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黄色いベストと直接民主主義

中島さおり2018.12.27

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 燃料費高騰への抗議に端を発し、11月17日に始まったGilets Jaunes (黄色いベスト)の運動は、日本でも大きく報道されたので大筋はご存知だろう。富裕税を廃止する一方で、住宅援助は削減(しかも5€の削減など大した変化ではなかろうという貧困層への理解の無さ!)など、あからさまな富裕層優遇の政策を続けて来たマクロン政権が、環境対策と銘打って軽油・ガソリン税の値上げを目論んだところ、車なしで生活が成り立たない地方在住低所得層から、もう我慢できないと抗議の声が上がり、ネットを通じて雪だるま式に大きくなって行ったのだ。

 12月1日と8日、当初の要求に加え様々な社会政策およびマクロンの辞職を要求するに至った3回目、4回目のデモで、シャンゼリゼ大通り、オスマン通り、オペラ通りなどの目抜き通りで、デモ隊が治安部隊と衝突して催涙弾やが投げられ、店が壊されバリケードが築かれ車や建物が燃やされる衝撃的な映像は世界に衝撃を与えた。

 ただしパリなど大都市でデモが行われるのは土曜日だけで、「黄色いベスト」の拠点は、地方の道路のロータリーだ。あちこちのロータリーに、黄色いベストを着た人々が集まって、通る車を通行止めして主張を訴えており、これはクリスマスも家に帰らないで続けている。

 マクロン大統領は反応が鈍く、当初は対応も首相に任せきりだっただったが、「マクロン辞めろ」と、スローガンが「燃料税反対」を通り越し大統領の首にフォーカスするに至って、とうとう12月10日、事態を収拾するための緊急対策として、最低賃金を2019年1月から100€アップ、年末の特別手当、残業代免税、年金が月2000€以下の者はCSG(社会保障関連税)値上げ据え置きなど、購買力アップのための政策を約束した。

 「黄色いベスト」はこれを一定評価しつつも、失業者への対策、最低賃金より少し上の給与所得者対策がないこと、財源が税金だが、富裕層優遇のためになくした富裕税の復活については考えてないことなど対策不十分として15日に5回目、22日に6回目のデモを続行した。

 5回目以降のデモは参加者人数が半減したが、マクロン大統領の緊急対策に満足して運動は終息に向かっていると考えるとしたら、それは間違いだろう。「黄色いベスト」が投げかけた波紋はもっとずっと大きい。運動は穏健派と急進派に分かれる様相も見せており、運動の方法については変えるべきと思う人は多いようだが、「黄色いベスト」の要求への支持自体はそれほど落ちていない。

 12月15日以降、運動は新しい局面に入ったと考えられる。その要求は多岐に渡り、運動主体の人々も様々なので、ひとまとめにしたり、全てを吟味することは私の力を超えるが、その中で、特に5回目のデモの要求で大きく浮上して来たRIC (référendum d’initiative citoyenne 市民のイニシアチブによる国民投票)について書きたいと思う。

 RICとは、法律を起草したり廃止したりする権利を市民に与えるもので、例えば現在はリコール権を与えられていないフランスの市民に、議員や大統領を罷免することができるようにする。また、国民生活や国の方針に関わる重要法案を、そうしたいと思えば国民が起草して、投票にかけて是非を問うことができるようにする。「黄色いベスト」が要求しているのは、まずそういうシステムを憲法に書き込むべく憲法改正をせよということだ。具体的には、「独立した機関のコントロールの下で70万筆の署名を得た法案は国民投票にかけられる」とするよう提案している。

 RIC自体は、大統領選第一回投票で、大躍進した極左政党のメランションの公約にあり、リコール権は社会党の候補だったアモンが掲げていたが、この要求の担い手が「黄色いベスト」というところに意味がある。

 そもそも「黄色いベスト」は、従来のデモとは一線を画す特徴を持っている。ひとつは担い手が政治色のない、地方の普通の人たちで、組合やNGOなどでない。また呼びかけがFacebookを使って自然発生的に行われていて、運動のリーダーもなく(運動の中でだんだん生まれてはきたけれど、それも夫々のロータリーを背景に複数生まれている)、普通は申請することになっているデモの許可も取っていない。そういう中から、議会による代表制民主主義に代わる直接民主主義を志向する要求が出て来た。

 デモはもともと市民が直接声を上げるという点で、直接民主主義につながる要素があるが、デモで何かが決まるわけではないので直接民主主義そのものでは無い。デモの要求を考慮しながら政権や議会が動くということで、民意が反映されにくい代表制民主主義の欠陥を補う手段と考えられる。署名運動やデモなどによって代表制民主主義の欠陥を補った形の民主主義は「参加民主主義」と呼ばれる。

 しかし「黄色いベスト」は、現在の議会制民主主義では自分たちの意見は全く代表されていない、自分たちの政治に参加する権利(主権)は簒奪されてしまっていると感じて、「選挙を通して代表を選ぶ」以外の方法を提案した。私は、暴動が激しかったという以上に、このことが革命的だと思う。

 フランスは長い間、保守系の党と左翼系の党の政権交代でやって来ていたが、近年、既成政党はすっかり人々の支持を失なってしまった。それがはっきりと見えたのが前回の大統領選で、シラクやサルコジを出した保守系政党もミッテランやオランドを出した社会党も第一回投票で姿を消してしまい、決選投票は極右のルペンと俄か新党で議員の経験すらないマクロンの一騎打ちという異変が起こった。既成政党への失望と極右政党への嫌悪と新し物好きの期待を一身に集めてマクロン大統領が誕生したが、既成政党の没落を背景にマクロンの政党 (LREM)が議会の多数も握りマクロンの親政のようになった。だから、現行の政治に対する「黄色いベスト」の不満は直接マクロンに向かう。マクロン政治と「黄色いベスト」は、ある意味、同じ現象を背景にしているのだ。

 「黄色いベスト」運動への対応として、マクロン大統領と政府は今後、「国民的大議論」を行うと宣言した。まだ内容ははっきりしないが、「エコロジー移行」「税制」「国家組織」「民主主義と市民権」の4つのテーマについて、抽選で選ばれた市民による公聴会になるらしい。この中で、RICも対象になるだろう。すでにテレビの討論番組などでは、スイスの直接民主制について専門家が話すなど、RICの可能性について話題になっている。

 あくまで代表制民主主義にこだわる意見から、RICの原則は認めても具体的にどう可能なのかを考える意見、近年の国民投票の性質、行うにあたっての危険性なども含め、議論はとても興味深い。

 ちなみに70万筆の署名という規模を考えるのに、「黄色いベスト」運動の発端となった燃料税値上げ反対のネット署名は110万筆を集めたことを指摘しておく。また、署名数の最高記録は、最近、環境4団体が呼びかけた「気候変動に対する国の無策」を責める署名で、12月26日現在170万筆を集めている。

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中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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