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ロックダウンの条件-外出禁止令下のフランス

中島さおり2020.03.30

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日本でもすでに報道されているように、フランスは3月17日正午から外出禁止、1週間後の3月24日には正式に「保健衛生緊急事態」下に入った。27日現在、感染者数(陽性数) 3万2964人、死者1995人。だが、この記事が公開される頃には全く違う数になっているだろう。この記事を書き始めた25日時点ではそれぞれ2万2300人、1331人だった。2日で1万人の感染者増、660人の死者増。週末を挟んだらどれほどの数になっているか。

外出禁止になってすぐ、日本のジャーナリストから尋ねられたことは、「混乱していないか。外出禁止措置に文句は出ていないか」で、次に尋ねられたのは、「なぜ大多数が素直に従っているのか」だった。

そういう問いが発せられるのは、日本の外出自粛呼びかけに人々の不満が募り、フランスのような状態になったら混乱必至と恐れる気持ちがあるからだろう。今、日本でもロックダウンの可能性を前にして、フランスへの関心は、やはりそれが一番だろうから、もう一度、この質問に答えておこうと思う。

フランスでは、「外出禁止令はもっと早く出すべきだった」あるいは「3月15日の統一市町村選は中止すべきだった」という批判は聞こえたが、ロックダウン自体を非難する声はほとんどない。

それは第一に、事態の深刻さが周知され、外出禁止措置の目的が明確に理解されているからだ。

マクロン大統領が、テレビで直接、国民に外出禁止を宣言したのは、3月16日の夜だった。この日、感染者数は6633人、死者は148人。2日間で感染者が2000人、死者が57人増加していた。この速さで感染者が増えて行くと、すぐに病院の受け入れ能力を超えてしまうと予想された。病院で手当てができなければ、技術的には救える命も救えなくなる。外出禁止は、さらなる感染を防ぐことで医療にかかる負担を抑制し、可能な限りの命を救うために、現時点で取りうる唯一の方法だと説明された。実際、この10日足らずで死亡者数が10倍に増えていることを考えれば、ますます納得しないわけにはいかない。

数字に裏付けられた危機感が、政府、メディアによる説明によって国民に共有されている。大統領の宣言に続き、日々、具体的な対策がまとめられ、首相や閣僚が発表する。その功罪を含めて、メディアが詳しく伝えている。

誰が言い出したか、毎晩、夜8時になると、人々は窓に寄り、バルコニーに出て、コロナ最前線で戦っている医療関係者にエールを送るため拍手するが、これも外出禁止が何のためか理解している証拠だろう。

もう一つの大事な理由は、外出禁止を宣言すると共に、それに伴う経済的な補償を具体的に打ち出していることだ。

給与所得者には、「部分失業」の制度を活用して、給与の8割を国家負担で支給する。「部分失業」というのは、従来ある制度で、業績が悪化したため事業を一時的に縮小したり、中断したりする場合に、雇用を守るため、給与のおよそ8割を社会保障に肩代わりしてもらうもので、雇用主が申請する。普通は、一定の基準を満たさなければ申請が受理されないが、今回、外出禁止令のために事業を閉めなければならない雇用主の申請はすべて認められることになった。

「部分失業」の手当は給与所得者でないと受け取れないから、これに当てはまらない事業者や自由業者には一律、月に1500ユーロの補償が打ち出された。また、経営困難企業への税免除、借金返済期限の延長、新たな借り入れに際して国家が保証人となる、また賃料、水道代、電気代、ガス料金の徴収を停止する。コロナ危機で経営の危機に瀕する基幹産業の企業に再国営化の案も浮上しており、政府はすでにそのリストをまとめたと聞いている。

政府は、人々に不便を我慢してもらい、医療にかかる負担を減らすために協力させるのと引き換えに「すべての企業の倒産リスクを回避し、すべてのフランス人の収入源を確保する」と約束しているのだ。

そうしなければ、外出禁止が医療崩壊を防ぐ効果が保証できないからだ。自分一人がコロナ感染しないようにという理由で家に閉じこもるのは、生活に困らない人だけだ。Covid-19は、感染しても多くは軽症ですむのだから、生活のための収入を断たれるくらいなら感染を選ぶという人も出るだろう。生計手段がなくなるのではすべての活動を停止することに不満がくすぶるに違いない。差し当たって収入の補償があれば納得して自分と他人を守ることができる。外出禁止が守られるためには収入補償がどうしても必要だ。

