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日本では今年の春、強姦を争った法廷で次々に無罪判決が出て、常識を驚かせた。「明確な拒絶の意思表明がなかった」とか、12才の娘を強姦していた父親が「娘の証言が確かでない」と「無罪」になってしまい、世論が紛糾するのを見て、似たような光景をフランスで見たことを思い出した。似ているところもあるが、違うところもある。今日はそのことを書こうと思う。

フランスでは2017年に、11歳の少女が27歳の男性と挿入を伴う性関係を持つ事件を巡って世論が紛糾した。両親は「強姦」で訴えようとしたのだが、「強姦」を証明できず無罪になる恐れがあったため、「15歳未満の未成年者に対する性的侵害」という「強姦」より軽いカテゴリーで闘わざるを得なかったのだった。

フランスでは、「強姦」が認められるには、「暴力、強制、脅迫、不意打」のいずれかが証明できなければならないのだが、少女には肉体的にも精神的にも傷がなかったため、「同意がなかった」と認めてもらうことができなかったのだ。
しかし、15歳未満を相手にした「性的侵害」は、同意のあるなしを問わず、罪に問うことができる。
「性的侵害」を「強姦」と区別するのは、挿入を伴うか伴わないかで、刑は「強姦」であれば懲役15年だが、「性的侵害」は懲役5年、罰金7万5000€となる。

というわけで、さすがに「無罪」になったわけではないところが日本とは違うのだが、この事件はそれでも法律の不備を認識させ、もっと容易に「強姦」で訴えることができるよう改正を求める声が高まったのだった。
ちょうど今、日本でフラワーデモが広がり、法改正を求める声が上がっているように。

ただ、日本の現在と少々違うかと思うのは、フランスの法改正では、未成年者の場合に成人と同じ法律を適用できるかに焦点が当てられたことだった。子どもにどこまで判断能力があるかを考慮して、「同意の有無」を子どもの責任において問うべきでないと考える方向で法改正が進められた。

その結果、今から1年前、2018年の夏、法律を改正し(シアッパ法と呼ばれる)、15歳未満の場合は「性行為に必要な判断能力を持たない被害者の弱さを乱用した心理的強制や不意打ち」という一文により、強姦罪を成立させやすくすることを目指した。年齢の差や、加害者が被害者に対して権威を行使していたりすることから生じる「心理的強制」を強姦を問える根拠としたのである。

また、この法律改正により、未成年者に対する性犯罪は、被害者が成人してから30年後まで訴えられる(改正前は20年後)と時効期限が延長された。つまり48歳になるまで、訴えを起こすことができるようになった。

しかし、15歳未満の場合には「挿入」があったという事実だけで「強姦」と見なす、という「想定無同意」(つまりアプリオリに「同意はなかった」とする)は、結局、導入されなかった。
 
他のヨーロッパ諸国では、被害者の年齢によって、自動的に「強姦」あるいは「性的暴行」罪が成り立つ。デンマークでは15歳未満、ドイツ、ベルギー14歳未満、イギリス13歳未満、スペインでは被害者が12歳未満の場合、すべての挿入は「強姦」と見做される。
それに照らしてみると、フランスは比較的、腰が引けているということになろう。

最近、調査会社Ipsosが行った調査によれば、♯MeToo 運動はポジティブに受け止められた(83%)が、フランスのレイプ意識はまだ紋切り型を脱していない。フランス人の3分の1は、セクシーな格好はレイプを誘うと考えているし、3分の2は、男性は性衝動を抑えるのが難しいと考えている(2016年調査の63%から2019年調査の57%へ6ポイント低下)。

日本では女性のNOはYesだと誤解する男性が多いことが知られているのに対し、フランスではNONはNONだと私など思っていたが、女性は強要されるのが好きで、女性のNONはOuiであるという考えが3年前の調査では20%、今回も19%とまだ根強く残っていることがわかった。
日本で同じ調査をしたら、どんな数字が出るだろうか?

 程度の差はあれ、フランスも日本も女性の闘いは同じであるようだ。

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中島さおり

中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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