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東京医科大学が、入学試験で女子の点数を低く抑えるように操作をしていたというニュースを目にしたとき、驚きのあまり言葉が出なかった。こんなあからさまな差別が、大学という教育機関に存在していたなんて。

小学校の家庭科の授業で、先生が、有名シェフやデザイナーは男性なんだよ、という話をしたのを、何十年もたった今でも思い出す。その先生は、家庭科に興味を持てない男子の動機付けのために、女性領域と思われがちな分野で一流といわれる仕事をしている人は男、という話をしたのだった。小学生のわたしは、違和感を抱いて、どんよりとした気持ちで先生の話を聞いていた。一流の仕事だとか高い評価だとかを持ち出して男子を鼓舞するのもどうかと思ったし、日常の調理と高級レストランのシェフの料理、自分や家族の繕い物とファッション業界の仕事とでは、比べる基準が違うのではないのかとも思った。
たとえば医療の世界では、医師には男性が多く、看護師には女性が多い。権威だとか高い評価が付与される側には男性が、同じ分野でも低く見られる立場の人たちには女性が多いのはなぜなのだろう。

数年前、警察学校の同期生会に参加したときのこと(退職して10年以上が経っていたのだけれど、なぜかお声がかったのだ)。
わたしは、警察学校で男女共学が始まった全国でも最初の期生にあたる。その時点でも、多くの都道府県警では、採用も男女別なら、教育・訓練も男女別だった。わたしが採用されたところも、採用そのものは男女別。男子は学歴別の募集だったが、女子は「高卒以上」とひとくくりにされて採用試験を受けた。共学といえども、厳密にはその教育訓練の内容は異なってもいた。
同期生会には、わたしたちのクラスを受け持っていた教官も参加していた。その元教官が当時のエピソードを話した。卒業時、成績を集計したら上位を女子が占めた。その結果を学校長に報告したら、苦い顔をしてそれは問題だということになり……結果、男子は高下駄を履かせて貰ったとかいう話だった。そこで、大きな笑いが起きた。

成績上位者は女子だった、それのどこが問題なのだろう? 何がマズイのだろう? 成績順に並べたら、誰かがトップになり、誰かが最後になる。当然のことだ。それが女子だろうが男子だろうが。女性が優秀だったら何が問題だというのだろう?
入学試験の点数通りに受験生を合格させたなら女子学生が多数入学することになりけれど女は結婚・出産で辞めることが多いし体力勝負の仕事だと女は男ほど使えないし云々かんぬん……という、東京医科大学が女子受験生の合格者を減らす理由として使われたとかいう「ロジック」は、ここでは全く意味をなさない。わたしたちはすでに採用されていたんだからね(言うまでもないことだが、この「ロジック」自体、全く正当化出来るものではない)。だから、女子が上位では困る理由は、別のところにある。
女子が優秀であること自体はいいことだ。けれど、男の方が劣っているという結論は許しがたい、事実はどうあれ、実際はどうであれ、表向きには、男子が女子より優秀だということでなければ困る、ということなのだ。そこで用いられるのが、女性を劣ったと存在して扱うという方法だ。

女子が男子より優秀だということを苦々しく思うのは、古い価値観にどっぷりつかった「おっさん」の価値観ゆえだということはできる。当時の担当教官は男性だったが、「事実」に忠実に、女子が上位を占めるという成績を報告している。それに納得できなかったのは、学校長だった。そこに世代のギャップを見出すことは出来る。あるいは、以前は酷かったね、という過去の話として取り上げたのだということもできるかもしれない。でもね。

その話を、当時の教官が笑いながら話し、居並ぶ人たちが大笑いしながら聞いていたのは、「今・ここ」だったのだ。高下駄履かせて貰った連中が、自分たちの能力の低さを自嘲している、という話なのではない。その影で、能力を正当に評価されなかった女子がいることを分かりながら、その女子を前にして笑っていたのだ。
それを問題だと思っていないから、笑うことが出来る。女は劣った存在として扱われるものだという前提を共有しているから、笑っていられる。差別は過去の話の中にのみあるのではない。過去の話をしている「今」に、ある。

そんな価値観に生きている人が今の警察の実働人員であるということの意味を、考えずにはいられない。たとえばそれは、女性を劣った存在として扱うことに疑問を持たない人が、DV事件を担当するということなのだから。そんな人たちのところへ、被害者が安心して駆け込めるだろうか。高下駄を履いていることを当たり前のことと思い、そのことを自らの痛みとして受け止められない人が、デモ警備の指揮にあたる。彼らの目に、差別に怒りの声を上げる人たちはどう見えるのだろうか。
そして、それはきっと、医療の現場でも同じことだと思うのだ。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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