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柘植あづみ・西山千恵子 「そこまでして早く産ませたい?――ウソを“科学”といいくるめる副教材」

西山千恵子2015.11.11

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今年8月、高校生向けの「正しい妊娠・出産の知識」についての副教材が問題になったのを、覚えていらっしゃる方、多いと思います。 なぜこの副教材が問題なのか? 大変なスピードと行動力で、この副教材の問題点について声をあげた西山千恵子さん、柘植あづみさんに、「ことの発端」から、現状、そしてこれから私たちが見ていくべきこと、についてご寄稿いただきました!(ラブピ編集部) 【医学的・科学的に正しい知識を高校生に?】 ことの発端はこうだ。 2015年8月21日、有村治子内閣府特命担当大臣(当時)が記者会見で、文部科学省が内閣府と連携して保健体育の啓発教材(副教材)を改訂したと紹介した。8月下旬に全国の高校1年生に配布するという。とくに「妊娠のしやすさが年齢に関係していること、また、男女ともに不妊の原因になる可能性があること、若いうちからライフデザインを考えることが重要である(中略)など、これまであまり取り上げられてこなかった、医学的・科学的に正しい妊娠・出産の知識等について」記述したと強調した。 同日、毎日新聞は「文科省:妊娠しやすさと年齢、副教材に 高校生向けに作製」と報道し、副教材にある「妊娠のしやすさの年齢による変化」グラフの写真を掲載した(図1)。

umuumu1.jpg 図1 毎日新聞に掲載された副教材の写真 (出典:毎日新聞 2015年8月21日山田泰蔵記者撮影) umuumu2.jpg 図2 「妊娠のしやすさと年齢」出典:文部科学省高校生用「健康な生活を送るために(平成27年度版)」40ページより

 

【それって、産め産め詐欺グラフ】 報道直後から、ツィッターでは様々な専門家がグラフの出典を検証し、副教材のグラフが出典と見かけが違うこと、出典の表示が不適切であることなどが議論された。とくに、もっとも妊娠しやすいとされる年齢が、出典では24-26歳くらいに描かれて、その後ゆるやかに低下しているのに、副教材では22歳がピークになっていて、その上「医学的に、女性にとって妊娠に適した時期は20代」との解説までついている(図2)。このかん、早くから間違いに気づいた高橋さきの(科学技術論)から柘植に「この記事とこの論文を読んでみて」とメッセージがあり、検討を続けた結果、このグラフは単なる「誤り」ではなく、意図的に改ざんされたという疑念が強まった。数日後の8月25日には毎日新聞のほか、読売新聞、朝日新聞が一斉に「妊娠しやすさグラフに誤り」と報じた。

 

【戦争法案の準備と共に…】 おりしもこの時期、安全保障関連法案が成立するかどうかの瀬戸際を迎えていた。8月30日、戦争法案に反対する国会前行動で一緒にいた西山と、セクシュアル・マイノリティのための人権団体、レインボー・アクション(以下、RAと省略)の大塚健祐が話し合った。戦争できる国への態勢作りと並行して、脅迫的なウソ教材を配り、15、6歳の生徒たちに若年出産の圧力をかけるわけ? まさに「産めよ殖やせよ」だ。抗議行動を起こさねば。 翌日、西山は旧友の柘植にメールを入れ、副教材の勉強会に向けて副教材全体の検証をすることにした。すると、「妊娠しやすさ」グラフだけでなく、ほかにも誤りや不適切な表現が続々と見つかった。この副教材が有村大臣の強調する「医学的、科学的に正しい知識」ではないのは明らかだ。こんな教材が130万部も全国の高校生に広まってはいけない、どうしても食い止めなければ、という気持ちが強まった。 9月1日に、毎日新聞は「文科省:副教材、訂正を通知 「妊娠しやすさ」グラフ」と報道した。文科省は「正しいグラフ」への差し替えを決めたのだった。しかし、差し替えられた訂正グラフにもまだ大きな問題が残っている。

 

 

