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第二回 田中美津 「50,60になって再びワテらはスタートラインに立つ」

田中美津2014.04.15

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 生来虚弱、それなのに鍼灸師なんてしてるから、しょつちゅう自分の身体にもハリを打つてる。座ってる姿勢で打つでしょ、だから筋肉が緩んでない分入りにくい。しかも狙う場所は主に腰や背中や肩甲骨だから非常に打ちにくいし、時間もかかる。その間はもうテレビを見ることくらいしかできない。ボーっとした顔で1日中ミステリーや時代劇を見てるという日も少なくない。
ボーっとはしてても番組は選ぶ。画面を見ればすぐわかるもの。目の周りマックロの厚化粧が出てくるような番組は、たいていつまらない。時代劇なのにつけまつげしてるなんて最低。そんな厚化粧は女に限らない。30年くらい前に作られた再放送番組を見てたら、杉良太郎や田村正和が厚化粧でチャンチャンバラバラやっていて、あまりにも濃くて笑ってしまった。
でもよく考えると厚化粧が出てくる番組のつまらなさは、男を知ってる女は厚化粧、知らない純情な女は素顔という、いわば陳腐な男目線で作られているところに問題があるのね。純情イコール素顔と考えるような思考停止の単純男には、斬新なストーリー展開なんて望むべくもない話だ。
そういえばリュック・ベッソン製作・脚本のサスペンス・アクション「トランスポーター」にも時に厚化粧のヒロインが出てくるけど、人生を自分の意思とこだわりで駆け抜けていくそのカッコ良さに、ただただしびれる。主演のジェイソン・ステイサムの魅力・迫力にまったく負けてないもん。女をどう捉えるかという問題を通じて、男たちは真実自分が何者なのかを告げていく。リュック・ベッソンはええ男やなぁ。
「アマちゃん」なんかいい例だけど、今どきの番組って厚化粧の女はあまり出てこない。夜8時台の西村京太郎や山村美紗作のミステリードラマでしかもう厚化粧は見られないような。うん、厚化粧には焦燥や翳りの現れ的な面があるからね。テレビは世を映す鏡。万事明るいわかりやすさが好まれる昨今、焦燥や翳りを現わす厚化粧は、今やテレビ界から淘汰されつつあるのかも。
サスペンス劇場に出てた若尾文子や、横溝正史作「犬神家の一族」の岡田茉利子。どちらも昔はとっても綺麗な女優さんでね。でもある日テレビを何気な見てたら、突然アップで彼女らが出て来て、そのド迫力!あぁ~ビックリした。
「歳には絶対負けないわ」といった、やたらリキが入った厚化粧。美の追求もあそこまでいくと、もう美醜を超えて、ただ凄い。番組は怖がらせるのがウリのサスペンスや横溝正史ものなのに、一番怖かったのは彼女らの凄まじい厚化粧、つまり自己執着だった。
肌はたるんでるし、皺も深い、シミもある。そんな顔にファンデーションを塗りたくり濃いアイメーキャップを施すと、美とは遠いもの狂おしい焦りや修羅の心が表現されてしまうのよ。
浅丘ルリ子の厚化粧も凄い、怖い。ギョッとして、なまじ綺麗だった人は大変だなぁ、「若い時の美しさよ、今一度」の妄執を生涯生きていくんだろうか。もちろんザマーミロという気持ちがないわけじゃない。生まれつき綺麗だということで、若い時はずいぶんいい目を見たんだから、歳とって妄執をさらしてくれると、あぁヤッパ天は平等だわと、しみじみ嬉しい。
昔は昔、今は今よ。この世に生まれた時が最初のスタートライン。そして50,60になって再びワテらはスタートラインに立つ。不運にも器量よく生まれなかった女にとって、それは敗者復活の時。今はもうこの私が好き、この私でよかったという思いを通じて、敗者は静かに復活していく。
長い時間をかけて諦めを味方に付け、諦めを力に変えて、笑顔や安らぎをゲットしていく。諦めることで得られる力があるなんて、若い時は考えもしなかったけど。
長い間天にメチャクチャ文句を言ってきた。なぜもっと教養のある親のところに生まれるようにしてくれなかったのよ。なぜ私はチビなのよ、虚弱なのよ、どうして美人にしてくれなかったのよ等々。
しかし年月とともに天からの授かりものに恵まれなかったからこそ、ゲットできたものばかりの私じゃないかと気がついた。教養はなかったけど正直で率直な親に恵まれ、虚弱だったせいで、身をもってからだとこころの関係を知った。美人じゃなかったから、なくてもいいプライドを抱えることもなく、そして何よりも、恵まれない分だけ、諦め力が身に付いた。
少しずつ諦めてきた。それは・・・これだけは諦めたくないというものが判明していく道のりだった。歳を重ねてパワーは陰っていくけれど、諦めたくないものをしっかり抱えていれば、凛として最後まで生きていけるような気がする。
厚化粧に感じる傷ましさ。それは優越感の裏返し、だけじゃない。人であることの切なさ、年月の残酷さ、ありのままの自分を愛することの難しさ・さまざまな思いが一度に去来して、なんだか苦しくなるのよね、厚化粧を見ると。
だいたい素顔全盛なんて気持ちが悪い。明るく素直で前向きな主人公とその周りのやさしい人たちのテレビドラマが受けるのは、現実がより翳りに満ちてきた証拠・・・・じゃなければいいけど。

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田中美津(たなか・みつ)

1943年生まれ、70年代のリブ運動で頑張りすぎて、心身よれよれに。
休暇を兼ねて1975年にメキシコで開かれた国際婦人年の催しに参加。
そのまま4年余を彼の地で暮らし、ご縁あって未婚の母となる。
帰国後は1子を育てながら鍼灸師として悩める女たちを助けてきた。
その生活も今年で30年目。あと5年は続けたいなぁと願っている。

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