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パートナーはないながら、人工授精で子どもを作り、母親になる選択的シングルマザー、片方が人工授精に頼って子どもを持つレズビアンのカップル。日本にもいるようだがフランスにももちろんいる。違いは、日本では法律による規制がなく、フランスでは法律上禁止されていることだ。

いやいや日本でも禁止でしょう、と言う方があるかもしれないが、実は日本にはそんな法律はない。結婚しているカップルにしか人工授精、体外受精を許可していないのは、国ではなく、日本産婦人科学会で、その影響力で産婦人科では原則、許可していないけれども、医学界の自主規制でしかなく、シングル女性に関しては、生殖医療を施してくれる機関もある。

その点、フランスには「生命倫理法」という法律があって、生殖医療の実施範囲を細かく定めているから、現時点でシングル女性とレズビアン・カップルが生殖医療という手段で子どもを持つのは違法なのである。

1982年に世界で2番目に試験管ベビーの誕生を成功させたフランスは、しばらく生殖医療の無法時代を経験した後、1994年に「生命倫理法」を作った。この法律はヨーロッパ全体から見てもかなり厳しく、生殖医療が許されているのは、結婚した男女、または2年以上の事実婚を証明できる異性愛カップルだけである。

しかし実際には、子どもを作っているシングル女性もレズビアン・カップルもいる。どうするかというと、ひとつは医療機関に頼らず、知り合いやゲイ・カップルなど個人的にドナーを見つけ、自分の手でスポイトを使って精子を注入するという手作りの人工授精であり、もうひとつはベルギーやスペインなど、法的に許可している隣国に行って、人工授精や体外受精を受けてくるのである。そういう人たちが年間3000人もいる今日、一国だけで禁止しても無意味である。現状を追認しつつ、この度、生殖医療の適用範囲をシングル女性とレズビアン・カップルに広げようという趣旨の法案が、現在、下院で議論されている。これが認められれば、シングル女性にもレズビアン・カップルにも、生殖医療に健康保険が適用されて、異性愛カップルと同様、人工授精6回まで、体外受精4回までが無料で受けられるようになる(ちなみに日本では、結婚した男女の不妊治療においても、生殖補助医療の費用は保険適用外である)。これから子どもを持とうとするシングル女性やレズビアン・カップルにとって朗報なだけでなく、すでに子どもを持っている人々にとっても、非合法から合法へと世間の認知が変わることはとても喜ばしい。

一方、反対する立場からは、独身女性やレズビアン・カップルに子どもができないのは病気のためではないので、健康保険による還付は適当ではないとの声もある。

 

【出生証明書から「父」の記載が消える】

生殖医療の適用対象を広げる法改正は、親子関係をどう捉えるかにも影響を及ぼす。

フランスは現在、レズビアン・カップルの場合に、母として認めているのは出産したほうの一人のみだが、改正案が採択されれば今後は二人とも母として認められるようになる。これは時代に合った改正と言えよう。2013年に同性愛者の結婚が許可されてからは、同性カップルに養子を取る権利が生まれたので、同性でも結婚している場合は、パートナーの子を養子にすることで、親子関係を法的に保障できるようになった。今回の改正案が通れば、養子ではなく二人の母の間に生まれた子として出生証明書に記載できるようになる(出生証明書は日本の戸籍抄本に当たる。ちなみにフランスには「戸籍」はない)。その場合は、子どもが生まれる前に、認知をおこなえば良い。

事実婚の男女が届け出るのと同じで、事前に役所で認知証明書を発行してもらうと、子どもが生まれたときに、出生証明書に両親の名が記載されるのだ。

出生証明書から「父」の記載が消えるというのは、父権主義の強かったフランスでは象徴的に大きな事件かもしれない。

伝統的に子どもの姓は認知した父親のものと決まっていたのが、2013年に同性婚が認められるのにともない、父親の姓が二つという事態が生まれた。それを受けて、「両親のどちらの姓を名乗ってもよい」と変わったのだが、ここへ来て出生証明書から「父」が消える可能性が生まれたのである。強く反対する保守派もあるし、逆に「革命的」と賛同する人もある。

 

【精子や卵子のドナーについて】

他に、今回の改正案に盛り込まれたのは、生まれた子どもの「知る権利」である。

成人(18歳以上)になった子どもが自分の生物学上の父親を知りたいと思った場合には、ドナーを特定する情報にアクセスできるようにする。その結果、今後は、自分のアイデンティティがいつか子どもに知られる可能性を許容しないとドナーになれないということになる。

このあたり、日本では出自を知る権利に関して、議論もされていない。

一方、フランスの「生命倫理法」は、精子や卵子のドナーが誰だかわからないようにすることを定めている。日本では、不妊の夫婦が人工授精、体外受精を受ける場合に、精子を夫の父に提供してもらうケースなど、結構多いようだが、これはフランスでは禁止されている。ドナーは自分の精子が誰に提供されるかを選べないし、生殖医療を受けるほうも、ドナーを選ぶことはできない。米国などでは許可されている髪の色や目の色などの「特徴」からドナーを選ぶことは、フランスでは禁止されている。今回の法改正でも、この方針は維持されている。

もうひとつ、変更される項目は、若い卵子の凍結保存についてである。今まで、高齢になってからの妊娠に使う予定で卵子を凍結することは禁じられており、病気や手術などで卵子の劣化が予想される場合と他人に卵子を提供する場合に、例外的に自分の若い卵子を凍結して、後年使うことが許されているだけだった。これを一定の条件をクリアすれば、私立の機関に凍結した卵子を有償で預けておけるようにする。

これに対する反対意見は、卵子の売買に道を拓くのではないかという懸念である。一部の国と異なり、フランスの「生命倫理法」は精子や卵子の提供は無償でなければならないと定めており、この点は改正案でも遵守されている。

ちなみに日本では独身女性の卵子凍結は禁止されていない。2013年に日本生殖医療学会がガイドラインを発表し、「40歳以上の卵子凍結は推奨しない」としている。

一方、改正案に盛り込まれなかったのは、夫が死亡してしまった場合の、保存された精子による妻の妊娠の許可である。独身女性が見知らぬドナーの精子で妊娠することを許されるとき、夫の精子で子どもを持ちたいと言う妻の希望を、夫が他界しているという理由で拒否できるかという問題だが、委員会で否決され、25日の本会議でもしりぞけられた。

【どの範囲まで認める法案なのか?】

また、独身女性とレズビアンに認めた権利をトランスジェンダーの女性にまで拡張することについては、これも委員会では否決されている。

フランスの「生命倫理法」は代理母出産を禁止しているが、ゲイ・カップルが代理母という手段に訴えて子どもを持つ権利に関しても法案には盛り込まれなかった。

遺伝性疾患などを知るための着床前診断も、独身女性、レズビアン・カップルの生殖医療においては認められない。しかし、いずれもどこで線引きをするかという難しい問題なので、ひとつ適用範囲が広がれば、次へのステップとなることは否めないだろう。本会議で再度、議論になる可能性もある。

下院における議論は3週間続く予定である。

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中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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