映画・ドラマに映る韓国女性のリアル (9)#MeTooから3年後のドキュメンタリー「アフター・ミー・トゥー」
2023.08.25
韓国では2018年に#MeToo運動が広まり、多くの性被害が明るみに出た。それから3年後の2021年に作られたドキュメンタリー映画「アフター・ミー・トゥー」が、9月16日から日本でも公開される。4編のオムニバスで構成され、それぞれ異なる立場からどう向き合ったのか、彼女たちの物語を追う。
性被害を告発する#MeTooは、韓国では2018年1月に女性検事が男性上司からの性被害を告発したのをきっかけに広まった。政界では次期大統領候補とも言われた安熙正(アン・ヒジョン)忠清南道知事(当時)、文学界では有力なノーベル賞候補だった詩人の高銀(コ・ウン)、映画界では「鬼才」と呼ばれ、世界的に評価の高かったキム・ギドク監督ら、各界の大物が次々告発されただけでなく、学校や会社でも被害を訴える人が一気に増えた。
「女子高の怪談」(パク・ソヒョン監督)では、「スクール・ミートゥー」と呼ばれる校内性暴力の告発について、(元)生徒たちが2018年当時を振り返って語る。ソウルの女子高の男性教師が告発された件で、証言によれば、この教師は生徒たちに自身を「アッパ(お父さん)」と呼ぶように言ったり、抱きついたり、スカートの中に手を入れたり、とかなり悪質だった。
「怪談」とタイトルにある通り、不気味な音楽が流れ、生徒たちの不安な心理が語られる。大学入試を控える生徒たちは、教師に逆らうと大学進学に不利になるかもしれない、と恐れていた。スクール・ミートゥーへの参加を親に止められたと語る生徒もいた。
一人では危険だが、大勢で一緒に動けば学校側も無視できない。生徒たちの連帯が目に見える形で現れたのは校舎の窓にポストイット(付箋)を貼りつけ、外から見ると「#WITH YOU」「WE CAN DO ANYTHING」「#ME TOO」という文字に見えるようにしたことだ。これは報道によって広く知られ、全国的にスクール・ミートゥーが伝播するきっかけとなった。
この件は結局刑事事件として立件され、教師の実刑判決(児童青少年の性保護に関する法律違反、懲役1年6カ月)が確定した。
「その後の時間」(カン・ユ・ガラム監督)は、文化芸術界の#MeTooについて、運動に参加した女性アーティスト3人へのインタビューを軸にした。「女子高の怪談」では当事者は匿名で声だけの出演だったが、「その後の時間」の3人は名前も顔も出し、2018年からの変化を語った。
マイム俳優のイ・サンさんは、周りのマイム俳優がほとんど男性で、#MeToo以前は師匠の性的な要求も受け入れていたと振り返った。#MeTooが広まるなかで、特に「李潤澤(イ・ユンテク)事件」をきっかけに自分が置かれた搾取的関係について考え直したという。「電気がついたら自分が暗がりにいたことが分かった」と話していた。
韓国演劇界の巨匠、劇作家兼演出家の李潤澤も#MeTooで失脚した大物の一人だ。複数の女性が相次いで被害を訴えた。日韓の演劇交流にも長く携わってきた人物で、日本の演劇関係者の間でも衝撃が走った。
イ・サンさんは「多くの人と問題を共有したい」と話し、作品を通して自身の経験を表現した。インタビューでの清々しい表情が印象的だった。文化芸術界では#MeToo運動を経てセクハラや性暴力防止のための制度も整い、確実に「良くなった」と感じる人が多いようだ。
「100.私の体と心は健康になった」(イ・ソミ監督)は、幼少期の性暴力のトラウマに長年苦しむ女性が意を決して被害を打ち明ける過程を追い、「グレーセックス」(ソラム監督)では恋愛や性的コミュニケーションに関する被害/加害のグレーゾーンについて4人の女性が語る。
監督も出演者も若い女性が多く、運動の中心がSNSを駆使する若者だったことを改めて実感した。連日#MeTooのニュースが報じられた2018年から5年、韓国で暮らす筆者の目から見れば、#MeTooを経てアンチ・フェミニストが増え、男女の対立が深まるなど、肯定的な結果ばかりではないが、性被害について声を上げるハードルが下がったことは間違いない。日本では#MeTooが盛り上がったとは言い難く、まだまだ性被害をがまんしている人が多いはずだ。隣国の経験をドキュメンタリーを通して共有することが、勇気を出して一歩踏み出す一助になればと願う。
9月16日より全国順次公開
写真提供:映画社グラム