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スクールフェミ 「はじめにタブレットありき」でいいのか

深井恵2022.11.08

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1人1台タブレット端末が導入されて、「せっかく生徒にタブレットを持たせたのだから毎日使わせなければならない」と、タブレットを使った授業実践が求められるようになった。生徒に使わせるようにするためには、教員自身がタブレットを使いこなせなければならず、やたらと教職員向け「ICT研修」が増えている。日常の業務が減ったわけでもないのに、学ばなければならない様々なアプリの操作方法の研修が加わり、多忙に拍車がかかっているのが現状だ。

教員が小テストを作成して、生徒一人ひとりのタブレットに配信するという実践もその一つ。国語の漢字テストや英語の単語テストなどで活用されているという。印刷する手間が省ける上に、ペーパーレスにもつながるし、紙のように紛失することもないから復習するのにも便利だとのこと。だが果たして、タブレット配信の小テストは良いことずくめなのか。筆者自身の紙を使った漢字テストを振り返って、タブレット配信と比較して考えてみた。

日頃行っている漢字テストは、漢字テスト用紙を1人1枚ずつ配布し、出題は音声で行った後、視覚でも捉えられるように板書もする。例えば「一番 猫がイカクする。イカク」と口頭で出題した後、黒板に「1 いかく」と書くというやり方だ。毎時間10問出題し、出題し終わった後、生徒10人に黒板に解答を書いてもらい、ポイント解説する(例:専門の専には右上の点は無い。成績の績はいとへん。「りっしんべん」は心を表しているなど)。

問題文を事前に印刷した漢字テスト用紙を作成して配布する方法もあるが、その方法はとっていない。毎時間新たな漢字テストを作成・印刷しないといけないし、問題文が印刷されていると、出題に「音声」が入り込む余地がなくなるからだ。実は、この「音声による出題」にこだわっている。

日常会話で交わされる言葉は、まさに「音声」による。日常会話は、言葉(熟語)を、耳で聞いて頭の中で漢字を想起し、意味を瞬時に理解することの積み重ねだ。いまではユニバーサルな観点から、テレビも動画も字幕が増えてきたが、日常会話に字幕は存在しない。音声による漢字テストは、言葉を聞いて意味を理解する場を、意図的に作り出している。

タブレット配信による漢字テストで「音声」を導入しようと思えば、これまた、その都度、教員が音声による出題のための録音、文字による配信と両方の準備をする必要がある。省力化を図るはずのタブレット配信が、仕事を増やすことになりかねない。また、音声を同時配信して、授業中に生徒全員が配信された音声を再生すると、お互いの聞き取りを邪魔しかねない気もする。

加えて、板書を使っての漢字テストだと、50分間の授業中、ずっと生徒の目の前の黒板に漢字のポイントも含め提示され続けるが、タブレット配信では画面が切り替わり、過去の画面となって生徒の目の前から消える。どちらが頭の中に定着するのか比較のしようがないけれど、50分間提示され続ける方が記憶に残りそうな気がするが、どうだろう。解説した板書を写真に撮って、生徒にタブレット配信すると復習には効果的かもしれない。

また、タブレットを用いた英語の授業で、生徒自身が話す英語を録音させて、再生確認させるという取り組みや、タブレット配信されたワークシートに英作文をさせる取り組みも行われている。録音再生も英作文も、生徒一人ひとりが録音・英作文したものを、教員側が一括集約できて、一人ひとりの発音・英作文が正しいかを後で再生・確認できるというものだ。

「話すこと」の確認テストとして、個別に一人ひとり呼んで発音が正しいか確認するには時間がかかり、また、授業外で生徒を呼んで確認するのは生徒・教員双方に負担が大きかった。だが、授業中に各自に録音させれば、教員が後で空いた時間に生徒一人ひとりの発音の確認や個別指導ができるため、非常に効果的だ。

この音声録音は、国語の授業で古文の歴史的仮名遣いを正しく読めているかを、個別に確認するのには有効活用できそうだ。ただし、授業後に何十人もの生徒の音声を再生する時間を費やすことになり、使い方次第では、負担軽減どころか負担増になってしまう。

英作文については、こっそり翻訳アプリを使って解答している生徒もいて、タブレットを使うことの一長一短を垣間見た。漢字テストもタブレットでは「入力・変換されて終わり」になりかねない。

また、タブレットさえあれば辞書はいらないのではないかという事態になりかねないことも懸念している。調べたい単語を入力すればダイレクトに意味が出てくるタブレット。かつて電子辞書が出てきたときにも、紙の辞書にこだわっていた。紙の辞書へのこだわりは、いまも変わらない。

それは、一つの言葉を調べるのに、その言葉にたどり着くまでの「遊び」の部分だ。調べたい言葉にたどり着くまでに、様々な言葉との出会いが、紙の辞書にはある。語彙を増やすにはもってこいだ。日頃の授業時に、短時間だが、「知らない言葉を見つける時間」を設けている。国語辞典を開いて、知らない言葉を一つ見つけて、意味に目を通す。ただそれだけだ。生徒の中には、休み時間に国語辞典を読んでいる生徒がいて、なかなか頼もしい。

かつてワープロが登場し、PCが普及し、そしていま、タブレット。荘子の言葉「機械有らば、必ず機事有り。機事有らば、必ず機心有り」を思い出す。新たな機械が導入されて、楽になるかと思ったら、その分、仕事が増えて心まで病んでしまう。ブルーライトが視力の低下につながるのではないか。電力不足なのに全国の子どもたち・教職員がタブレットを毎日充電していていいのかなどなど、タブレットの矛盾を感じる日々。「はじめにタブレットありき」には疑問を持ち続けたい。

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深井恵

深井恵(ふかい・めぐみ)

九州某県の高校日本語教員。
日教組の「教え子を再び戦場に送らない」に賛同して組合加入。北原みのりさんとは、10年以上前(ジェンダー・フリー・バッシングがひどかった頃)に組合女性部の学習会講師をお願いして以来の仲。

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