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医療の暴力とジェンダー Vol.12 オリンピックが内包する優生思想

安積遊歩2021.07.26

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わたしは娘を妊娠したとき39歳だった。障害のない人でもマル高と呼ばれて、高齢出産はリスクが多い。ましてわたしは骨が脆く、カルシウムの取り込みも人と違う。それまで妊娠しなかったのは、小さい時からのレントゲン照射、つまり被曝によるものだと思っていた。しかし、13歳のときに様々な医療の介入から自由になると決意して、その後自然医学や東洋医学的な試みをしてきた。さらに、食事も玄米を中心とし牛乳を飲まず、肉食をあまりしないなどの成果の一つとして体質改善がなされ、予測も計画もなく妊娠に至った。

その直前の1994年に、産婦人科の医院の看板にかかっていたあの嫌な嫌な「優生保護法」の差別性を、エジプトのカイロで暴露。娘は優生保護法という、優生思想を法律とした恐ろしい国に生まれなくてもいいという精神的後押しの中で、優生保護法改訂の年、1996年に誕生した。

娘に対して、徹底的に心がけたことは、わたしが幼い時にされて嫌だった医療からの介入を一切しないでいようとしたこと。娘は、生まれた時から「この薬を打たなければ死ぬかもしれない」とか、「この手術は大人になっていくために必要だ」とか、脅しのような言葉を聞かずに育ったので、様々な冒険が出来る子になった。手術もせず、ギブスにも入らなかったおかげで、自分の身体に対する信頼がわたしのようには損なわれなかったから、わたしには考えられなかったチャレンジをやってのける人になった。しかしそのチャレンジの数々は、競争原理に則ったものではない。誰かとの比較の上での、評価を気にして、というようなものとは全くかけ離れたものだった。

今、コロナというパンデミックの中、東京でオリンピックが開かれ、約1ヶ月後にはパラリンピックを開くとも言われている。わたしから言わせれば、オリンピックもパラリンピックも最大に優生思想を煽り、人々の命に対する尊重と敬意を根絶やしにするものだ。人々は、特に障害のない人たちは、人間の闘争や凄まじい強欲を、本能だと教えられ奨励されてきた。それは、学校教育の中で顕著に言われ、大量生産大量消費大量廃棄でまわる経済システムを頑なに維持し続けてきた。21世紀になってから、環境破壊と気候変動が地球の生き物たちの危機を壮絶に招こうというところにまで来てさえも、オリンピックの暴走は止まらない。

わたしは、人間のチャレンジ精神や楽しみを感じる力は本能のひとつだとも思っている。しかし、その本能の中には人と比べて評価し合うという比較や競争は全く入っていないと思うのだ。娘を見ていると、自分にチャレンジを課すこと自体を楽しみ、そこで出会う人々との協力や助け合いを、また楽しんでいる。小学校2年生の半ばで学校をやめ、中学も2年間通っただけで、その後はニュージーランドに原発避難をした。日本の過酷な受験戦争には巻き込まれなかったためか、競争するということになんの喜びも見いだせないと言うのだ。そのうえ、彼女はわたしとは違って、幼い時からテレビをほとんど見なかったので、スポーツやドラマの中の競争原理や比較競争などの言葉にも、あまり触れることは無かった。

わたしは、小学校2年生のときに東京オリンピックを見、施設の中ではプロレスや高校野球もよく見ていたので、スポーツで勝つことの喜びというのは、娘よりは随分わかる気がする。スポーツで湧き上がる感動、それをオリンピックに繋げて煽っていくのは、わたしからすれば管理しやすい人間、つまり物事をよく考えない人間を創出するためのシステムの暴走に見える。競争して勝つことを、百歩譲って喜びだと感じる人がいるのは、この経済システムを維持するためになくてはならないことではある。しかし、本来の人間はそれを教育ということで叩き込まれなければ、わたしの娘のように競争心より好奇心の方がずっと力を持っているはずだ。

好奇心は自分を知ろうとするし、人と人とを繋いでいく。路上で倒れている人がいたら、競争心はその人に手を貸すことはないだろうが、好奇心はその人かなぜそのような状態なのかを知ろうとし、近づき手を貸すという行為になる。競争心は自分の痛みにも人の痛みにも鈍感だが、好奇心は絶えずそれがどこから来るのかを見ようとする。競争心は人を数字で表そうとするが、好奇心は数値化されることに違和感を感じる。

西洋近代医療の始まりには、この競争がある。戦争で身体が動かなくなった兵士を治癒し、再び戦場に送るために医療が発達した。コロナ禍で医療が逼迫し、東京の病院によっては野戦病院のような様相のところもあると聞く。そんな中、オリンピックで組織的に競争心を煽り続けることは、人々の生命への意思や助け合いの心をさらにさらに封じ込めることになる。トリアージが密やかに、しかし確実に行われているコロナ禍で、わたしは「ハメルンの笛吹」や「裸の王様」の物語を繰り返し思い出している。

※編集部から
安積遊歩さんは、女性障がい者たちとその自立を応援する人たちの声を集め東京五輪・パラリンピック反対の声明文を6月に発表されました。多くの方に読んでいただきたくこちらに添付します。→ オリンピック止めよう声明文

安積遊歩さんと安積宇宙さん。

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安積遊歩

安積遊歩(あさか・ゆうほ)

1956年2月福島市生まれ
20代から障害者運動の最前線にいて、1996年、旧優生保護法から母体保護法への改訂に尽力。同年、骨の脆い体の遺伝的特徴を持つ娘を出産。
2011年の原発爆発により、娘・友人とともにニュージーランドに避難。
2014年から札幌市在住。現在、子供・障害・女性への様々な暴力の廃絶に取り組んでいる。

この連載では、女性が優生思想をどれほど内面化しているかを明らかにし、そこから自由になることの可能性を追求していきたい。 男と女の間には深くて暗い川があるという歌があった。しかし実のところ、女と女の間にも障害のある無しに始まり年齢、容姿、経済、結婚している・していない、子供を持っている・持っていないなど、悲しい分断が凄まじい。 それを様々な観点から見ていき、そこにある深い溝に、少しでも橋をかけていきたいと思う。

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