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 1月にわたしの主催しているRHRリテラシー研究所で「中絶薬の基本」に関するオンライン学習会を開いた。その時に用いたWomen Help Women(WHW)のスーザンさん提供のパワーポイントのタイトルが「中絶薬について誰もが知っておくべきこと」だった。昨年、国際セーフ・アボーション・デーJapanプロジェクト(現 #もっと安全な中絶をアクション)のメンバーにレクチャーしてもらった際に資料を翻訳し作成した日本語版だ。

 WHWは(国が承認していないなどの理由で)安全な中絶薬が得られない国々の女性たちに中絶薬を送付する活動を行っている国際NPO団体のひとつ。Women on Web(WoW)というグループも同様の活動をしているけれど、WHWは各国にホットラインを作ることにも力を入れていて、無料でレクチャーをするばかりか、ボランティアを募ってその資料を各国語に訳し、現地で学んだ人たちが、その翻訳版の資料を使って、さらに多くの国内の女性たちに情報を広められるようにしている。

 スーザンのレクチャーを受けてからすでに半年もたってしまったのだけど、年内には承認される可能性が高まってきた中絶薬について、世間ではだいぶ誤情報も出回っているので、ここから頑張って正しい情報を広めていきたいと思っている。

 そこで今日は学習会で伝えた内容をちょっと紹介してみたい。関心をもってくれる人がいたら、ぜひ学習会を開いて、より多くの女性たちに中絶薬の基本を伝えてほしいです!

 まず大切なのは、「中絶は特別なことじゃない。どんな女性にも起こりうる」ということだ。中絶を法で禁じたり規制をかけたりすると、中絶にアクセスしにくくなり、安全な中絶を受けにくくなる。下手をすると、安全でない中絶に頼るしかならなくなってしまう。これはどの国でも等しく言えることだ。

 薬による中絶について、すべての人が知っておくべきことのポイントは6つ。

  • 中絶薬(アボーションピルズ)はどう作用するの?
  • どんな人なら中絶薬を使っていいの?
  • WHOが定めている服用方法(プロトコル)は?
  • 薬による中絶で何が起きるの?
  • 中絶薬って安全? 医者を通さずに飲んでも平気?
  • どんな合併症がありうるの?

 前回説明した通り、薬を使って中絶できるということを最初に発見し、口コミで広めたのはブラジルの女性たちだった。現在、日本で承認申請されている「中絶薬」はミフェプリストン(MF)とミソプロストール(ML)という二種類の薬を組み合わせた「コンビ薬」だけど、ブラジルの女性たちはミソ(ML)を繰り返し服用することで8割以上も中絶に成功するということに気づいて口コミで広め、違法の中絶で死ぬ女性がぐんと減ったと言われている。「情報はパワーになる」――正しい知識は女性たちをエンパワーしたし、自分の力で中絶できた女性たちは自分に自信をもつことができたに違いない。

 さて、ここからは現在日本で承認申請されている「中絶薬」の作用について説明したい。まずミフェプリストン(MF)1錠を水で飲む。ミフェプリストンとは妊娠を継続するために必要なプロゲステロンと呼ばれるホルモンを止める作用をもっている。なので、この薬を服用すると子宮内膜に着床していた妊娠産物がはがれ始め、やがて妊娠そのものが終了する。

 それから24時間~48時間後にミソプロストール(ML)4錠を服用する。「あれ? 先月の記事では36~48時間後って書いてたよね?」と疑問に思う人がいるかもしれない。実は現在、薬の服用法――特に服用間隔については諸説ある。同じWHOでも本によって少しずつ違っていたりする。薬の処方法についてどんどん新しい知見が出ているためで、どの説を採用すべきかについて意見が一致していないのだ。必ずしも最新の情報が常に正しいというわけでもない。WHOの最新バージョンの情報では時間で表現するのはやめて、ミソプロストール(ML)を「翌日服用する」という言い回しを採用していたりする。MLは基本的に「すでに妊娠が終了している」組織を外に出すために服用する薬なので、どのタイミングで行っても大差はないので心配はいらない。基本はMFを服用してから1日または2日後と考えておけば大丈夫。

 ミソプロストール(ML)はちょっと特殊な服用方法を用いる。左右の頬と歯ぐきのあいだにML2錠ずつ置き、30分ほどそのままにしておくことで徐々に溶けていくのを待つのだ。30分経ってもまだ錠剤が残っていたら、そのまますべて飲み込む。これについても、30分後に残っているものがあったら吐き出していいと説明しているものもある。結論から言えば、どちらでもノー・プロブレムなのだ。それ以外にも、舌(べろ)の下に4錠置く方法や、膣内に薬を入れるという方法もかつては使われていたが、最近は「頬と歯ぐきのあいだ」とされていることが多い。要は、時間をかけてじわじわと溶かすのが重要だということだ。

 ミソプロストール(ML)は子宮を収縮させる。じつは子宮は筋肉でできていて、月経血も、妊娠産物も、子宮が収縮することで外に押し出される。月経痛はこの子宮収縮の痛みで、薬を使った中絶の際に「月経痛に似た痛み」があると言われるのは、まさに月経の時と同様に「収縮」が起きているためである。これを「陣痛のような痛み」と表現した日本人医師がいたが、そんなことはありえないそもそも通常のお産の時に出てくるのは相当に大きくなった赤ん坊で、鼻の穴からスイカを出すのと同じくらいの痛みだなどとも言われる。妊娠9週の妊娠産物は2~3グラム程度にすぎない。陣痛と同じような痛みがあるわけはない

 中絶薬は人工的に流産を引き起こすものだと知っておいてほしい。自然流産も、薬による人口流産も症状はまったく同じ。副作用やその治療方法もまったく変わらない。そもそも、全妊娠の15~20%は自然流産に終わっているということも知っておいてほしい中絶薬で起きることは女性のからだにとって、決して異常な事態ではないのだ。

 とはいえ、中絶薬には禁忌(避けなければならない)事項がある。WHWでは次の6項目を注意事項として挙げている。

1.検査薬または超音波で妊娠を確認しておく

2.妊娠12週未満(最終月経開始日から84日目まで)であるのを確認すること(★WHWでは9週までではなく12週まで使えるとしているのだ!)

