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今年の春はほとんど窓越しに(あるいはベランダから)見やって過ぎた。引きこもった当時はまだ若草色をしていた木々に、今はマロニエの花が咲き、鳥が巣作りをしている。緑はずいぶん深みを増した。
外出禁止令が出て6週間、フランスでは、4月28日現在、Covid19による入院患者数は2万6834人、21日連続で減少している。この日、首相は5月11日に外出禁止令を解除するべく、その方策を国会にかけ、可決した。

ロックダウン解除、しかしそれはコロナ危機が去ったことを意味してはいない。ただ医療崩壊の危険がとりあえず避けられたから、ワクチンができるまで(パストゥール研究所の算定によると、5月11日までの感染者数は約370万人、フランスの人口の5・7%になるだろうとのことなので、集団免疫にはほど遠い)、これからまた少しずつ感染して行きましょう、ということにすぎない。感染者数がまた医療機関を脅かすほどに膨れ上がれば、再度の外出禁止令が出る可能性がある。それでも感染の危険を冒して軟禁状態を解かなければならないのは、これ以上になると経済のダメージが大きすぎるからだ。実際、6月に営業再開できなければ倒産する危険のある事業主は多く、大量の失業が心配される。

こういう経済的な要求と医学・衛生的な要求との矛盾の中でロックダウン解除計画がまとめられたが、それをよく表すのが学校再開だ。
政府は4月13日に1カ月後の学校再開を早々と告知したが、その後、医師・科学者による専門家会議は2回にわたって、学校は9月まで閉鎖するのが望ましいと意見を述べた。子どもは重篤化するケースは非常に少ないが、無症状で感染を拡げる可能性は非常に高い。
専門家会議は、再開するならばと、取らなければならない事細かな予防措置を並べ立てた。クラスを半分ずつ授業する、机は1メートル以上離す、給食は食堂でなく教室でとるように、他のクラスの子と交わらないようにするなど、大変細かい指導で、誰が見ても、とても全部完全に実施はできまいと思う。
結局、学校は再開するが、通わせるかどうかは保護者の自由という形になった。
小さい子ほど、自分で社会的距離を保ったりできないのに保育園や幼稚園にあたる保育学校、小学校から先に学校を再開するのは、両親を仕事に復帰させることが主眼だからだろう。その後、中学低学年が続き、高校は5月末までは始まらないとだけ決まっており、再開は明示されていない。

これがウイルスと共存しながらの生活の第一歩となるかと思うと、課題は山積みのような気がする。フランス全土がロックダウン解除になるかどうかもあまり確かでない。というより、5月7日の時点で、おそらくレッドゾーンに分類されるだろうパリと近郊などは、外出禁止が続くか、緩和されても制限は厳しいものになると予想される。
すぐに元に戻ることはできない、いや、ロックダウンとその後の経験を通じて、元とは違う世界が現れるだろうと、私も多くの人と同じように、この危機の最初から感じている。それがどんなものになるのか、ロックダウンが解除される前に、少し考えてみたい。

外出禁止令下の生活が私に意識させた一番のことは、私たちがもうインターネットのない生活ができなくなっているということだった。そして私たちのネットへの依存は、この経験を通じて今までになく深まったと思う。
 
たとえば学校教育だ。フランスには、小中高校の全課程を通信教育で修めることのできるシステムがあるのだが、全国の学校が休校になると同時に、これへのアクセスを解放した。残念ながら、対面の授業があるわけでもなく、課題のプリントをネットを使ってやり取りするというだけで、中身が旧来の通信教育と変わらないシステムだったので、ネット環境が整っていて、親がサポートできる子どもしかついて行かれず、子どもの学力差が広がるという格差問題が浮上してしまった。リモート授業は失敗して、学校を急いで再開するもう一つ理由ともなってしまった。
しかし長期的にみれば、これはリモート授業のきっかけとなり、今後、改善をともなって発展するのではないかと私は思う。端末を全員に普及させる、授業の内容を、もっとインタラクティブなものに改変する、少人数のグループを作って監督する大人をつけるなど、改良の余地はいくらでも思いつくからだ。もし今後、Covid19の第二波あるいは別の疫病のために再ロックダウンされる未来があるとすれば、学校がネット授業をもっと活用するものに変わって行く可能性や必然性があるような気がする。「学校教育」というものが19世紀に作られたときと同じ形のままとはいかなくなってきた。

