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捨ててゆく私 VOL.「お局さま降臨」

茶屋ひろし2019.07.25

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風邪を引いてしまいました。仕事を休んで治るまでずっと寝ていたいのですが、休めません。人手が少なく、私が行かないとお店が開かないからです。うちの店は年中無休です。スタッフにはそれぞれ、週に一度の休みがあります。その休みに入ってくれているスタッフちゃんも、普段は別のお店を任されているので、私が他に休みをとってしまうと、うちか、その別のお店を閉めなければいけなくなります。けれど、その選択だけはありえません。どんなことがあろうと、うちもそこも、年中無休なのです。コンビニみたいです。でもコンビニより人は少ないのです。

そう、ここの職場は、毎日毎日、決められた時間を拘束される場所でもあります。
って、たいがいのお店は、どこもそうですね。店番ですから。
ただ、休みが取りにくく、アルバイトでも週に三日から、というシフトはなく、かけもちはもってのほかで、仕事が終わるとまっすぐに家に帰る、というスタイルが前提になっているのです。ですから、コンビニに、(昔のドラマやマンガでしか知りませんが)ラーメン屋の住み込みバイト、のようなイメージをプラスしていただけると良いかと思われます。

働き始めて最初の一、二年は、その身動きのとりにくさにイライラもして、「おかしいわよ、いまどき!」くらいの文句を言っていましたが、なんでしょう、今回ひさしぶりに風邪を引いても、休もうかな、とはあまり思わなくなっていました。
やだ・・慣れてしまったのかしら。
こんな労働条件で働き始めて、もう干支を一回りしてしまったお局お姉さまがいます。彼女はその間、無遅刻無欠勤(内、病欠と忌引きが一回ずつ)だというのです。すごく特別な人だと思うのですが、職場が求めている労働条件とピッタリと一致するので驚きます。そしてそのお姉さまが一番長い。ということで、お姉さまのスタイルがルールです。例えば私が風邪を引いて休みたいと言うと、彼女はまず、「えーーー!」と驚きます。驚くのはコッチだわ仮病じゃなくてよ、と思って最初は戸惑いましたが、だんだんお姉さまを理解していくにうちに、その「えーーー!」の意味がわかってきました。言外に彼女はこう言っているのです。

「風邪を引くなんて自己管理が甘いからじゃないの? 普段から気をつけていればそんな失敗はしないものよ(私のように)。ちょっと頭が痛いからとかおなかが痛いくらいで早退するのもどうかと思うわ(この、人の少ないときに)。それくらい我慢しなさいよ。あなた、責任能力に欠けているんじゃないの? ここに遊びに来ているわけ?」

ぐうの音も出ません。しかも彼女はそれを実践していて、お局さまです。私も含め、お局さま以下のスタッフたちは、「すみません」を繰り返して休みを取った後、「それにしても風邪で休むくらいで、そこまで言われることもないと思うわ」と陰で愚痴を言うしか出来ません。面と向かって言えば、「あら、辞めるの?」と言われるのがオチだからです。それが嫌なら辞めるしかない。オカマの世界って厳しいわ・・(ちょっと違う)。

そしてついに、お姉さまの跡を継ぐ若者が入ってきました。彼は入って二年ほどですが、無遅刻無欠勤の皆勤賞。決められた休みの曜日以外に休みを取ったこともありません。先日、電車の遅延のせいで、いつもは十五分前には来るところを三分前に来てしまったそうです。それが彼には、くやしい。「ですから、もっと近所に引っ越さなければいけないと考えているところです」
ここまでくると、ここに仕事をしに来ていることはなんなのか、よくわからなくなってきます。時間を、決められた労働日数を守ることが、一番なのか。笑顔で接客とか、売り上げ向上は? なんて、私もそんなに貢献しているとは思いませんが。

それに、私といえば、遅刻はするし、休みは取るし、早退するし、仕事が終わって飲みに行って次の日二日酔いで仕事しているし、してないし、でようやく三年・・。そう、私以外のスタッフちゃんは、お酒をあまりたしなまない人たちが多く、二丁目で飲むということをほとんどしません。ほぼみんな、仕事を終えるとまっすぐ家に帰ります。そしてまた定時に出勤するのです。

次第に私は、自分にはなかなか出来ないけれど、そういう安定したリズムを守るということは、それはそれでうつくしいことだな、とも思うようになりました。ウヨクかしら。

最近ゲイバーで知り合った大学生に、この春卒業したら二丁目で働きたい、と相談を受けました。しかもうちの店で働きたい、と言うのです。どうやら毎晩飲み歩いている私を見て、「楽しそう!」と思ったみたいです。聞けば、けっこう名の知れた大学です。「普通に就職活動をして、どこかの企業に就職しなさい」と答えました。
(うちの店は、周りがゲイだらけだから働きやすい、だけじゃないのよ!)と、お局さまが私に降りてきました。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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