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日本の選挙・フランスの選挙・若者の投票について

中島さおり2019.07.29

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ここしばらく日本に帰国していたので、参議院選挙を目の当たりにした。しかし、「目の当たりにした」と言うのが当たっているのかいないのか、今は本当に選挙戦が行われているのだろうかと思うほど、異様に静かな選挙だった。

テレビをつけても、候補者間の論戦は行われていないし、ニュースですら候補者の動向を追っていない。ジャーナリストや政治学者が訳知り顔に解説する番組もない。いや、テレビを睨んで暮らしていたわけではないので、正確にはないわけではないのだろうが、フランスから来た者の目にはないに等しいような、選挙期間中とは信じられない光景だった。

フランスだったら毎晩、誰かが誰かと論戦を戦わせているだろう。こんなことでみんな、投票先を選べるのだろうか、と疑問を覚えた。いやそれよりもまず、7月21日に投票が行われると知らないうちに選挙が終わってしまわないだろうか、と心配になった。

ふたを開けてみれば過去ワースト2位の低投票率で50%を切っていた。有権者の半数以上が投票しないというのはゆゆしき事態だと思うが、わざわざこっそりひっそり、気がつかれないように選挙をやっているような気すらしたのである。

これは今回に限らないが、候補者のポスターからしてフランスのと比べるといやに小さい。近くまで行って見なければ、何がなんだかわかりゃしない。

フランスの選挙ポスターの大きさは映画の宣伝ポスター程度はあるので、遠くからでもよく見える。東京は6議席に20候補が乱立と言われていたが、それでも板の半分以上にポスターが貼られていないのが、視覚的にも盛り上がらないし、なんだか無駄な感じがした。
フランスでは候補者数に応じて、一候補者に一つずつポスターを立てる枠があてがわれるので、スカスカのスペースというのはない。20人候補者がいれば20メートルくらい延々とポスターが横一列に並ぶ。「選挙をやります!」感が全然違うと思う。

などと考えていて今回、日本で投票してみて、改めてフランスと違うなと思ったことが様々あるのでフランスの選挙のやり方を少し紹介しようと思う。

私自身は日本が二重国籍を許さないため、フランス国籍を取っていないため、フランスで投票する権利がないのだが、数年前に自分が産んだ赤ん坊が選挙権のある年齢に達し、最初の投票を記念して写真を撮ろうと投票所に同行したことがあるので、フランスの選挙のさまを少し知っている。奇特な友人たちが調べたことも参照して、以下にレポートしようと思う。

娘が最初に投票したのは、2017年の大統領選挙だった。
投票所に行くと、まず受付で選挙人カードを提示して、投票所が間違っていないか照合する。日本で送られてくる「選挙のお知らせ(投票所のご案内)」と投票所で同じ役割を果たすものだが、違うのは、この選挙人カードをもらうために、新成人は選挙人名簿に自分で登録するという手続きをしなければならないことだ。1999年3月生まれの私の娘はちょうど、2017年の大統領選直前に18歳になり、最初に参加する選挙が大統領選とあって、絶対に投票するのだと選挙人登録をしてカードが届くのを待っていた。

選挙権を得るのに自分で登録しなければならないとなると、自分が有権者であるということに、もう少し自覚的になるのではないかと思った。

さて投票所には横長のテーブルがあり、名前が印刷された紙が候補者ごとに横一列に積まれて並んでいる。投票する時はそのうち何枚か選んでカーテンで仕切られた試着室のようなところに入って行き、そこで自分の選んだ候補者名の書かれた紙だけを封筒に入れて持って出る。
父親が娘に投票の仕方を教えて、「全部の紙を取る必要はないけど、誰に投票したか外からわからないように複数枚取ること」と指導していた。原則、2枚以上取らないといけない決まりだそうである。

名前の印刷してある紙には驚いた。候補者名を鉛筆で手書きするのが当たり前と信じていた私には、目から鱗が落ちる思いだった。

これなら、認知症がかなり進んでいた父にも投票ができたのではないかと思ったのだ。当時父はまだ歩け、瞬間記憶もあり、母と妹に連れられて投票に行ったのだが、字が書けなくて、三人はすごすごと帰ることになったのだった。

今回の選挙では、れいわ新選組が障碍のある当事者を候補にしていたため、障碍者の方が一生懸命「れいわ」と書く練習をして投票をしたという感動的な話をSNSで読んだ。感動的ではあるけれど、そんなハンディを乗り越えて投票しなくても、誰でも簡単に投票できる方法があるのなら、そうしたほうが良いのではなかろうか。書き損じによる無効票も減ることだろう。

とはいえフランスでこの方法が取られるようになった理由は投票のアクセスを容易にするためというよりは、不正阻止のためと、筆跡が残っていると誰が誰に投票したかがわかる場合もあるので、完全にわからない無記名投票を担保するためだそうである。

さて、持って出て来た封筒は透明の投票箱に入れる。箱が透明なのは、あらかじめ何か入っているわけではないことを証明するためで、不正防止策の一つだそうだ。この投票時にはもう一度、選挙人カードと身分証明書を提示し、投票し終えると、投票所に備えてある選挙人名簿の自分の名前の脇にサインをする。これで投票が終わる。

印刷した紙ではかえって「水増し投票」のような不正が起こるのではと思う方もあるかもしれないが、その点、フランスの選挙は開票がすべて手作業でムサシのような機械は使わないし、そのため票を投票所から移送することもない。

