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TALK ABOUT THIS WORLD フランス編 女と年金

中島さおり2023.02.07

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日本ほどではないとはいえ、フランスも男女の間に賃金格差はあり、女性の方が22%低い。ところがこれが年金となると、差が40%に広がるそうだ。

今、フランスは年金改革問題で燃え上がっているが、その中で、この格差がクローズアップされた。年金支給年齢を64歳に引き上げる(現在は62歳)というのが目玉の改革で、「女性がちょっと不利」とフランク・リーステール国会関係大臣が発言したのだ。

理由は、女性のキャリアは子育てで中断したり、パート労働(パート労働の80%が女性)だったりすることが多いため、年金の計算のベースになる四半期数が男性より少なくなりがちなのだ。その是正のため、子ども1人あたり8四半期(2年)が年金計算に勘定されているのだが、その効果が、年金支給開始年齢が64歳に引き上げられることにより薄められてしまうというのだ。

62歳で退職できると言っても、実際にはもう少し働いて退職する人が多い。というのは、62歳の誕生日では満額支給の条件を満たすことができないからだ。リタイアする時点で、年金の満額支給に必要な四半期数をクリアしていないと、その分、減額支給になる。なので、満額になるまで働いてから退職する。大体、63歳になる直前くらいまで働くらしい。
年金支給年齢が64歳に引き上げられることで、女性は平均8ヶ月、男性は6ヶ月余計に働かなければならなくなる計算になり、女性の方が努力を強いられるということらしい。

しかし、余計に働く分、年金支給額は増えるので、金額の男女差は長い目で見ると縮小されるのだが……

満額支給に必要な四半期数は、これまでの年金改革によって年代ごとに異なっており、現時点では、たとえば1955年から57年に生まれた世代だと166(41年6ヶ月)だが、1972年以降に生まれていると43年必要になる。

若者がなかなか仕事を見つけられない時代に、長く働かなければ満額支給にならないという改革は若年層には辛いだろう。そのせいなのか、若者の反対も多く、大学生の私の息子も、高校生の私の生徒たちも反対デモに出かけて行っている。

フランスは政府が年金改革を企てるたびに炎上するが、今回は1月19日の反対デモで112万人(内務省発表)という近年にない動員数を記録したと思ったら、1月31日の2回目のデモでは127万人(同調べ)と、それを上回った。2月7日、11日にもデモが呼びかけられている。

政府はこの年金改革案を引っ込めざるを得なくなるのだろうか。

私個人は実を言うと、年金改革に反対ではない。日本の年金支給年齢は既に65歳だし、ドイツは2031年までには67歳に引き上げることにしている。デンマークもイタリアも67歳、オランダ、ポルトガルが66歳、スペイン、ベルギー、ポーランド、ルーマニアなどが65歳。フランスの62歳はヨーロッパでも例外的だ。既得権を手放したくないのはわかるけれど……労働はフランスでは他の国より辛いのだろうか。

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中島さおり

中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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