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 「このクラスには悪い雰囲気があります。いじめられている子がいます。今日、帰ったら、お子さんに訊いてみてください。子どもたちは、からかっているだけと言うかもしれませんが、放置しておくわけにはいきません。自殺など起こってからでは遅いですから」
 9月は新学期。今年、高校に進学した息子の初めての父母会の冒頭、クラス担任の先生は、こう口を切った。

 9月の新学期初めに子どもの自殺が相次ぐという日本のような現象はないが、フランスにも苛めは存在する。
 2013年の2月に、マリオン・フレスという13歳の少女が、何ヶ月にもわたって自分を苛めた中学の級友たちを名指しで告発する遺書を残して自殺した。この事件は、昨年「マリオン、永遠の13歳」というタイトルでテレビドラマにもなった。
 適切な対応をしなかった、する枠組みを作っていなかったという理由で、学校の責任、さらに国家の責任も問われた。マリオンの両親は、苛めっ子と引き離すためにクラスを替えて欲しいと要求していたのに、学校側はこれを無視していたし、事件後も両親との面会を避けていたのだ。
 苛めへの意識が高まり、法的にも、2014年に学校における苛めが軽犯罪と刑法に定められた。また2015年には苛めの犠牲者のためのフリーダイヤルが開設された。

 このような動きの中で、教育界でも苛めへの取り組みに変化があったのだろう。
 担任の話を聞いて、教師がこれだけイジメに敏感であれば、生徒が自殺するようなことはまずないと私は確信したが、実は別の疑念が湧いて心配になった。まさか、ひょっとしてその犠牲者はうちの息子ではあるまいか?
 夏休みの終りごろから、息子が中学時代のグループから仲間はずれに遭っていたのだ。細かい話は省略するが、息子は高校で新しい友だちを作ればよいから「辛いのは長くても1ヶ月」と冷静に対処していたので私も信頼して見守っていたのだが、もしや誰かの陰口で、苛めが高校の新しいクラスにまで伝染したのでは困る…
 父母会が終わった後で個人的に担任の先生と話そうかと思ったが、同じ考えの親御さんで列ができていたので、そのまま帰った。

 「ぼくじゃないよ」と息子は言った。彼の中学ではなく高校と同じ校舎の中学から来た子で、「ちょっとからかわれている」子がいるのだと言う。仲間はずれにされる辛さはよく分かったあなたなのだから、その子と友だちになってあげなさいよと言おうとしたが、今、新しい友だちの輪に入って行きたい彼には、苛められている子に近づいて自分もいっしょに排除されてしまう危険は冒したくないだろうとも思ったので、言わなかった。
 「今、子どもたちは新しい仲間とのコンタクトを探って、力関係を計っている、微妙な時期なのです」という担任の先生の言葉が思い出された。「苛めは、グループの求心力を高めるためのスケープゴートですからね。」
 なるほど中学の終りごろに形成された20人ほどのグループの団結を強めるため、スケープゴートにされてしまった彼だったが、新しいクラスの中で、どういう立ち位置を占めるか、距離を計っているに違いない…

 父母会があった週の金曜日、息子は新しいクラスで友だちになった子に呼ばれて、20人くらい集まる夕食に出かけて行った。順調に新しい学校にも馴染んで来たようなので、「苛められている子」のことをもう一度、訊いてみた。「来てたけど」と言う。それではそれほど仲間はずれにされているわけでもないのだろうか…
「外しているわけじゃないんだけど、話に入って来ないんだよ。呼んでもポツンと一人で離れてる」とのことだ。
 これだから苛めの見極めは難しい。招待はされているわけだし、「先生は苛めと言うかもしれないけど、それほど酷いことをしているわけじゃない」という息子の証言通りなのかもしれないが、会話の輪に入って来ないのは何らかの抵抗があるからだろう。「ちょっとからかってるだけ」と、やっている方は言っても、やられる方は心底、傷ついているのかもしれない。
 苛め問題が本当に難しいのは、何が苛めかを決める客観的基準がなくて、ただ苛められる子どもの感じ方だけが、それを決めるからである。

 『苛め、100の質問』という本を書き、苛め問題に関する相談と研修のセンターを開いたエマニュエル・ピケは、苛められる子に、苛めから脱却する方法を伝授している。「苛められるのはあなたが小さかったり、赤毛だったり、服装のせいだったりするわけではない。あなたが傷つき易く、それが外に見えるからだ」と言うピケは、傷つき易さを乗り越える力を養成しようとする。
 「苛めっ子のアキレス腱は、その子自身が周囲に及ぼしている力、人気です。それを失墜させてやる切り返しをするのです。みんなが観ている前でね」
 たしかに、そんなことができれば、苛めっ子に簡単にトドメを刺せそうだ。しかしそもそも、かなりの苛めも苛めと感じずに対処できそうな気もする。傷つき易い子を傷つきにくい頑丈な子に育てることはできるのだろうか?

 フランスではおよそ70万人の子どもが、苛めの被害者になっていると国民教育省は推定している。

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中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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