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原発事故の記憶の風化 77%が映し出す、現在のセージ

岡野八代2014.04.16

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2014年3月11日、あの東日本大震災から3年が経過しました。もう、3年なのか、まだ3年なのか、あの日をどこで誰とどう過ごしていたのか、一人ひとりこの3年間という時の長さは、まったく違って感じられているに違いありません。 3月4日に朝日新聞と福島放送の共同調査が発表されました。調査結果によれば、福島県民で、福島第一原発事故の被災者への関心が国民の間で薄れ、その記憶が風化しつつあると不安に思っている人は、77%にも上り、そう思わない人の19%を大きく突き放しました。 この数字を見て、わたしが思い出したのは、アジア人女性初のノーベル平和賞を受賞したアウンサンスーチーさんを描いた映画『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』(英仏合作、2011年、リュック・ベンソン監督、ミシェル・ヨー主演)のワンシーンです。スーチーさんは、1989年から2010年までその民主化運動が危険視され、なんども自宅軟禁を強いられながら、ビルマ(現ミャンマー)の民主主義と自由のために闘い抜いた、女性です。 彼女は88年までイギリス・オックスフォードでイギリス人の夫と幸せな家族を築いており、母の看病のために民主化運動が盛り上がる故郷のビルマに一時帰国します。しかし、その際、祖国独立の英雄とされる亡き父アウンサン将軍を慕う民衆から、民主化運動を主導するのはあなたしかいないと伝えられ、イギリスに住んでいる家族と離れて暮らすことになることを承知で、ビルマ市民の期待に応えるのでした。 長年にわたる自宅軟禁を経験するなかで、スーチーさんを監視する若い兵士に彼女は、次のようなとてもシンプルな言葉を伝えます。

あなた方は政治には関心はないかもしれないけれど、政治はあなたがたのことを考えているのです。 You may not think about politics. But politics thinks about you. ここでもう一度、77%という数字に戻ってみましょう。 77%の福島県の人たちは、国民の関心が薄れること、事故の記憶が風化していくことを深く懸念しています。つまり、事故――言うまでもなく、今でも続いています――について、そして現在の福島県民が直面している様々な被害や危害、心の傷について、彼女たち以外の人びとが関心をもたなくなってきている、ということ対して不安を訴えているのです。再度違う言葉で繰り返すと、自分たちが否定しようもなく直面し、忘れようにも一時も頭から離れることのできない問題や葛藤、辛い記憶が、日本国民にとって他人事になっていることに、この上ない不安と、おそらく怒りをも感じているのです。 わたしたちは日常生活を送るなかで、自分の身の回りのこと・ひと以外に想いを至らせることはほとんどありません。このように書いているわたしも、自己中心の世界しか見えていません。では社会で生きるわたしたちは、他人に無関心で、無関係に生きていけばいいのでしょうか。 ここに政治の大きな役割があります。スーチーさんの言葉は、民主主義という政治のしくみをとてもよく言い表しています。民主主義は一方では、市民が自分の意志で「みなに影響を与える事柄」について決める、ということを意味しています。他方で翻って、民主主義を掲げる政治は、〈一人ひとりを同等の敬意をもって、同じように傷つきやすいひととして扱わなければならない〉のです。ですから、〈わたしたち〉の代表である政治家は、自分に投票していない市民に対しても、けっしておろそかにしたり、彼女たちの痛みから耳をふさいでしまったりしてはならないのです。 つまり、政治家の役割の一つとは、日常生活を送っている限りはなかなかわたしたちには届いてこない、多くの人の声を、わたしと同じようにこの社会を共有している〈わたしたち〉の声として伝えることにあります。 そのように民主主義を考えると、この77%という数字は驚がくすべき数字です。日本で民主主義が機能していない、一つの証拠とさえ言えるでしょう。福島県民の77%のひとが、日本における〈わたしたち〉から見捨てられている、〈わたしたち〉には入っていないと感じているのですから。 2020年のオリンピック誘致のために、安倍首相は、福島第一原発事故が「アンダー・コントロール」にあるという「嘘」をつきました。 政府は、岩手、宮城、福島に復興事業として5年間で25兆円を計上していますが、予算を使い切れず、貯蓄としてどんどんと積み上がっています(12年度決算で、3兆9千億円の残高)。また、復興事業が本来復興と何ら関係のない事業につかわれていることも、何度も報道されました。 2014年1月現在福島では、計画中の災害公営住宅が、計画数7583戸のうち、わずか146戸が入居可能な状況で、計画の2%しか工事が完了していません。 そして、なによりも驚くべきことは、15万人もの避難者を出し(福島県には2011年3月1日現在では、約202万人の県民がいました)、あるいは避難することも適わず、日々未来の健康被害に怯えている福島の人びとをしり目に、日本政府は日本産原子力発電所を国際的にセールし始めたことです。そして、あたかも3年前の災難がなかったかのように、4月11日には原発回帰を閣議決定してしましました。 安倍首相は、事あるごとに「フッコー、フッコー」と連呼しています。しかし、その声は、自分たちを忘れている、見放されていると感じる福島の人たちの圧倒的多数には、まったく届いてはいません。フッコーよりも、彼女たちがどのような不安のなかにあり、なにをいま必要としているのか、どのような傷を抱えて未来を描けなくなっているのか、そうした声に耳を傾けることが、民主主義のあるべき政治、スーチーさんのいう、「関心ある政治」のはずではないでしょうか。 軟禁中のスーチーさんの論文を、イギリスにいる夫が編集した本が公刊されています。そのなかでスーチーさんは、全体主義的な社会主義とスーチーさんが呼ぶ圧政から解放されようとする市民のことをつぎのように語っています。民主主義を求める気持ちは、スーチーさんがいうように、時代や場所を選ばないものだと分かります。 freedom.jpg

なぜ民主主義をそんなに望むのかと聞かれたら、政治にまったく関心がない人でさえ、こう答えるでしょう。 「わたしたちは、自由に、平和に、ふつうの暮らしをしたいだけなのです。他人の邪魔をせず、不安も恐れもなしに、慎ましい生活を送れるだけ働くことができればいいのです」 つまり、人々は、のどかで、一人ひとりが尊ばれ、欠乏からの自由、恐怖からの自由がある生活を望んでいるのです [アウンサンスーチー『自由 自ら綴った祖国愛の記録』(集英社、1991年)、161頁]。

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岡野八代(おかの・やよ)

同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教員。
主な著作に『フェミニズムの政治学--ケアの倫理から、グローバルな社会へ』『シティズンシップの政治学--国民・国家主義批判』『法の政治学--法と正義とフェミニズム』
趣味は女子プロレス鑑賞。プロフィール写真は加藤園子さんと一緒に。

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