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捨ててゆく私 Vol.43「ナマ美輪」

茶屋ひろし2007.09.19

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美輪明宏のコンサートに行って来ました。
いえ、美輪様を拝みに参りました。
そう、歌のライブに行くというより、なんだか寺社仏閣に参詣するような気持ちでした。


いつのまに美輪さんは私の中で神様に変わったのでしょうか。十年前に自伝「紫の履歴書」を読んだ時はまだ、オカマの大先輩といったイメージだったのに、もうオカマであることなどどうでもいいことのようになってしまっている勢いです。
霊、とか、魂、とか、オーラといった言葉が私の日常に飛び交っています。それはもちろん、相方のバイトちゃんにスピリチュアルパワーが芽生えてきたからなのです。今回はそのオーラちゃんも、別の日に同じ公演に行くことになっていました。
お先に私が行って参りました。

「愛の讃歌」が聞きたい! というより、「愛の讃歌」をうたう美輪様の、背後に輝く観音様のような金色のオーラが私にも見えるかどうか、が最大の関心事でした。オーラちゃんはテレビの画面からでも見えると言いますが、残念ながら私には見えません。ナマ美輪ならもしかして・・! と思ったのです。

「演出上の都合により非常灯を消させていただきます」と場内にアナウンスが流れて会場は真っ暗になりました。美輪様の登場に一筋のスポットライトが当たります。浮かび上がるお姿。私は霊視を試みます。姿勢を正して目を半開きにして対象物の背後を見るのです。
だんだん潤んできた瞳に黄色いライトがぼやけて、美輪様の後ろに輪が生まれてきました・・! ふと会場の壁を見ると人魂のような光が飛び交っています。もしや・・! と思います。美輪様のドレスに散らばるスパンコールと宝石が乱射しているだけかもしれない、という思いも頭をよぎります。「不倫」という歌を情熱的に歌い上げた美輪様が、真っ赤に染まった舞台で、短剣(マイク)を喉に突き刺すようなポーズでシルエットになりました。その直後、ブツ! と大きな音がしました。
明るくなった会場で美輪様がトークし始めると、マイクの音が入っていません。

「河合ちゃん、マイク!」と美輪様が舞台の袖に向かって叫びました。河合ちゃん(男子)が出てきて新しいマイクと交換します。
「霊魂は電気系統に反応するんですよ。私が歌うとよくマイクが壊れるんです。今日は会場に、よほど位の高い霊か魔界のモノが来ているみたいですね、ふふふ」
美輪様はこともなげに仰いました。

私は自分がこの世にいないような感覚に襲われました。そうです。演出上、美輪さんが自分でマイクの電源を切ったなどとは思いません。楽しい初体験です。

アンコールで美輪様が「花」という歌をうたいだすと、観客に憑いている総ての霊が一斉に除霊されてゆくという話を聞いていました。テレビで江原啓之さんが、客席中からスモークのようなものが噴き出してきて、次から次へと天井に上って消えてゆくのだ、と言っていました。「花」が始まりました。最後のチャンスです。私は客席から会場全体を上下に霊視してみます。視界はとてもクリアーでした。

後日オーラちゃんに感想を聞くと、江原さんの言った通りだったよ、と答えが返ってきました。
「えーなんかいいなーそういうのが見えて。見えない人より楽しんでいるような気がする」
もういい加減、わざと、です。霊や魂やオーラを見ることのない私は、信じるかどうか、ではなくて、その世界を楽しむかどうか、に止めておきたいのです。初めて観た美輪さんの舞台は楽しいものでした。それは彼がもう長いことエンターティナーであり続けている結果という気もします。

オーラが流行りだしてしばらくすると、夜中に電話をかけてくる女ともだちの話も「オーラ」でケリがつくようになっていました。
結婚したいのに、なぜ出来ないのか、こないだの男とはなぜダメだったのか、今度の男とは可能なのか・・。
これまで繰り返される話はたいてい、「それで占いに行ってきたの」で、その日の電話のオチがついてきました。それが、「サイキック・リーディング(過去世を占う)をしてもらったの」に変わり、前世の話が出てオーラの色の話になり、「だから今は出来ないの!」と彼女は一人で明るく納得して終わるようになりました。

私も、まあ彼女が元気になるならいいか、とあまり考えません。ただ、結婚問題がオーラ診断で解決したのかと思うとそうでもないようで、しばらくするとまた同じ内容の電話がかかってきます。
以前、美輪さんがテレビで、「今の人は結婚を軽く考えすぎです。昔の女にとって結婚とは、これまでの一切を捨てて、相手の家に全てを捧げるくらいの覚悟でしたものです。結婚とは出家です」と言っていました。だから結婚のことを軽く考えている人は結婚できなくて当たり前なのだ、と。
けれど私は、美輪さんの「愛の説法」を聞いても、こんなに人々を苦しめる婚姻制度への疑問が解けません。どちらも、とても巧妙だわ、と思うのです。
美輪様は最後に、舞台から会場を見渡され、両腕を広げ、「みなさま、ひとりひとりが菩薩なのですよ」と微笑まれました。
わたしが菩薩・・!
再び私は、この世ではないところへ飛ばされました。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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