ・ミント・セイマリ、レバノン/シリア系のラッパー、エスラム・ジャワード、レバノン/アルジェリア系のベイルートで活躍する女性ラッパー、マリカハ、ロサンジェルス在住のSSWジュリア・ホルダー。UKのポール・ウェラーとデーモン・アルバーンはビートルズの「ブラックバード」を披露。終盤には在欧アラブ系移民・難民のカリスマともいわれているというラシッド・タハが、しゃがれた声で「故郷に追われて」を歌う。いかにもアラブ歌謡といった郷愁を露わに歌い終えた後シリア、シリアと呼びかける。なにかに訴えかけるように、問いかけるように。


中東、マグレブ、欧米、各国からのゲストを招き入れたシリアンズ・ミュージシャンズの演奏は、異なった世界から生み出された音楽文化へのリスペクトに満ち溢れ、この上なく楽しく豊かなひとときをつむぎだす。このプロジェクトの発起人であったイッサム・ラフェアはアメリカでビザが降りず、このツアーには参加できなかったという。母国シリアを離れた人々、難民キャンプで過酷な生活を強いられる人々、そして戦禍のシリアで死と隣り合わせで生きている人々。声にならないシリアの人々の声がジ・オーケストラ・オブ・シリアン・ミュージシャンズの奏でる音楽に込められているようだ。その声にじっと耳を傾けたい。



※参考文献
CD『アフリカ・エクスプレス・プレゼンツ・ジ・オーケストラ・オブ・シリアン・ミュージシャンズ&ゲスツ』解説書(ライス・レコード)
『シリアからの叫び』(亜紀書房)
『シリア・モナムール』映画パンフレット

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ほんま えつ

ほんま えつ(ほんま・えつ)

音楽、映画、本をこよなく愛して生きる趣味人女。
小学5年生のとき同級生の友達宅で聴かせてもらった「クィーン」に感動。
以後、洋楽を貪り始める。初めて買ったLPレコードは「アバ」のベスト盤。
いまではこれぞと思った音楽はジャンルを超えてなんでもござれの雑食派。
本連載、約10年ぶりのカムバックです。

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