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TALK ABOUT THIS WORLD フランス編 包括的治安法案反対デモ

中島さおり2020.11.30

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 二度目のロックダウンが緩和され、生活必需品でない店も開けてよいことになった初日の11月28日、朝から全国およそ100の都市で「包括的治安法案」に反対するデモが行われ、パリで4万6000人(内務省発表)、全国で13万3000人(同)を集めた。

「包括的治安法案」は現在、国会で審議されており、先週24日に国民議会(下院)の第一読会で可決された。ドローンで広範囲に国民の監視ができるようになるというような条項も含まれているが、特に問題になっているのは第24条の、警官や憲兵の映像・画像を流すことを禁止する条項だ。もう少し詳細に言うと、本人が特定できるような映像・画像で、「肉体的精神的にダメージを与えるもの」が対象。違反すると一年の禁錮刑と4万5000ユーロの罰金が科されるという。

 フランスではつい最近、11月21日に黒人の音楽プロモーターがスタジオの前で四人の警官に取り押さえられ、殴る蹴るの暴力を振るわれた映像を監視カメラが捉えたものがSNSで広範に流れたばかりだ。23日には、パリのレピュブリック広場にキャンプを張った流民を警察が暴力的にたたき出す事件が起こっている。

 昨年連続的に続けられた「黄色いベスト」運動のデモの際にも、警察がデモ隊の人間にけがをさせる例が知られているし、今年6月、ジョージ・フロイド事件に触発されて、フランスの警察の人種差別を告発する「アマダ・トラオレの真実を求める委員会」のデモに多くの人が集まったのも記憶に新しい。

「ダメージを与える」とは、被害者がそう言いはれば成り立ってしまう曖昧な規定だから、警察側の暴行の報道封じに道を開きかねない。

 フランスの警察が人々の信頼を失っているときに、警察暴力の情報が人の目にさらされなくなり、なかったこととされてしまう危険のある法案が提案されたのだから、報道の自由の侵害、国民の知る権利の侵害、さらには法治国家を害するものだとして人々は反対の声をあげた。さらに警察暴力と人種差別への反対の意思表明も加わった。

 28日のデモでは、パリをはじめ、警察とデモ参加者の間で小競り合いが起こり、警察側には98人の負傷者が出、デモ参加者の81人が職務質問された。報道しようとしていたポーランド人の記者が負傷している。デモ参加者側のけが人の数字は調査中で29日現在まだわかっていない。

 フランスはすでにコロナ対策のため、移動の自由を制限している。治安の安定のため、報道の自由、表現の自由が制限されるようなことが加われば自由の幅はさらに狭まってしまう。「自由」は「安全」を理由に奪われる。私は今回のデモに足を運ばなかったが、その危険には本当に気をつけていなければならないと思った。

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中島さおり

中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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