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「平和の碑のこと」

茶屋ひろし2017.01.20

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 本屋で働き始めて驚いたことの一つに、毎日の出版物の多さがあります。新刊は出版社から取次に搬入されて、そこから全国の書店に配本されます。
 このシステムに乗っかっている書店には、注文していなくても、毎日、新刊が届きます。それと、棚から売れた補充分も入荷するので、毎朝、品出しに苦労します。

 スペースは決まっているので、新たに棚に入れる分、同じ容量を返品しないといけません。
 勤めだした頃に学んだ、棚から外す判断基準は、売れ具合と出版月です。加えて、自店のカラーというか、これは置いておかないと、という書籍もあります。
 私はけっこうこれに時間を取られてしまって、翌日に判断を持ち越すことが少なくありません。ていうか、ほぼそれです。
 間に休みや出張などを挟んでしまうと、えらいことになります。

 客として本屋を訪れていたときに、よく平台に、一冊ずつタイトルの違った本が積まれていることがありました。
 顔を傾けてそれらを見るのがわりと好きで、その中からお目当ての本を引っ張り出したこともあります。
 今思えばあれは、入荷した本が棚に並ぶ前の状態だったのだと理解できて、夜に行ってもそうだった状況に共感を覚えます。

 ずぼらな私は、平台に積んだままで帰社することも多々あります。ていうか毎日・・。

 それもあって気が付かなかったのですが、どうやら、ずっと平積みにしている岩波新書の『従軍慰安婦』(吉見義明)の上に、いつも別の新書が乗っていることに、ここ最近気が付きました。最初はもちろん偶然だと思いました。立ち読みしていた人が、ぽん、とその場に放っていくことは茶飯事ですから。
 けれど毎回、きちんと重ねられてない? と気が付きました。それゆえに気が付かなかったのかもと思いました。

 やだ・・、と「平和の碑」(少女像)の撤去を求める日本政府の姿勢を思いました。
 平積みを崩すとかページを破るとか、そういう乱暴さはありませんが、何度もきっちり重ねてくるあたりに執拗さを感じます。
 気持ち悪い・・、と、その、あるものをないようにするやり口と、政府見解と同化してしまっている行動に身震いします。

 あの平和の碑は、本来ならば、加害国である日本国内に建てられるべきだと考えます。
 韓国では日本大使館前だけでなく、国内に複数設置されていると知りましたが、人々の記憶にとどめておくには必要なことだと思います。
 2011年から、中学校の歴史教科書への記述をなくしたままで、責任の所在をあいまいにした談話を発表した日本政府の態度には、「もうなかったことにしたい」というメッセージを感じます。

 ただでさえ記憶は風化するのに、「なかったことにしたい」と積極的に働きかければ、「本当はなかった」ことになる可能性もあります。
 そうすると、また同じ過ちを勇んで繰り返すようになるでしょう。

 繰り返される過ちとは、関わるすべての人が人権をなくしてしまう戦争のことで、元「慰安婦」の方たちの証言には、戦時下での性暴力・性奴隷の実態があります。
 10代で強制連行させられ、戦後も長きに渡って苦しめられてきた思いを込めてつくられた平和の碑には、今なお、世界各地で続く紛争下での性暴力の根絶を訴える意味もあると聞きます。

 加害国の日本は、過去の過ちを認め、国として被害者に謝罪して賠償をし、失われた人権の回復につとめ、被害国とともに、その過ちを繰り返さないためにどうすればいいのか話し合い、それを形にして(自国での教育、再発防止策など)、世界に発信する、というのが筋だと思います。
 まだスタート地点にも立っていない。

 平和の碑はそのためにつくられたものだと私は思うので、なぜ、あんなに国も個人もヒステリックに拒絶するのかさっぱりわかりません。
 責められている感じがするから嫌なのか、と言っても、責められるようなことをしたのだからしょうがないし、それを受け入れて解決に取り組むことが、加害側の責任の取り方だと思います。

 被害者の女性たちは2015年末の「日韓合意」に対して、それを受けいれた韓国政府も批判しています。これから時間をかけて検証していかなければならないことに「最終的・不可逆的解決」などありえない。日本政府が拠出した10億円も賠償金ではなく、韓国に財団をつくらせて「あとはそっちでなんとかしなよ」という無責任なもの・・。

 これが性差別じゃなくて何でしょう。植民地主義も続いています。
 沖縄の意見を無視して強行されている基地建設問題もそうですが、日本はまだ戦後を迎えていなかったのか、と最近よく思います。
 民主主義も人権意識も根付いていなかった。すぐにはがれてしまう。
 『従軍慰安婦』の横で売れ続ける百田尚樹の新書(『雑談力』PHP)を見ながら、ここも戦場だわ、と思います。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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