ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

Loading...

 


 〈えっ、それは「選挙」でなはなく、「暴挙」でしょ〉。これが、衆院を解散するかもしれない、という報道に接したときのわたしの反応でした。すでに、「今のうち解散」、「いきなり解散」、「念のため解散」といろいろな命名がつけられていますが、ちょうど二年前の野田首相時の「近いうち解散」によって、現在の圧倒的多数の326議席を得た安倍政権は、消費税という確かにわたしたち市民の毎日の生活にビンビンと響く課題ではあるものの、〈いま10%にあげたら、さすがにまずいでしょ〉という世論が大半を占めるなか、選挙の争点にすらならないテーマによってこの選挙を乗り切ろうとしているとしか思えません。
安倍首相いわく、「税制こそ議会制民主主義と言っても良い。その税制において大きな変更を行う以上、国民に信を問うべきであると考えた」ということらしい。たしかに、政治学的には、「代表なくして、課税なし」と――驚くことに、安倍首相はこの言葉を選挙の大義の説明の道具にしてしまった――税金と選挙は、切っても切れない関係にある。しかし、そもそも政治学における基本的な考え方である「代表なくして、課税なし」について、振り返ってみることで、今回の解散総選挙がいかに暴挙であるか――そもそも、この年の瀬の忙しい時期に、無理やり700億円使ってまで選挙する意味なんてあるのか?!――、そして、それでもなお700億円もわたしたちの税金を使うのであるから、その700億円もかかる選挙でなにができるのか、ということを考えてみたいと思います。


代表なくして、課税なし、ってどういうこと?

 そもそも歴史的に議会制民主主義、つまりわたしたち市民が自分たちの代表を国会に送って、税金で雇いながら議論してもらっていることのなかで、もっとも大切な議題の一つは、わたしたちの税金をいかに使うのか、ということです。わたしたちの税金で雇った政治家が、わたしたちが支払っている税金の使い道を決める、その場が国会の場です。国会が国家における最高の機関だと憲法で定められているのは、国民誰しもが逃れようなく強制的に徴収される税金をいかに使うのかを決める場所が国会だからです。
 そして、わたしたちの税金の使い方を話し合ってくれる代表(=国会議員)を議会に送る権利こそが、18世紀から19世紀にかけて西洋社会に巻き起こった参政権運動の大きな力となりました。議会制民主主義は、かつて絶対的な君主や貴族たちが、市民や農民たちから税金だけを吸い上げておいて、そのお金を君主の領土を広げるための戦争や、自分たちのお城をきれいにするためや、王家の財産を増やすための会社設立ためになど、勝手に使うことに腹を据えかねた、市民たちの怒りから生まれてきました。つまり、税金をとられていた当時の財産家たちが、自分たちのお金の使い方をまかせられる代表を議会に送ろう、という運動が高まって議会制民主主義が生まれてきたわけです。ですので、議会制民主主義が始まった当初は、どの国でも一定程度の税金を支払っていた人だけに、参政権は限定されていました。


課税だけされて、代表なし?
 代表(=国会議員)と課税(=わたしたちが強制的にとられる税金)との関係史を振り返ると、ふと気になるのは、わたしたちは本当に代表を送り出しているのか、という問題です。今では、普通選挙ですから、税金をいくら払っているのか、という問題と参政権の問題をリンクさせて考えることはなくなりました。それでも、たとえば永住権をもった定住外国人の市民たちは、日本国民と同じように税金を払っていますし、問題となっている消費税は、国税として日本に存在しているすべての人――有権者でない、子どもたちまで含めて――が支払わなければなりません。外国人旅行者には免税品扱いとうことで申請すれば返金されるかもしれませんが、食料品のような消耗品は、免税扱いもされません。
 課税されてはいるものの、代表がいないという、議会制民主主義の根源と歴史に反するような状態は、もしかすると、参政権がある市民たちのほうが深刻化している問題かもしれません。消費税と一緒に考えるはずであったのに、政治家自身の身を切ることになるから放置されたままの、議員定数削減と大きく関わる一票の格差問題。昨年7月の参院選挙では、鳥取在住の人の一票と北海道在住の人の一票との差は4,77倍でした。つまり、北海道の人の一票は、鳥取の人の約0,2人前でしかないのです。こうした状態は、明らかに法の下の平等に反します。
それだけではありません、たとえば、原発再稼動に対する反対している人、格差社会をどうにかしてほしい、とくに労働の現場における非正規労働の問題を解決して欲しいと思っている人、根強く残る〈女らしさ・男らしさ〉のために、自由な生き方を奪われていると感じている人、そして、現行憲法を「天皇を戴く国」を前文とするようなウルトラ反動的なものへと変えてしまおうとしていることに怒りと恐れを抱いている人にとっては、税金は取られるけれども、その声を反映し、政策へと転換してくれる代表が国会にいない!状態なのです。


