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看護師とのバトル

深井恵2020.10.14

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「意地悪な看護師が多い……」。面会に行くたびに母が口にするようになった。母の気のせいかもしれないかと思いつつも、私に対する看護師の応対も心なしか冷ややかな印象を受けていたのも事実だった。

病院の食事には、訓練食のゼリーと一緒に、熱いお茶がついていた。母は熱いお茶は苦手で、冷水がいいと言っていたので(末期の胃がん患者に熱湯を飲ませるのはいかがなものか)、看護師に「食事のときのお茶を冷水に変えていただけませんか?」とお願いしていた。

しかし、何度言ってもお茶は冷水に変わらず、「連携ミスなのか、この病院は」といぶかしんでいた。夕方自分が病院に行ったときには、冷水に汲みかえて飲ませた。

訓練食のゼリーしか食べられない食事制限が始まって、それでも「ニガウリが食べたい」と言っていた母に、一食につき2~3切れのニガウリのスライスをみじん切りにしたものだけが許されていた。

朝昼晩の食事ごとにニガウリ2~3切れのみじん切りを食べられるように、病院に届けていた。病室の冷蔵庫にニガウリを入れておくと母が勝手に食べてしまって危ないからと看護師に言われ、冷蔵庫を使わせてもらえなかった。

冷蔵庫が使えれば、前日の夜に翌日の朝と昼のニガウリを看護師に託せるのに、それができないため、季節柄、食中毒も心配して、毎朝出勤前に朝食と昼食分のニガウリを保冷剤付きで病院に届けていた。朝と昼は、看護師がニガウリを食べさせてくれる約束だった。夕食分のニガウリは仕事が終わってから病院に持っていった。朝夕一日に2回の病院通いが続いた。

土日も朝ご飯に間に合うように、早起きしてニガウリを届けた。母にとって病院食は「おいしくない」ゼリー1個。ニガウリだけが唯一の食の楽しみだった。夕方仕事が終わってニガウリを届けると、病院食のゼリーを食べた後に、ほんの少しのニガウリをおいしそうに食べていた。「もっと食べたい」と言って私を困らせた。

ある日、夕方仕事が終わって面会に行くと、いつものように看護師に付き添われて点滴につながった状態で母が病室から面会室で歩いてきた。母の手には、私が保冷剤入りで朝病院に届けたバックが握らされていた。母からバックを受け取り、「朝と昼、ニガウリ食べた?」と聞くと、「食べてない」と言う。中を確認すると、朝持っていったそのままの状態で、ニガウリが残っていた。

母の唯一の楽しみであるニガウリを、食べさせずに、食べたがる母の手にそのまま握らせて持って来させる看護師の神経にブチ切れた。これが母の言う看護師の意地悪かと思い、「ふざけんなよ!!」と面会室で叫んだ。

私の叫び声を聞いて、ナースステーションから看護師が駆けつけた。なぜ食べさせていないのか問いただすと、言い訳じみたことを言った。

翌週、担当医とソーシャルワーカーに別室に呼ばれた。医師が言うには、食事制限のためお腹を空かせた母が、看護師に対して怒鳴ったり手をあげたりして、看護師たちが母を悪者扱いしていて、冷ややかな態度になっている。安易にベッドに縛りつけたりして、虐待のようで目に余るようになった。このままでは良くないので、転院してはどうかということだった。

転院先に提示されたのは、一つ目がホスピス。だが、ホスピスは精神疾患や認知症を患っている人は受け入れてくれないと言う。もう一つは、地元の精神科病院が経営している高齢者施設。しかし、その施設は、地元の評判が悪く、母もその施設には絶対に入りたくないと以前から言っていた施設だった。私としても絶対にそこには入れたくなかった。

精神科病院の経営だから、外科の専門医もいないので末期の胃がん患者に対応できるはずもなく、薬で眠らせるのが関の山。しかも、コロナの影響で、一旦入院したら、死ぬまで二度と面会が認めてもらえない恐れもあった。

転院するか、冷ややかな看護師に看護を託すかの二者択一を迫られた。だが、それっておかしくないか。教員だって、生徒の態度が悪いからといって、その生徒をいじめていいわけは無い。態度が悪い患者だから意地悪をしていいことにはならないのではないか。それに、これは母だけの問題ではない。また別の気に入らない患者が現れたら、また意地悪をするのか。それは許されないだろう。医師にそう反論した。

転院するかどうかの結論はすぐに出さなくていいから、しばらく検討してと言われ、その日は病院を後にした。どうしたものかと、別の病院に勤めている看護師の友人や介護職の同級生などにアドバイスを求めた。

看護師の友人は「誰も患者へのいじめを止めないのはおかしい。看護部長に直訴する方法もある」とアドバイスをくれた。介護職の同級生からは、転院先に勧められた施設の詳しい評判を聞いた。やはり、しないほうがいいと言う結論に達した。

それから一週間ほどして、母の体に腹水が溜まり始め、腹水を抜く手術をしなければならなくなった。その手術後、絶食が始まった。もうニガウリも食べられなくなった。尿道カテーテルも施され、寝たきりの状態だった。

こんな無力の患者に対して、もう意地悪しないだろうと思っていた。しかし面会に行ったら、紙おむつが母の頭の下に敷かれていたことがあった。更に、ナースコールが使えないようにベッドの柵の下に押し込められていた。

「頭の下に紙おむつが敷かれているのはなぜなんですか」看護師に問い詰めた。「吐瀉物を受け止めるためです」と看護師は言った。「オムツを頭に敷くなんてありえないでしょう!」嫌がらせは続いていたのだ。

堪忍袋の緒が切れて、次の日、病院に電話して看護部長に直訴した。意地悪な看護師が多いと母から聞いていたこと、担当医から転院を勧められたことなど、これまでのいきさつを詳しく伝えた。看護部長は、今回の母の件を全く知らなかった。

その後、病棟の看護師たちの対応に変化が現れた。看護部長が指導してくださったのだろう。寝たきりの母に対して、手のひらを返したように優しい対応になった。病棟の看護師長に別室に呼ばれ、できることがあったら何でも言ってほしいと言われた。

こんなことなら、我慢せずにもっと早く看護部長に直訴すべきだった。母に申し訳ないことをした。今回のようなケースは、どうも珍しいケースでは無いようで、介護にしても、意地悪をされたと言う話を、最近友人から聞いた。看護や介護をしてもらっている立場だからいいにくい…そう考える人も多いのかもしれないが、誰しも心地よく看護や介護を受けられるに越したことはない。

看護も介護も、いずれ自分の身にも降りかかってくることだ。「おかしい」と思ったら声を上げる。それが、すべての人の心地よい看護・介護につながると信じている。

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深井恵(ふかい・めぐみ)

九州某県の高校日本語教員。
日教組の「教え子を再び戦場に送らない」に賛同して組合加入。北原みのりさんとは、10年以上前(ジェンダー・フリー・バッシングがひどかった頃)に組合女性部の学習会講師をお願いして以来の仲。

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