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「どなり芝居」

茶屋ひろし2010.09.16

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通りで男が怒鳴っています。
「てめぇ、人の店のドア蹴ったまま帰ろうとしてんじゃねーぞっ」
残暑の厳しい昼下がりです。ビデオ屋のドアの隙間からは怒鳴っている男も怒鳴られている人も見えません。通りすがりの人たちがその二人をちらちら見ながら過ぎていきます。「弁償させっぞ、この野郎、聞いてんのか、こら」
ああ、うるさい、暑苦しい。
男の怒鳴り声は嫌いです。そのせいか、怒鳴っている男に正当性があったとしても、私にとっては怒鳴っている男が曲者です。
首を伸ばすと二人が見えました。怒鳴っている男はよく見かけるどこかの飲み屋の店員で、色黒タンクトップのひげ坊主です。怒鳴られているほうは、営業途中のようなリーマンで、色白めがねの中肉中背です。
色白めがねは店のドアを蹴ったはずなのに威勢はなく、もはや困惑して泣きそうになっています。調子づくのは色黒です。「警察呼んだっていいんだぞ!」
だっさい。
うんざりします。
自分の店で飲んでいた客なんだから、そんな大きな声出す前になんとかしなさいよ。なんでそんなことで警察なのよ。
と思っていると、この道40年クラスの大ママが通りかかって、その様子を五秒ほどご覧になられたあと、無表情のまま通り過ぎました。そのあとすぐにパトカーが止まって警官が二人降りてきました。誰かが通報したにしては早すぎる登場なので、巡回中だったのだと思われます。
色黒はすっかり怒鳴るのをやめました。もう、ビデオ屋までは話し声も聞こえないほどです。
芝居がかっていて嫌だわ、と思います。それに色黒は怒鳴る相手も選んでいます。自分より大柄で腕力のありそうな相手には怒鳴ることはしないはず・・そんな色黒加減が気に入らなくて、飲んで店を出た後にドアを蹴ってしまったんじゃないの、色白。
と、私は完全に色白擁護に回っていました。ものにあたるのも目くそ鼻くそかもしれませんが。
この色黒店員を筆頭に、時々、昼間の二丁目の通りでこうした怒鳴り芝居を繰り広げる店子たちが何人かいます。
「ホモだからってなめてんじゃねぇーぞっ」
と怒鳴りながら、通りで大立ち回りをしていた暴れん坊もいました。蹴りをいれられていたのは、これまた色白めがねのサラリーマンでした。
「ホモだからってなめられ」て怒る気持ちはわからないではないですが、観客としてはなんだか嫌なものを見ている気分になります。
ホモ、オカマ、女っぽい、なよなよしている、ひ弱、軟弱、ばか、だから、なめられるとして、男らしい俺、喧嘩負けないぞ俺、頭いいぞ僕、を出して、相手に対抗しようということだと思います。気持ちはわかります。そういう方向に行く時は私にもあります。
けれどその対抗図式で対応してしまうと、けっきょく、「ホモ」はなめられて当然の世界を維持することになってしまうんじゃないか、と息苦しくなるのです。
年々、二丁目の夏祭り、「レインボー祭り」の規模が縮小されていっている理由は、道路の使用に警察の許可がおりにくくなっているからだと聞きます。
週末に行なわれている様々なクラブイベントのさいに、一晩中、道端に座り込んで道路をふさぎ、ゴミをそのあたりに捨てていく人たちが増えて、パトカーがしょっちゅう巡回にきている状況のせいだとも言われています。
マナーの問題です。
いつもそれを目の当たりにしている職場のオーラちゃんは、「二丁目に遊びに来る人たちはマナーがいいね、って思われる町になればいいのに」と言います。さらに、レズビアンやゲイのイメージが悪くなることも心配します。
そうねーと同意しながら、でもそれはセクシュアリティの問題ではなくて、屋久杉を彫ったり、商店街のシャッターにスプレーしたり、多摩川でDJブースを勝手につくって大音量で近所迷惑な話と、同時代的に繋がる感じもあって、道端にゴミを捨てるのにレズもゲイもノンケもない気はします。捨てる人は捨てるし、迷惑な人は迷惑です。
職場でクローゼットにしているゲイの人が、仕事にセクシュアリティは関係ないということを証明するために人より仕事が出来なくてはいけない、というような話をしていたことを思い出します。仕事にセクシュアリティが関係ない、ことには賛成です、それを機に仕事をがんばることも悪くはない、けれど、それはツライわ・・と思いました。
仕事が出来ないゲイがいてもいいじゃない・・? と、怠惰な自分に都合よくそのときは思いましたが、同性愛者だとバレたときに、「でも」優秀な人材だからはずせない、と会社に判断される、という立場になることは、めでたい話かもしれませんが、社員が同性愛者であることで判断がぶれる会社がおかしい、という考え方は持っていたいものだわ、と思います。
先日は、開店作業をしていると、隣の店から、今度は色白めがね(みんな別人ですが、区別がつきにくいです)が怒鳴って出てきました。「こんな店、二度と来ねーからなっ」と、後から飛び出してきたもっと色白の痩せた店員の子に怒鳴って歩き出します。
店員の子は、「そんなー、ほんとすみませんでした! ご気分悪くされたことについては謝りますから、また来てくださいよー」と三メートルほどその客を追いかけた後、うなだれて戻ってきました。そして私の顔を見て舌を出しました。
「嫌―、あの人」と、歩き去った客の方を指差すので、「そうね」と思わず吹きだしてしまいました。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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