もちろん、混乱や不徹底がまったく起こっていないわけではない。それを言ったらいろいろなことが起こっている。

ロックダウン寸前に首都を脱出して田舎や海岸の別荘に移動したパリの富裕層は、「ウイルスを持ち込んだ」と、地方で非難されている。実際、感染者の多いパリから、無自覚に地方にウイルスを持って行った人はいるだろう。

最低限の外出をする際には、理由を書いた証明書を持って歩かねばならないのだが、違反する人も多い。26日、クリストフ・カスタネール内相がラジオで答えたところによると、外出禁止になってから10日で、警察が把握した違反は22万5000件。罰金は370万ユーロに上った。

禁止も何も、閉じこもる家を持っていないホームレスの問題もある。外出禁止措置に伴い、ホームレスまで取り締まってしまった例が各地で報告された。宿所の確保が必要と意識されたが、フランス全体で15万人いるというホームレス全員には提供できていない。フランスでは冬の間は家賃滞納をしても家主は店子(たなこ)を追い出すことができないという決まりがあるが、これを2カ月延長して新たなホームレスの誕生は防ぐ。すでにいるホームレスを収容する宿泊施設として体育館の転用やガラ空きになっているホテルの利用など対策は始まったが、たとえ場所が確保できても世話をする人手が不足している。マスク不足があらゆるところで叫ばれているが、医療機関ですら足りていない状況で、ホームレス援助の非営利団体には廻ってこないのだから活動する人の安全も保証できない。

ドメスティック・バイオレンスの増加もロックダウンの負の副産物だ。家に閉じこもると、「9カ月後にはベビーブームか、2カ月後に離婚ブームか」と冗談交じりにささやかれたが、そんな冗談を吹き飛ばす勢いで、たった一週間でDVが32%(パリでは36%)増加した。急遽、薬局をアラートシステムとして機能させることになった。

監獄にも感染者が出て、その環境の悪さから緊張が広がっている。集団感染を避けるため、模範囚や刑期をほとんど終えた者から解放されることになった。

ロックダウン自体の問題ではないが、フランスで大きな問題になっているのはウイルスと闘うための医療用マスクの不足だ。現場から悲痛な声が毎日、伝えられる。フランスは外国(主に中国)にマスクの生産を頼っており、ストックを十分に持っていなかった。

医療に携わる人の安全が守れなくてはたとえ患者数の増加を抑えても医療が機能しなくなる。病床数の確保、人工呼吸器、マスクやその他の防具の確保、そして医療従事者の確保。もし日本でもロックダウンの可能性が予見されるなら(いや、ロックダウンと言う手段を取らない場合であっても)、まだ余裕のある間に、急いでそれらを整えるべきだろう。フランスの状況を見ていてそう思う。

さて、フランスの外出禁止ははじめ、2週間と言われて始まったが、4月15日まで延長された。3月24日の専門家会議では、外出禁止は少なくとも6週間は必要で、4月末まで解除されないだろうと言われている。その理由は、全員に検査をして陽性の人だけを隔離することが、現状、不可能だからだという。

専門家会議によれば、外出禁止が解ける条件は、二つのテストを多くの人々に実施できるようになることだ。

一つのテストは、現在使用されているPCR検査で、クラスターを発見するのに用いる。現在は1日5000件しか検査できないが、来週末には2万9000件になるという。外出禁止令を解くためには、これを1日少なくとも5万件に増やす必要がある。

もう一つは、罹患(りかん)したけれども軽症で終わった、すでに免疫を持つ人々を識別する検査だ。人口の50%から60%がすでに罹患して免疫を持っていれば集団免疫が期待できる。そうでない場合は、外出禁止を解いたとたん、感染の第二波が来ることを覚悟しなければならない。

つまりこの二つのテストを広汎に行うことが可能という条件が整えば、ロックダウンは回避できると理解してよいのだろう。

マクロン大統領が演説の中で「今は戦時である」と何度も言うのを聞いたとき、私はいくつかのことを考えた。

「戦争」とは物騒な物言いだと思ったが、疫病と戦争には確かにいくつか共通点があるとも思った。どちらも国全体、全住人を巻き込む事態であり、そんな大きな経験の後には世界が変化せずにはいないだろう。

一方、疫病は戦争とは違い、国家が、人間を殺すのではなく人間の命を救おうとしていることに少し感動しながら、確かに政治の指導力が必要な場面であると痛感した。

そうであるだけに、おろかな指導者に導かれたら悲惨ではないか。非常時にトップがおろかというのは災い以上に災いというほかない。コロナ対策に「和牛商品券」とかいうニュースが舞い込んでくると、このようなトンチンカンな政策を思いつく政権に危機の国家運営を任せていることが今まで以上に、不安になる。

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中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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