【間違いは「妊娠しやすさ」グラフだけではない―9.11高校生にウソを教えるな!集会】 9月2日夜、2年前「女性手帳に反対する緊急ミーティング」を呼びかけた大橋由香子も加わり、女たち4人が集会準備の打合せをした。学習会ではなくて「抗議集会!」にすると決まった。翌々日にはRAの共催が確定し、すぐに各種ML、ツイッター、FBに広報を打った。題して、「高校生にウソを教えるな!――高校保健・副教材の使用中止・回収を求める緊急集会」。 9月11日、わずかな準備期間で、平日夜に、定員70人の会場が埋まる参加者が集まった。それだけ関心が高いということだ。女性が圧倒的に多く、年齢層は多様である。知った顔には、女性運動やNPOなどのメンバーのほか、教員、医師、新聞・雑誌記者も少なくない。関西からの参加者もいる。 集会では6人が報告した。 ① 「妊娠しやすさ」グラフの誤りと改ざんの問題。「訂正」後のグラフにしても、もともと半世紀前の外国の社会的な要因を含めたデータであり、生理学的な「女性の妊娠しやすさ」を表すものではない。大きな誤解を引き起こす。 ② 「子どもとはどのような存在か」グラフのデータの誤り。「未婚・既婚を問わず(中略)尋ねた調査結果」とされているのに、「既婚者のみ」の数値が出され、「生きがい・喜び・希望」「無償の愛を捧げる対象」とする回答割合が、全体より高い。(これも改ざんか?)。 ③ 「不妊で悩む人が増加している」という間違ったキャプション。掲載されているのは不妊で悩む人の増加を示すグラフではなく、体外受精の「件数」が年々増加するグラフだ。 ④ 「年齢別に見た周産期死亡率」の説明文の誤り。30代後半での胎児、新生児の死亡率の高さやリスクばかり強調し、20歳以下の若年層のリスクは無視。 ⑤ 性感染症の説明においてセクシュアル・マイノリティの存在がことさらに見えなくされていること、異性愛を前提とした上に、女性側を「危険な感染源」と暗示する性差別主義の啓発ポスター(図3)掲載の問題。 ⑥ 「がんの6割は普段の生活と関係している」とあるが、グラフの数値を合計しても5割ほどの数値にしかならず、「6割」は単純な間違い。 poster_kansenshou.jpg これらの間違いや不適切な表現がつぎつぎに指摘されると、そのたびに会場がどよめき、苦笑がもれた。さらに女性の結婚→妊娠→出産を強調するライフプランだけが掲載されていることや、「年齢が高くなるほど胎児の染色体異常などの可能性が高まる」とか「母体の妊娠・出産に関わるリスクも高くなる」などの高校生を脅すような説明が紹介されるころには、怒りが共有されていった。 集会の最後に、内閣府の有村少子化担当相、下村博文文部科学大臣宛てに、副教材の使用中止・回収を求める要請文を採択した。会場を出る人たちの多くが、「良い会だった」「タイムリーだった」という言葉を残していった。

 

 

 

【文科省・内閣府からの回答―見解の相違?】 集会後も「高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会」の活動は続く。集会の要請文とともに、副教材中の誤りを指摘した詳細な資料と質問書をつけて、参議院議員の神本美恵子さんを通して文科省と内閣府に送った。神本さんの秘書が集会に参加していたからだ。  その後、文科省と内閣府の担当者からの回答を聞く面談が実現した。回答を簡単にまとめると、①「妊娠しやすさ」グラフの傾きの間違いと出典の誤記入については、有村大臣が記者会見で謝罪し、すでに修正(正誤表)を高校に配布した。②「がんの6割は普段の生活と関係している」グラフのキャプションについても、間違いを認めた。③「子どもとはどんな存在か」グラフのデータと説明の誤り(改ざん?)については、厚労省に確認するという回答。それでこちらからも厚労省に電話したら、誤りを認め、グラフの差し替えをするという返事だった。後日、正誤表が出たけれども、私たちの納得のいかない修正だった。 この3箇所以外にも、私たちは多くの問題点を指摘したが、「見解の相違」、「そんな意図はございません」で終わった。

 

 

 

