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広がる広域通信制高校と統廃合される公立高校

深井恵2012.09.12

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市内の街なかのビルの一角に、広域通信制高校の看板を次々と見かけるようになって数年経つ。少子化による高校再編で統廃合が進んで、県立学校の数は減る一方であるにもかかわらず・・・である。なぜ、雨後の筍のように広域通信制高校が増えていったのか。話は小泉政権下にさかのぼる。規制緩和、構造改革を謳い、「構造改革特別区域」いわゆる「特区」と呼ばれる区域が誕生した。教育特区もその一つ。簡単にいうと、地域の活性化につながるのなら「学習指導要領に則らなくてもよい、自前の施設設備を持たなくてもよい、教員免許を市町村で発行できる、株式会社が学校を設立できる・・・等」といった教育の規制緩和である。

株式会社立の学校といえば、トヨタとJR東海と中部電力がつくった全寮制の男子校で中高一貫校の「海陽中等教育学校」(現在は学校法人)が当時ニュースにもなった。今年の3月に一期生が卒業、東大合格者を2桁出したらしい。教育課程の詳細は知らないが、教育特区の「学習指導要領に則らなくてもよい」教科書の学年前倒しも可能な学校だ。東大の名誉教授(?)を校長に、ノーベル賞受賞者の講演等も教育活動の一環として行っているという。HPによると教育課程は国語・数学・英語・理科・社会のみ。その他、特別講義が盛りだくさんのようだ(家庭科や芸術、体育は通常の教育課程の授業としては一切行わないのだろうか)。小泉政権の頃に株式会社立の学校として注目されたのは、私の認識ではこの1校だけだった。

ところが、時を同じくして株式会社立の広域通信制高校が次々と誕生していた。広域通信制高校は東京や大阪などの都市部でまず問題視された。教室が歓楽街のビルの一室やパチンコ店の2階にあったりと、「高校生の学習環境としてどうか」という指摘であった。少子化の進む九州にまで、広域通信制高校が進出してこようとは、思っていなかった。しかし、ふと気がつけば、デパート等のある市内中心部のビルに「広域通信制○○高等学校○○校」や「○○高等学院」の看板が目に付くようになっていた。

広域通信制高校は、本校とサポート校がある。本校は、特区の特性上、過疎化の地域に設置されていることが多い。廃校となった小学校等の施設に企業が入り込んで、元学校の施設設備を使ってスクーリング(面接授業)を行う。サポート校は、全国に複数箇所ある(学校ごとに校数の差がある)。例えば、本校が関東にある広域通信制高校に在籍して、日頃は九州のサポート校に行き、スクーリングのときには関東まで出掛ける・・・というような学び方である。全国各地に生徒がいるということは、スクーリングの際に宿泊を伴う場合が多いということだ。宿泊や食事に利用されることで、その地域が潤うことになる。

公立高校と比較したとき、株式会社立の広域通信制高校には、メリットとデメリットがある。まず、メリットとして考えられるのは、「出席日数が少なくて済む」ということだろうか。年に1回から数回のスクーリングに出ればいいので、出席日数をあまり要求されずに単位を修得できる。全日制高校を中退した生徒も、そのまま学年をダブらずに編入できて単位を取ることができるので、同級生と同じ年に高校を卒業することができる。不登校傾向の子どもにとっては、「学校に通う」という負担が軽減される。友人関係に悩んで学校に行けなくなった子どもにとっても、「学級」という縛りもなく、日頃は自宅で学習、スクーリングも少人数だったり個別だったりすれば、「同級生」との人間関係に悩むことも少ないだろう。また、地域の特性を活かした教育内容も魅力の一つと言える。たとえば、農村地域の学校では、地元の農家の方から農業を学ぶことが出来る。「特区」により教員免許が市町村単位で「特別教員免許状」を発行できるようになったので(特区が始まった当初は「都道府県単位で免許が発行できる」ように規制が緩和されたが、その後、更に規制が緩和され、「市町村単位での発行が可能」に)、大学で教員として必要な単位を修得していなくても、特別に教員免許が発行される。

さて、デメリットだが、まずは、授業料等のお金が高いことが挙げられるだろう。高校卒業には最低74単位必要だ。広域通信制高校では1単位あたり10,000円前後かかる。公立の通信制高校の場合、1単位あたり100円程度だったから、実に100倍の授業料。高校無償化により、公立高校の授業料は無償になったが、株式会社立の学校は対象外なので、最低単位数をとるのにかかるお金は、最低でも74万円前後。加えて、施設設備費や入学金等も含めると、年間数十万円はかかる。私立大学に通う程度のお金がかかるのが広域通信制高校だ。

次に施設設備の問題。規制緩和でグランドや体育館等の施設がなくてもよいので、サポート校はビルの一室であることがほとんどだ。本校から送られてくる教材を使って行われる(選択肢の中から正答を選ぶ方式が多いらしい)。講義形式の座学はビルの一室でいいと思うが、調理実習や理科の実験、体育、芸術等の授業は全てスクーリングで行っているのだろうか。
加えて、教員免許の問題。免許状をもっていなくてもよく、市町村単位で特別免許状を発行できるという規制緩和だ。一般の教員に対しては、「教員免許の更新制」を導入し、免許を更新しなければ職を失うという政策をとりながら、かたや規制緩和で「特別教員免許状」が発行されている現状。教員の専門性を馬鹿にしているとしか言いようがない、矛盾した政策ではないか。

教育特区の最大の問題は、これが「問題ない」と判断されれば、あるいは「効果あり」と判断されれば、全国に波及するということだ。現に、小学校の英語や、学校の第三者評価公開など、「特区発」の教育政策が全国的な教育政策として広がっている。少子化を理由に公立高校が統廃合され、この10年間でもかなりの学校数が減った。過疎地域に住む子どもたちと保護者にとっては、通学距離も通学費用も大きな負担となっている。その一方で広域通信制高校は増え、政府も推進している。公教育としての責任を放棄する方向へと、教育政策がシフトしていると思えてならない。d

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