700億円でできること――課税されているのだから、代表を送ろう!
 『朝日新聞』11月20日付けの朝刊に、700億円あったらいったいなにができるか、といった一覧が紹介されていました。そこには、なかなか興味深い指摘がありました。たとえば、これだけ教育水準の低下やいじめが問題になっているのに、小学校1年生の35人学級を40人へと戻そうとした財務省の案に対して、700億円あれば8年間は35人学級を維持できます。また、昨年8月から来年4月にかけて削られる生活保護費や、東日本大震災から3年間に岩手県が造った仮設住宅の額がほぼ700億円だという数字も紹介されていました。
 現在の有権者数が1億人強ですから、一人700円のお金でここまでできるわけです。
にもかかわらず、首相一人が念のために、自分のために選挙をする。わたしは、今回の解散選挙を〈言い逃れ解散〉と呼んでいます。この選挙で自民党が勝ったならば、その後の政策はすべて今回の選挙を引き合いにだして、信を得ていると〈言い逃れ〉に使うはずだからです。消費税率引き上げというすでに問わなくても分かっている民意を問うための700億円。その一方で、わたしたちが本当に必要としていることとはなにかは耳を傾けられずに、選挙がなされてしまうわけです。


700億円でできることは大きい!

 有無を言わさない解散です。そうであれば、わたしたちが今700億円でできることは、たった一つ。代表と課税のそもそもの関係に立ち返ってみることです。〈民意や信を問う〉選挙ではなくて、わたしたちの声を届けるための代表を、いやもしかすると多少意見は違うかもしれないけど、お金を絶対に使われたくないと思うようなことには使わない代表を、国会に送ろう。候補者がわたしたちの税金を使って何をしようとしているのか、よく読んでみて、自分の代表を決めること。それが今、わたしたちが700億円を使ってできることです。
 代表を国会に送ろう。あまりに単純すぎて、政治の機微や力学、リアリティなど訳知り顔に語る評論家の先生たちからは笑われそうですが、700億円でできることは、じつはとても大きいはずなのです。


・集団的自衛権の閣議決定を覆す
・特定秘密保護法案の無効を求める
・非正規労働者の最低賃金をほかの先進国並みにあげていく
・社会保障費とくに若年層や子育て世代への社会保障費を上げる
・日本にある米軍基地をなくしていく方向性を見いだす
・近隣諸国と歴史認識も含めて平和的に話し合う
・憲法に書かれているように、一人ひとりの自由な生き方が尊重される


 まだまだいくつも、ここに書き込んでいけるはずです。自分自身でなにを実現してほしいか、そして、そこに近づくための代表を送ろう。わたしたちが感じている様々な大きな争点が、この選挙にかかっているのです。
 わたしたちが代表を送るのですから、わたしたちが争点も決める。
 安倍首相がどのような理由で、〈代表なくして、課税なし〉と発言したのか真意は定かではありませんが――代表者であるわたしが、課税については決めます、なんていう意味?――、わたしたちの今後の大切な税金の使い方を、しっかり討議して、わたしたちの納得する形で使い方を決めてくれる代表を国会に送ろう!

Loading...

岡野八代(おかの・やよ)

同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教員。
主な著作に『フェミニズムの政治学--ケアの倫理から、グローバルな社会へ』『シティズンシップの政治学--国民・国家主義批判』『法の政治学--法と正義とフェミニズム』
趣味は女子プロレス鑑賞。プロフィール写真は加藤園子さんと一緒に。

RANKING人気記事

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOP