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教職員の変形労働時間制は百害あって一利なし

深井恵2019.12.12

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教育界では「振り返り」が流行りだ。1時間ごとの授業の「振り返り」、行事の「振り返り」、講演を聴けば講演内容の「振り返り」、学期末には1学期の「振り返り」等々。何かにつけて振り返りだ。以前なら「感想」や「反省」と言う言葉で語られていたことが、「振り返り」にとって変わられた。

「振り返り」は、私の持っている国語辞典の見出し語にはない。「振り返る」なら載っている。「振り返り」は、まだ社会全体には通用しない、「業界用語」なのだろう。

「振り返る」の国語辞典での意味は、「過去、または済んだことを思い出してみる」。ならば「振り返り」の意味は、「過去または済んだことを思い出すこと」になるのだろうか。「思い出す」だけで、そこには「反省」も「今後の改善」もない印象を受ける。まるで、今の政権のようだ。

西武百貨店のパイ投げ広告から始まった今年1月のコラム(あの広告は不愉快だった)。「平和」も「憲法」も一言も新聞記事にならなかった2月の「全国教育研究集会」。ほとんど報道されなかった4月の「統一地方選挙」。報道してほしい出来事は、ことごとく隅に追いやられた1年だった。報道の自由度ランキングが50位を下回る国だ。

3月の森友学園籠池夫妻の初公判は、同じ日に行われた日産カルロスゴーンの保釈にかき消された格好だった。8月は、「煽り運転」の報道ばかりで、「水道民営化に関するパブリックコメント募集」は、ほとんど報道されなかった。締めは「桜を見る会」の報道に合わせた「沢尻エリカの逮捕」か。PISA学力調査の結果もひと役買った。

今月4日、公立学校教職員の勤務時間を年単位で調整する「変形労働時間制」の導入を盛り込んだ、改正教職員給与特別措置法が成立してしまった。教員の1人としては重大な出来事だが、報道の扱いはほとんどなかった。

この「改正教職員給与特別措置法」、教員の超過勤務実態を知りもしない人たちに決められた感がある。教員の仕事について、「年度替わりは忙しいが、子どもたちの夏休み中はヒマ」だと勘違いしている。

以前にも書いたが、高校の場合はこうだ。国公立大学等への進学希望者が大半を占める普通科高校では、「夏休み」とは名ばかりで、1学期の終業式の次の日から、受験対策の補習が始まり、連日続く。「お盆の三日間しか休みがない」と、他校の教員仲間の嘆きを聞いたこともある。

就職希望者や推薦入試を受けての進学希望者が多い実業系の高校でも似たような状況だ。1学期の終業式の次の日から、補習と並行して、家庭訪問や三者面談で受験先の希望を確認し、8月上旬の推薦会議を経て受験先が決定。その直後から、履歴書や志望理由書を書き、面接試験対策、小論文対策などの個別指導が始まる。

そもそも夏休みの「弾力的運用」で、一学期の終業式の時期が下がったり、二学期の終業式の日が8月下旬に早まったりして、子どもたちの「夏休み」そのものも短くなっている。

そんな「夏休み」に勤務時間を短くしたら、超過勤務は増えるに決まっている。まして「繁忙期」に勤務時間を延ばすなど、愚の骨頂。過労死する教職員が増えるのが目に見えている。

かつて、学校がまだ土曜日に半日あった頃のことを覚えているだろうか。自分自身が高校生の頃は、土曜日に4時間授業があった。平日は6時間目までの授業で終わり、高校3年生の時だけは、6時間目の後に受験対策の補習が行われていた。

それが、1992年から月に1度、第二土曜日が休みになった。その後、1995年には第二、第四土曜日が休みになり、2002年から完全週5日制となって今日に至る。

第二、第四土曜日のみが休みだった頃、土曜日の授業を補うための補習授業が、月曜日から金曜日の7時間目に割り当てられていた。その後完全週5日制を導入する際、土曜日の分の単位を減らして月曜日から金曜日を6時間の授業にするか、土曜日の分を減らさずに7時間目まで授業するか、学校によって対応が分かれた。

月曜日から金曜日まで、全てが6時間で終わる高校はほとんどない。2~4時間(つまりは月曜から金曜のうちの2~4日間)は、7時間目までの授業を行っているのが現状だ。7時間目まで授業があると、その後、清掃・帰りのホームルームをしたら、勤務時間終了時刻まで、わずか10分しか残らない。個人添削や部活動、各種会議等をすれば、超過勤務は必至だ。

「だから、繁忙期の勤務時間を延ばすのだ」と言いたいのだろうが、延びた分、さらに仕事が増えることは、火を見るより明らかだ。

平日の勤務時間が1時間延びれば、その分「補習」ができるなどと言い出しかねない。かつて土曜日の授業を7時間目に入れ込んだように。補習だけでなく、会議も増えるし延びるだろう。そうなれば、「補習の準備」「会議の準備」にかかる仕事が増え、補習や会議が終わったら終わったで、後処理の仕事も付随してくる。

加えて、幼い子どものいる教職員や介護を担っている教職員にとっては、別の負担が増えることが予想される。保育時間を延長せざるを得なかったり、育児による短時間勤務をせざるを得なかったりする場合が考えられる。

自分の場合も、勤務時間が延長されると、親の介護をする時間が下がり、それに伴って帰宅時間も下がる(当たり前)。その結果、就寝時間が下がり、睡眠時間が減る。過労死まっしぐらと言ったところか。

教職員の変形労働時間制は、百害あって一利なしだ。「ヒマ」なはずの「冬休み」にしても、今年は仕事納めの後の12月29日に部活動の試合が入っている。

大学入試センター試験を控えた高校なら、年末年始の補習や模擬試験が、ぎっしり詰まっているだろう。

来年度予定されていた、大学入試共通テストの英語民間試験導入も国語・数学の記述問題も、延期が検討され、子どもたちも教職員も振り回されている。これらの対応も、超過勤務の助長につながりかねない。

延長するなら、教職員の勤務時間ではなく、国会を延長して、桜を見る会の説明責任を果たし、責任を取ってもらいたいものだ。

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