【意図的改ざん、歪曲、誘導か?】 私たちが、この副教材の「妊娠しやすさ」グラフやその他の間違いは、単純な間違いではないとするのには、いくつかの「状況証拠」がある。 その一つは2015年3月20日に「少子化社会対策大綱」が閣議決定されていることだ。これには、「結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現に向けて、社会全体で行動を起こすべき」と書かれ、「結婚、妊娠・出産、子育ての各段階に応じた切れ目のない取組」がうたわれている。「重点課題」には「自治体や商工会議所による結婚支援」などが掲げられ、「きめ細かな少子化対策の推進」として「教育 ・妊娠や出産に関する医学的・科学的に正しい知識の教育」が強調されている。今回の副教材の大幅改訂は、そもそも「産ませる」政策の目玉として実現されたというわけだ。 この「医学的・科学的に正しい知識の教育」が少子化対策大綱に入った経緯をたどると、3月2日に遡る。この日、日本産科婦人科学会など9団体の代表が有村大臣を訪れ、「学校教育における健康教育の改善に関する要望書」を提出した。9団体には日本産婦人科医会、日本思春期学会、日本家族計画協会なども含まれる。有村大臣は9団体から「医学的にみて妊娠・出産に適した時期、加齢によるリスクなどの正しい知識についての教育の必要性を御指摘いただいた」と発言している。 →http://www.cao.go.jp/minister/1412_h_arimura/photo/2015-010.html 少子化対策に積極的な専門家たちは「医学的に正しい知識」の教育を政府に働きかけ、「協力が必要な場合は責任をもって対応」するとまで申し出ていたが、彼らが協力した副教材にはいくつもの間違いが見つかり、そのすべてが、若いうちに妊娠・出産するよう圧力をかけようとするものだった。なぜこんな間違いが生じたのか。 近頃、少子化対策を支持する産婦人科医や人口学者が、若いうちに妊娠・出産することを推奨し、「卵子の老化」が不妊の原因になることや、日本人の妊娠・出産に関する知識が他の国々に比べて低いことを、メディアで問題にしている。芸能人の結婚発表に乗じて「たくさん産んで」と発言した菅官房長官も依然として居直ったままだ。全国の自治体でも副教材と同様の啓発冊子が作製、配布されている。これらの動きは、「女性手帳」を撤回させられた政府が挽回しようとするかのようだ。広く目を光らせていかなければ、「産めよ殖やせよ」という情報操作が知らないうちに進められると気づき、焦燥感が募る。  そこで、内閣府、文科省からの回答の報告と、「専門家」の社会的責任の追及などの新たな問題提起を含め、再び、11月30日(月)18時半から、東京ウィメンズプラザにて、RAと共催で集会を開催する。ぜひ、参加を! 詳細は以下を参照ください。

 

 

高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会 http://fukukyozai.jimdo.com/ 高橋さきの 2015 「「妊娠しやすさ」グラフはいかにして高校保健・副教材になったのか」『シノドス』http://synodos.jp/education/15125 line.jpg profile_nishiyama.jpg西山千恵子/にしやま・ちえこ
青山学院大学非常勤講師
昨年は「産め産めヤジ」で、今年は「産め産め詐欺」で集会を呼び掛けました。
パブリック・アート(公共彫刻)のジェンダーの問題に取り組んでいます。
「芸術といえば何でも許されるのか連絡会」会員。 line.jpg profile_tsuge.jpg柘植あづみ/つげ・あづみ
明治学院大学教授
生殖医療に関する調査研究をおもにしています。
NPO法人女性の安全と支援教育センター理事、フィンレージの会スタッフ。
著書に『生殖技術―不妊治療と再生医療は社会になにをもたらすか』みすず書房など。 line.jpg

 

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西山千恵子(にしやま・ちえこ)

青山学院大学非常勤講師
昨年は「産め産めヤジ」で、今年は「産め産め詐欺」で集会を呼び掛けました。
パブリック・アート(公共彫刻)のジェンダーの問題に取り組んでいます。
「芸術といえば何でも許されるのか連絡会」会員。

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