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映画・ドラマに映る韓国女性のリアル(8)ペ・ドゥナの怒り 映画「あしたの少女」

成川彩2023.07.25

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あ、ペ・ドゥナが本気で怒ってる。チョン・ジュリ監督の映画「あしたの少女」(2022)を見て、そう思った。カンヌ国際映画祭でも上映され、世界の注目を浴びた作品だ。高校生の労働をめぐる実際の事件をモチーフに描かれ、ペ・ドゥナは事件の真相に迫る刑事を演じた。ペ・ドゥナは何に怒ったのか。日本では8月25日から公開される。

「あしたの少女」は、映画の前半と後半で主人公が変わる。前半は女子高校生のソヒ(キム・シウン)、後半は刑事のユジン(ペ・ドゥナ)だ。ソヒは学校を通して紹介されたコールセンターで、実習生として働く。しかし、その業務内容は、高校生の実習には不適切な内容だった。



インターネットや携帯電話の解約のために電話をかけてきた顧客に対応する業務だが、マニュアル上はあの手この手で解約しないよう誘導しなければならない。なかなか解約できず、イライラを募らせた顧客が、電話口の相手が高校生と知らずに怒鳴ることもある。そんな仕事をさせられながら、高校生という理由で正当な対価が支払われない。要するに高校生が安価な労働力として搾取されているのだ。ソヒは黙ってがまんするような性格ではなく、上司にも学校の先生にも不当だと訴える。が、就職率を上げたい学校側はソヒの訴えに耳を貸さず、ソヒは徐々に精神的に追い込まれていく。


ここまでは「あしたの少女」の内容だが、2017年に起きた事件と非常に似ている。実際の事件ではソヒのように追い込まれた女子高校生が貯水池に身を投げて自殺した。
韓国では女性の大学進学率が高く、2021年には81.6%に達した。男性は76.8%で女性が約5ポイントも高い。これは女性が優秀というよりは、高卒の場合、男性よりも女性の方が不利な立場になりやすいということではないだろうか。ソヒのような職業系高校に通う高校生の多くは大学に進学せず、就職する。経済的に働かなければならない家庭の場合が多く、実習先をやめるという選択も難しいようだ。

後半、ソヒとバトンタッチするように登場したユジンは、ソヒの事件の背景にある問題に迫っていく。それは高校生の現場実習をめぐる学校と業者の癒着関係や、学校が就職率を上げようとする仕組みといった、警察の捜査の対象を逸脱するものではある。だが、誰かが問題提起しなければ、同じことが繰り返されるだけだ。



ところが、ユジンが訪ねていく先々で、責任逃れに終始する人たち。誰も高校生の置かれた過酷な状況に向き合わず、保身ばかり考えている。ついにユジンは怒りを爆発させる。その姿が、演技とはとても思えず、人間ペ・ドゥナが本気で怒っていると感じられたのだ。

ペ・ドゥナの怒りが通じたのか、「あしたの少女」の公開後、実社会が動いた。今年3月、職業系高校の現場実習に関し、「勤労基準法」の準用を拡大する内容の「職業教育訓練促進法」改正案が国会本会議を通ったのだ。業者側の責務を強化する内容で、通称「次のソヒ防止法」と呼ばれる。「あしたの少女」の原題は「次のソヒ」で、これ以上ソヒのような犠牲者を出すまいという意味だ。



ペ・ドゥナは「あしたの少女」の出演理由に関し、「社会問題を扱った映画に出るのが好きで、それで正義感の強いキャラクターを演じることが多いのかもしれない」と語っている。確かに何かと闘うキャラクターが多く、ペ・ドゥナが最初に注目を浴びたポン・ジュノ監督の「ほえる犬は噛まない」(2000)では犬泥棒を追う役だった。同じくポン・ジュノ監督の「グエムル-漢江の怪物-」(2006)ではアーチェリーの選手として怪物と戦った。刑事役も多く、ドラマ「秘密の森」(2017、2020)、チョン・ジュリ監督の「私の少女」(2014)、是枝裕和監督の「ベイビー・ブローカー」(2022)など。その中でも、今回の「あしたの少女」の演技は圧巻だった。

守られる女性ではなく、闘う女性を演じ続けてきた勇敢なペ・ドゥナ。ぜひこの名演はスクリーンで見てほしい。

8月25日(金)より全国公開

(C)2023 TWINPLUS PARTNERS INC. & CRANKUP FILM ALL RIGHTS RESERVED.

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成川彩

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。2017年から韓国に渡り、ソウルの東国大学大学院で韓国映画について学びつつ、フリーのライターとして共同通信、中央日報など日韓の様々なメディアに執筆。2020年からKBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」で韓国の本と映画を紹介している。2020年、韓国でエッセイ『どこにいても、私は私らしく(어디에 있든 나는 나답게)』出版。

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