開票作業をする人は、その日に投票に来た人の中から任意に声がけされて選ばれる。そして不正が行われないよう、一つの票は四人によってチェックされる。投票者の人数と投票された票数が合わないなどということは起こらない。

さて、娘が最初の投票をした時は、投票を終えたテーブルに、なぜかシャンパンのグラスが置いてあった。なんのためのシャンパンなのか、クロワッサンなのか、いつでもどの投票所でも置いてあるのかは知らない。投票所に詰めている人たちのためのものかもしれない。ともかくその時、選挙管理委員長が娘にシャンパンとクロワッサンを勧めてくれて「おめでとう。選挙は民主主義の礎なんだよ。君は今日が初めてでこれからもずっと民主主義に参加する。民主主義が続きますように」という短いけれど感動的な言葉をかけてくれた。成人式なんかより、最初の投票をこうして祝ってあげたら、日本の若者ももう少し普通に選挙に行くだろうにと思った。

後で知ったが、フランスにも成人式に当たるものがある。これは新年から3ヶ月の間のいずれの日かに、前年の3月1日以降に18歳になった若者が市長に招待される式だが、重要なのは、そこで選挙カードが手渡しされることだ(私の娘の場合は、18歳になってすぐ大統領選だったので、この式は待たず選挙カードを郵送してもらったのだったが)。

成人になるということと選挙権を持つということがまっすぐに繋がっているのだ。成人式はそういうものであるべきではないかと改めて思った。ちなみに成人式では、権利のなかった時代から制限選挙、普通選挙、婦人参政権といかにして国政参加の権利が勝ち取られて行ったかという選挙権の歴史が語られるようである。

もちろん、そんなことをやっても、フランスでも若者の投票率の低さは憂慮されている。それでも、投票する若者にその理由を問えば、一番多い回答は「市民の義務だから」と返ってくるのは、こうした教育が生きているのではないだろうか。

選挙に行かない人の多くは、どの候補が何を主張しているのかわからないので選べないということがあると思う。今回の日本の参院選のようにテレビが選挙報道をあまりしないのでは、多くの人に周知されるのは難しいかもしれないと思った。

その点、フランスでは一つ、すべての有権者に全候補者の紹介と公約が書かれた「選挙キット」のようなチラシが郵送されて来る。これを全部読みさえすれば一応、候補者が訴えたいことは伝わり、全候補の主張を比較できるようになっている。「選挙のお知らせ」の代わりに有権者に送られて来るのは分厚い大きな封筒なのである。

我が家では父親と娘に投票権があるので、別々に、同じものが2部届く。いつもなんのかんの言った挙句、結局は入れる党が決まっている父親のほうはそれほどこのチラシを頼りにせず、さっさと捨ててしまうが、どの党が何を言っているかよく知らない娘は隅から隅まで読んで決めていた。「これはまだ全部読んでないから、捨てないで」と私に言って。

そうは言っても、フランスでも、誰もがチラシを読む労をとるわけではないので、「誰が何を主張しているかわからないから」と棄権する若者は多い。大統領選はその点、わかりやすく、国中で小さい幼稚園児でも誰がいい彼がいいと議論を戦わせるくらいのお祭りじみたイベントだから投票率も高い(2017年、第一回投票では、全体では78%、若者の投票率は低いがそれでも29歳以下の3分の2が投票した。ただし、決選投票では支持する候補がいなくなったことも影響してか、その投票率は52%に落ちている)。

しかし、今年5月に行われた欧州議会選挙などはわかりにくく、直接自分の生活に影響も感じにくいことがあり、投票率は50%を切っている。とはいえ、前回2014年の選挙と比べると、18歳から24歳では28%から42%へ、25歳から39歳では35%から47%へと大幅に投票率が上がっている。これは若者の票が集まってエコロジストの党を躍進させたことと関係があるのだろう。

日本でもそうかもしれないが、フランスで若者が投票しない理由の大きなものは、「自分の考えを代表してくれる候補がいない」ということである。「決して関心がないわけではないが投票しない」という若者は確かに一定数いる。彼らの意見を汲み上げる候補が出て来れば、この層が動くことを予見させる。

また、若者の投票率に関して、日本ではあまり分析しないのが、社会階層との関連ではないかと思う。フランスで行われる調査では、学歴が低いほど、棄権傾向が強いことが明らかにされている。低所得層、移民出身者が集まる大都市郊外で投票率が低いことはつとに知られている。

つまり、この場合、自分たちを代表する議員を持たず、国政から無視されていると感じる人々が、自分を無力と感じるあまり、投票に意義を見出さない。その結果、ますます彼らの声は反映されなくなるという悪循環である。

熱心に投票に行く私の娘は決してフランスでも多数派ではない。しかし母親には選挙権がなく、家庭で選挙に行けと強く教育したわけでもないのに毎回、たった一票の権利を一生懸命、考えて行使している娘を見ていて、偉いなあと思ったので、「どうして選挙に行くの?」と聞いて見た。

私の娘は決して「意識高い系」ではないデザイナー希望の専門学校生である。
「高校の時、歴史が好きだった。歴史を作って行くのは王様や権力者ではなくて、名もない普通の人たちだと思った。私は自分で歴史を作るのに参加する。誰かに任せて支配されたくない」

歴史の先生が教えてくれたのだろうか。たった一票でも、これは私たちが勝ち取った、権力者に支配されないための権利だ。それがどんなにナイーブであろうと、その原点を忘れないこと。「たった一票で何も変わらない」と選挙に行かない多くの人たちに、それをわかってもらいたいと私は思った。

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中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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