リモート授業だけではない。ロックダウンは、すでにインターネット時代に頭を突っ込んでいたわれわれを、決定的にその中へ送り出したと思う。たとえばテレワークだ。
たとえ外出禁止令が解かれても、しばらくの間、少なくとも6月初めになるまではテレワークが推奨されている。もし無事にこの観察期間が過ぎてロックダウン緩和がさらに進んだとしても、すべての人がテレワークを放り出して職場に戻ることはないだろう。
フランスでは、ロックダウン以前、100%テレワークをしていたのはわずか3%だった。現在は24%、4人に1人がテレワークをしており、パリとその近郊に限ると、この数字は40%にも上る。しかもそのテレワーク人口の49%が、オフィスワークとパフォーマンスに変わりはない、20%はテレワークのほうが効率が良いと答えている。テレワークではパフォーマンスが劣るとしたのは31%だった。この流れでテレワークはかなり定着するのではないか。

ネットショッピングもロックダウン中に成長した分野だろう。リアルの店の打撃を尻目にアマゾンは売り上げを増やした。スーパーや専門店もネットで注文を受け、レストランは店を閉めなければならない中、許可されていた料理の宅配を進めた。ランジスという青果卸市場からじかで買えるという情報が入ったのもびっくりした。ネットショッピングは配送業と表裏一体で、配達する人の労働環境も含め、物流も変わる要素があるかもしれない。

フィットネスの動画配信も隆盛を極めた。世界中の交響楽団がメンバーがそれぞれ自宅から演奏して合奏したリモート演奏を公開した。そんな姿を見ていると、ロックダウン状態になっても本業を補うことができるネットを使った新たなビジネスをいろいろな分野で人々が考え出すだろうと思えた。
 
しかし恐怖を覚えたこともある。本当に新しい時代に入ってしまうのだと私が思ったのは、フランス政府が検討しているStopCovidというアプリである。これは、スマートフォンのBluetoothを通じて接触があった人々が記録されるテクノロジーで、これをコロナ対策に応用すると、自分が感染者と接触があった場合に知らされて、PCR検査を受けることが可能になる。誰かがコロナ陽性と分かった場合に、その人のスマートフォンに残された記録から、過去14日間に接触した全ての人たちが判明するからだ。
PCR検査の充実は、ロックダウン解除の条件でもある。陽性患者を効率的に見つけて隔離できればウイルスの拡散が防止でき、やみくもにすべての人を自宅軟禁しなくても済む。フランスは5月11日時点で、症状のある人および、陽性確定者と接触が会った人たちを対象とする検査が1週間に70万件できるキャパシティーを整えるとしている。無症状であっても感染の危険のある人がStopCovidによって判明しPCR検査を受けられるなら、感染拡大を防ぐには大きな役割を果たすだろう。
しかし、それと引き換えに、誰が誰に会ったかというような個人的な情報を国家あるいはデジタル関係企業・組織に握られて良いものだろうか。情報は個別、Covid19に関してだけ使われるものだと銘打たれていても、誰が信じるだろう。
StopCovidは議論を呼んでいるが、国会で個別に審議されることなく、ロックダウン解除案の全体にひっくるめられて可決されてしまった。 
私たちはすでに、インターネットの利用を通じて、自分に関する情報の多くを知らない企業に握られているのだけれど、「安全」と引き換えに、個人の自由をまたしても少し多く、売り渡すことになるのだろうか。

新コロナウイルスの世界的流行は、昨日まで想像もしなかった世界に私たちを導き入れた。コロナ後の世界は、コロナ前の世界と決して同じではないし、また同じであってもいけないのだが、願わくはそれがより良いものであり、恐ろしい世界にならないようにと思う。流されているうちにわからなくなるので、立ち止まって考えることをしなければと自分に言い聞かせる。本当は、もっといろいろなことに触れたいのだけれど、もうかなり長くなってしまった。なので今回はインターネット、デジタル通信関係のことに限ってここで終わることにしようと思う。

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中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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