3.きちんと計画を立て、誰かに一緒にいてもらうこと

4.重い病気にかかっていないこと、IUDを使用中でないこと

5.2時間以内に病院に行ける手段があること

6.自らの自由意志で中絶を選択していること

 

 IUDとは子宮内避妊具のことで、日本ではノバT(銅付加IUD)やミレーナ(IUS)が一般的に使われている。産婦人科で入れてもらわなければならない器具なので、自分が知らないうちに入っていることはない。

 WHWが大事にしているのは、6番目の「自らの自由意志で中絶を選択していること」だ。「薬による中絶を成功させたい」というモチベーションが高い人は、きちんと説明書を読み、正しい方法で服用しようとする。自分の健康、自分のからだを、自分で守ろうとする意志、それが何より大切になる。

 続いて副作用について説明しておく。中絶薬の副作用は多様で、経験する人も多い。ほぼ半分くらいの人が何らかの副作用を経験しているようだ。一般的な副作用は、嘔吐、下痢、発熱、頭痛と言われる。いちばんやっかいなのが嘔吐で、薬の成分を吐き出してしまっては効果が下がる恐れがあるためだ。なので、吐き気止めは準備しておいた方がいいかもしれない。下痢止め、解熱剤、鎮痛剤なども手元においておくと安心だろう。副作用はミソプロストール(ML)服用後1時間以内に起こることが多いと言われている。多少不快かもしれないけれど、必ず終わるので恐れることはない。

 通常、ミソプロストールを服用してから4時間ないし7時間後くらいに、生理痛のような痛みを伴う出血が始まる。これは中絶が始まったしるしなので大丈夫

 ミソプロストールの服用後、どれくらい出血や痛みがあるのかは人によって非常に幅があると言われている。気づかないくらいの痛みや軽い出血で終わる人もいれば、強い痛みと重い出血のある人もいるが、中度の痛みと中度出血がある人が最も多い。多くの人は翌日には強い痛みもなく、普通に過ごすことができる。軽い出血が3週間ほど続く人もあるけれど、後で説明するような合併症の兆候が見られない場合には心配はいらない

 WHWの資料は「目にするかもしれないもの」の大きさを妊娠週数ごとにコインとの比較で示している。今回の日本の中絶薬は妊娠9週まで(正確には妊娠8週と6日まで)なので、流れたものをしっかり目で確認できない場合もあるかもしれない。小さいし、まだ「赤ちゃん」の形をしているわけでもない

 気を付けるべきなのは、合併症の兆候を見逃さないことだ。主に3つある。

1.大量出血:大型のナプキンの交換が1時間に2度以上必要な状態が2時間以上続いている場合(つまり、大型のナプキン4個を2時間で消費してしまった場合)

2.高熱:39度を超える熱が出た場合。または38度台の熱が24時間以上続いている場合。

3.強い痛みや異常なおりもの:強い痛みが何時間も続いている場合。においの強いおりものが出た場合。

 そんな時にはすぐに医療にかかる必要がある。

 中絶が成功したかどうかも以下の症状で自分で判断できる。

  • 出血がある(通常の月経より多量)
  • 身体の変化、妊娠兆候の減少・消失(つわりが消えた、胸の痛みがなくなったなど)
  • 2~3週間後に妊娠検査薬を使用する(早すぎてもダメ!)

もしくは

  • 約10日後に超音波検査で確認する

 中絶後のケアとして大切なのは、「最低2日間は膣内に何も入れない」こと。膣内挿入を伴うセックスは禁止、タンポンも使わないことだ。また、薬による中絶が終わっても、すぐに妊娠する可能性はあるので、セックス再開の場合には、必ず避妊をしてほしい。

 中絶薬の安全性について、いくつかアメリカのデータを紹介しておこう。

  • ペニシリンは患者10万人あたり2人に致命的な反応有
  • バイアグラの死亡率は10万人あたり4人
  • 出生10万人あたりの妊産婦死亡率は8人
  • 薬による中絶 - 2020年以降の370万人中死者は24人~10万件あたりの死亡率は6人以下

 つまり、出産のリスクは薬による中絶の14倍にものぼるわけ! WHOでは、合併症が起きた場合の対応を理解していれば、女性が自己管理で薬による中絶を行うことは安全であるとしている。

 中絶については様々な神話があるけれども、すべて嘘だと心得ておこう。

✖ 中絶すると乳がんになる
✖ 中絶するとうつになる
✖ 中絶すると将来子どもが産めなくなる
✖ 自宅で薬による中絶を行うのは安全ではない

 中絶薬について正しい情報をもち、厚生労働省や医師たちの誤情報にまどわされずに、より安全でアクセスしやすい中絶方法を求めていこう。

 現在、Change.orgで「中絶における女性の負担を減らしてください」で署名を集めているのでぜひご協力を!

*WHWの資料はRHRリテラシー研究所のサイトでダウンロードできます。

https://www.rhr-literacy-lab.net/

 

 

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塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書に『日本の中絶』(筑摩書房)、『中絶のスティグマをへらす本』(Amazon Kindle)、『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)、翻訳書に『中絶がわかる本』(R・ステーブンソン著/アジュマブックス)などがある。

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