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No Women No Music 第6夜 従服の嬢王・椎名林檎

ほんま えつ2014.07.14

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何かと話題の椎名林檎の新曲「NIPPON」。これが大そうな物議を呼んでいる。そんな報を聞いてYouTubeで初めて観たとき思わず失笑した。ほんとうは失笑ではなく、なにかしらの怒りか憤慨を感じるほうがまっとうなはずなのに。なぜに失笑だったのか、だってあまりにもあからさまなのだもの。

椎名林檎ってもっと歪んでねじれているイメージだったので、この直球でわかりやすい戦意高揚歌に、あらまあとちょっとびっくりした。NHKサッカーテーマとして書き下ろした曲という。もちろん今開催中のワールドカップ(この原稿が掲載のころには終了していますね)にあわせてのものだろう。自宅でテレビをほとんど見ないのでどの程度にこの曲が公共放送で垂れ流されているのかわからないが、職場の付き合いカラオケで誰かがこれを歌いだしたならば、私はちょっと失礼とばかりにトイレに行くだろうな。いまって戦時下なんだ・・・と見紛うような戦時歌謡ならぬ戦時J-POP。1939年につくられた戦時歌謡「出征兵士を送る歌」(生田大三郎・作詩/林伊佐雄・作曲)の〈歓呼は高く天を衝く いざ征けつわもの 日本男児!〉と同じ路線を走っている。
正直申しますと私、椎名林檎ってこれまでいちどもきちんと聞いたことなかったのです。いまよりもっと貪欲にバリバリと音楽を聴きまくっていた当時に椎名林檎はデビューしているのだが、私の身近にいたコアな音楽通の友人知人に誰も彼女を推すひといなかった。新宿系だとか歌舞伎町系などという触れ込みとスキャンダラスなイメージで東芝EMIから造られた感たっぷりで売り出された彼女にはまったく食指がのびなかった。

そして2003年3作目のアルバム『加爾基 精液 栗ノ花』で決定的に私は椎名林檎を聞かず嫌いになった。これを“カルキ ザーメン クリノハナ”と読ませ大々的に売り出すグロテスクなセンスに嫌悪した。だがいま先にあげた「NIPPON」の由々しき事態に、なんで椎名林檎がNGなのかと、きちんと向き合ってみたくなったのだ。といってもいまさら彼女の作品をすべて網羅などムリ。とりいそぎ問題の『加爾基 精液 栗ノ花』をアマゾン中古にて1円でポチる。丁寧にゴージャスに彩られた起承転結のある44分44秒のアルバム。歌詞カードに目を凝らしじっくり聞く。古風な単語、言葉使い、その隠微さはかなり文学的。シンガーソングライターとしての異才さを感じる。だが聴く間中ずっと鬱屈さを覚え聞き終わった後はどうしようもないもやもやとした気分を抱く。
〈視ろ 嗅げ 不愉快でも味わい識れ 覚悟を極めろ〉(「宗教」)、〈統制して頂戴 退屈が忌々しい〉(「やっつけ仕事」)、〈あんた程の男等居らぬ~あんただけは奪われたくない~ねえ後生だから傍に置いてよ〉(「とりこし苦労」)、そしてこのアルバムにこのタイトルを持ってくることに腑がおちた歌が八曲目の「おこのみで」である。〈さあだうぞ 唯従服の快楽を お眼鏡は如何〉。喪服着物やお遍路姿のジャケット写真を用いて昭和前期の退廃的イメージを今仕様にあしらった美意識で覆い尽くした世界観のなかに、女が孤独であることを屈辱感にすり替え、男に男達に男社会に屈服し従服していくことを快感とすればよいではないか、という訓示を感じずにはいられない。

このアルバムで物語る男は〈混紡の僕を恥ぢてゐらつしやいますか〉(「意識」)とお母様に訴えかけ、自らの幼児性を容認する。そして女に淫靡を求め、女はその自己本位な男を孤独と疎外感で歪んだ自尊心を持って受け入れる。ねぇあなたのカルキのような精液を私のクリに注いでよとでも言わんばかりに。その背後でこのアルバムを試聴しその完成度に満足し笑みを浮かべるホモソーシャル音楽業界のミソジニストたちの影に私は吐き気を催す。こんな椎名林檎がいまその捻じれが一周したかのように突き抜けた「NIPPON」を歌い上げる。ここにも歪んだ愛国への道が通じているような気がするのだ。



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ほんま えつ

ほんま えつ(ほんま・えつ)

音楽、映画、本をこよなく愛して生きる趣味人女。
小学5年生のとき同級生の友達宅で聴かせてもらった「クィーン」に感動。
以後、洋楽を貪り始める。初めて買ったLPレコードは「アバ」のベスト盤。
いまではこれぞと思った音楽はジャンルを超えてなんでもござれの雑食派。
本連載、約10年ぶりのカムバックです。

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