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ノエルあれこれ

中島さおり2016.12.26

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 クリスマス、フランス語では「ノエル」という。日本ではもう数十年、恋人と過ごす日になっているらしいが、フランスではー他の欧米諸国同様ー家族で過ごすのがお決まりの一大イベントだ。「家族」と言っても核家族ではなく、お祖父ちゃん、お祖母ちゃんを中心としてすでに独立した息子、娘つまり兄弟姉妹がその子どもたちを連れて一同に会する。成人したいとこや高齢の伯父伯母が混じることもある。
 日本だったらクリスマスよりはお正月にあたる行事といえようがお正月は核家族で迎える人も多いようだから、本当に同じような家族再会の機会といったら、もしかしたら法事以外にはないのかもしれない。
 この日に一人でいるなんてことは、あってはならない「可哀想なこと」で、故国に帰れない留学生などは、極力、友人や知り合いの家族が受け入れてくれる。私も30年近い昔、下宿先のマダムの親類およそ20人の大きなテーブルの末席に連なったことがある。

 ノエルはご存知のとおり、もともとはイエズス・キリストの降誕を祝うキリスト教の祭日だが、近年ますます宗教的色彩は薄くなり、単に「サンタクロースが良い子におもちゃを持って来る日」「家族でごちそうを囲む日」に名実ともに変わりつつある。だからイスラム教徒であろうとユダヤ教徒であろうとこだわらずにノエルを祝う(正確に言えば、ユダヤ教には「ハヌカ」という聖書に由来する伝統的な祭りがあり、彼らが祝っているのはそっちなのだが、奇しくもクリスマスとほぼ同時期、今年は偶然にもまったく同日だった)。
 降誕祭は昔から存在してはいたが、中世にはカーニヴァル形式で祝っていたそうで、子どもを中心に家族で祝う現在の形式が始まったのはそんなに古い話ではなく、19世紀の中頃からの「伝統」に過ぎない。
 もともと宗教行事としては「復活祭」の方が格上なのに、赤ん坊イエスの誕生を祝う「降誕祭」が「復活祭」と争う重大行事となったのは、「家族」や「子ども」の価値が浮上したからだから、そもそもそのときからノエルが今日、こうなる運命は定まっていたのかもしれない。

 そんなわけでノエルは、キリスト教と言うよりも、近代ブルジョワ家族イデオロギーの祭典、くだいて言えば、お祖父ちゃん、お祖母ちゃん以下、兄弟姉妹、孫たち、いとこ同士、血でつながれた縁者らが仲良く愛し合い助け合って子どもを育てる、その素晴らしさを讃えよう、と言うお祭りである。
 シャンパンを開け、フォアグラを前菜に七面鳥やシャポン(普通の鶏より大きく育てた去勢鶏)やジビエ(野生の鳥獣)をいただく。デザートはロールケーキにクリームを塗って木の切り株のようにデコレーションしたブッシュ・ド・ノエル(クリスマスの薪)が定番。
 親戚、友人からのクリスマス・プレゼントは全部、集められて、その晩か翌朝、クリスマス・ツリーの下に置かれているのを子どもが発見して狂喜乱舞するという演出だ。

 ところが「家族」へのフランス人たちの思い入れを反映した行事であるだけに、悩みや不安のタネにもなるようだ。2014年に行われたある調査によれば、フランス人の10人に4人は、クリスマス・ディナーの間に口論が起こることを心配しているという。理想的な家族を演じなければならないことにプレッシャーを感じる人も少なからずいる。少し前の映画だが、アルノー・デプレシャンの『クリスマス・ストーリー』のように、家族のメンバーが葛藤や抑圧を抱えて再会するドラマは、おそらくあちこちで起こっているのだろう。
 しかも離婚と子連れの再婚が珍しくなくなった社会で、ノエルは子どもたちのために離婚した男女が再会したり新しい連れ合いを伴って参加したりする場となる場合も多い。社会学者のイレーヌ・テリーは、現代フランスの家族は、子どもを核としたつながりに変化していると言うが、ノエルはそれを如実に反映している。
 一方、大都市を中心に、帰省できない人々が友人同士また核家族に友人を交えて祝うノエルが広がっているという話も聞く。伝統的に友人と祝う大晦日の年越しパーティーと差がなくなってしまいそうだが、大晦日の方は、知り合いの知り合いといった、まったく知らない人が招待客のなかに混じっていても構わないようなパーティーだから、ノエルの方は「家族代わり」になるような親密な仲ということで差別化するのかもしれない。
 ノエルを見ていると、フランスの家族のありようが見えてくるような気がする。

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中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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