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シリアに残るフランス人ジハディストの帰還問題

中島さおり2019.10.28

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この連載コラムは、フランス女性をめぐってというのをいちおうのテーマにしている。なるべく日本と関係のあることを書くようにしているが、今回はシリアに渡ったフランス人ジハディストの女性のことを書く。日本と直接関係がなくても触れておきたい。

シリアからのアメリカ軍の撤退は、トルコ軍のシリア系クルド人部隊に対する掃討作戦を招いた。その結果、IS(イスラム国、ダーイシュ)殲滅の立役者であるシリア系クルド人部隊は捕虜にしていた民間人およびダーイシュの女性たちを管理しきれなくなり、フランスでは、フランス人ジハディストの行方が喫緊の問題になっている。

10月13日、トルコ北西部にある3つの収容所のひとつ、アイン・イッサのキャンプから10人ほどのフランス人女性とその子どもたち25人が逃亡した。女性らが近親者などに送ったメッセージ等によれば、クルド人はキャンプに放火して逃げるにあたって、彼女らを解放した。

すでにダーイシュを名乗る者たちに連れて行かれた者もあり、砂漠を彷徨っている者もある。フランスが乗り出して本国に帰国させなければ、再び北西部に残っているダーイシュに保護されることになるだろう。

ジハードに加わるべくシリアに渡り、現在シリア北東部のキャンプに残るフランス人は、正確な数はわからないが400人から500人と言われている。そのうち戦闘員は60人くらいで、圧倒的多数が女性と子どもである。子どもの数は200から300人と推定される。親に連れられてシリアに渡った子どももあるが、多くはシリアで生まれた幼児だ。少女たちがネットで知り合ったジハード戦士の呼びかけに応えてシリアへ渡るケースが問題になっていたのはほんの数年前のことだが、数年もあれば子どもは生まれて育つ。

ダーイシュが敗退し、捕虜になった時に、男たちは監獄に送られ、女たちは主にトルコのクルジスタン地区にある3つの収容所で子どもたちといっしょに暮らしていた。

これらの女性たちの中には、フランスに帰りたがっている者もいれば、シリアに留まりたがっている者もあると、直接取材したフランス24のジャーナリスト、ワシム・ナスルは言う。シリアに留まりたがる者のうちでも、信念からそうする者と、フランスに帰って監獄に入ることを恐れる者もある。また逆に、監獄でもいいからフランスに帰りたいという者もいる。だが、いずれも避けたがっているのはアサド政権に捕らえられることだ。
 
フランス人ジハディストの裁判は、現在イラクで行われているが、イラクに送られることは、高い確率で死を意味する。現在までに14人がイラクで裁かれているが、12人がクルドからイラクに移送されたジハディストだ。14人は、うち11人が死刑を宣告され、残りの3人(内2人)が終身刑である。

フランスには死刑がないため、裁判をフランスで受けられれば、死刑は免れることを意味する。裏を返せば、フランス国家が彼らの裁判をイラクに任せておくということは、死刑を黙認することになり、フランスの死刑廃止の方針に反する。そのため、今年2月、フランス人ジハディストの裁判をどこで行うかは大きな問題になったが、マクロン大統領は、フランスでの裁判を希望しなかった。フランス人たちの8割以上はジハディストの帰還を望まず、できれば外で裁いてもらいたいという反応を示した。

現在、フランスの立場は変わらず、10月17日、ドリアン外相がバグダッドで、シリアのクルド人支配地域の監獄に収容されているフランス人ジハディストをイラクに移送して裁いてほしいと申し入れている。

フランス人の本国送還は、成人に関しては考えない。子どもに関しては、ケースバイケースで帰還を検討するとしている。そのため、孤児はフランスに引き取られるが、母親が存命であると引き離せず帰還させられないケースが多い。

一方、トルコとのプロトコルにより、トルコで捕まったフランス人ジハディストはすべてフランスに帰還させられている。9月には9人の子どもがその母や祖母とともに帰国した。うち一人は2015年11月のパリのテロの犯人であるクレン兄弟の姪である。こうした場合、母親は監獄に収監され、子どもは施設に送られて、ダーイシュの洗脳を解く治療が行われる。

シリアに残されたフランス人ジハディストの家族は、迅速なフランスへの連れ戻しを政府に訴えている。キャンプは衛生状況も良くない上、現在はトルコも停戦を受け入れているが、クルド人部隊のキャンプに永遠に収容させておけるわけでもない。弁護士マリー・ドゼは、早くフランスに戻さないと、ダーイシュに回収された場合、子どもがチャイルド・ソルジャーにされてしまう危険を指摘している。子どもを帰還させるのは、低年齢のうちのほうが精神的後遺症も少なくてすむ。


しかしフランス国内の世論はなかなか、ジハディストの引き揚げを認めない。外国人ジハディストを裁く国際法廷の開設なども理論的には考えられるが、まだ具体化する段階にない。フランスは大きな問題に直面している。

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中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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