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「ノットオールメン」という言葉

牧野雅子2019.11.28

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「ノットオールメン」という言い方がある。痴漢被害に遭った女性が、「なんで男の人はこんなことするのだろう」言ったとき、すべての男性がそんなことをするわけではない、男はみんな痴漢であるかのように言うなと、男性が女性をたしなめるようなものをいう。
わたしがインターネット上で見たやりとりの中では、女性が性被害を告白する書き込みに、すべての男性がそうではないのに、男性がみんな加害者であるかのように読める書き込みをするのはいかがなものかと、被害の告白自体にまでもの申すものがあった。もの申した人はもちろん男性である。

一部の男性の言動を、あたかも男性一般の言動であるかのように言ってはいけないというのは道理だ。その人が男性であるからと言って、その人の性質が、すべての男性に共通しているわけではない。男性にもいろんな人がいる。
それでも、性暴力被害者に向かって、すべての男性がそんなことをするわけではないと言うことの意味を考えてしまう。たとえば、被害に遭った女性が男性全般を怖いと感じていたとして、その恐怖を和らげようと、そんなことをする男性は一部であって、ほとんどの男性は性暴力を許せないと思っているし、被害者の回復に力を貸したいと思っている、と言うのならまだわかる。でも、そういう意図で、ノットオールメンの主張はされない。被害者の恐怖を和らげたいと思うのなら、すべての男性が加害者に見えてしまうほどの経験をしたことに思いを馳せるだろう。彼女の言葉に訂正を入れることが、彼女をさらに追いつめるように働くことを想像するだろう。自分は安心できる人物だと伝えたいのなら、彼女に届く言葉を選んで使うだろう。
わたしの見たところ、女性に対して、ノットオールメンを言う男性は、自分は安心できる人物ですよ、と伝えるためではなく、女性への抗議や攻撃のようにノットオールメンの言葉をぶつけている。

被害の告白を、どうしてそのまま受け止められないのだろう。それどころか、その事実を自分への非難として受け止めてしまうのはどうしてなのだろう。被害という事実があったことを認めたくない、自分の加害性を突きつけられたようで耐えられないということなのだろうか。自分が加害者ではなくとも、この社会の構成員として自分にも責任があるかもしれない、この状況を変えうる立場にいるものとしてできることがあるとは思わないのだろうか。
自分はそんなことはしない、ということは、加害性の責任を負わずにすむ免罪符にはならない。被害経験を持つ女性たちが、次の世代の人たちには同じ思いをさせてはいけないと、今という時代を作ってきた一人としての責任を感じて行動しているというのに。
自身の加害性に向き合うのではなく、自分が加害者のように扱われていることに、怒る。これは、日本軍慰安婦問題にも共通する心性だと思う。

以前、マンション暮らしをしていた頃、エレベーターに乗ろうとしたら、先に乗っていた小学生が体をこわばらせて壁に背を貼り付けるようにしてこちらを凝視したということがあった。子どもがエレベーター内で被害に遭う事件がたびたび報道されていたころで、おそらく学校で防犯指導があったのだろう。その子の表情が今も忘れられない。大人を見てこんなふうにおびえなければならないことに、申しわけない思いでいっぱいになった。こんな社会を作った大人としての責任を問われていると思った。加害者だと見なされたという失望や憤慨なんて、これっぽっちもわかなかった。

女性専用車両は男性差別だという主張がある。それは、女性はすべての車両に乗車できるのに男性には乗ることが許されない車両が存在することに加えて、その車両の存在が男性を侮辱するものだからだという。侮辱ってどういうこと? 女性専用車両は、男性全員を痴漢だとみなして排除するもので、それは男性への侮辱にほかならないというのだ。男性差別だという主張は、まさにノットオールメンである。いや、別に、男性全員を痴漢だと言っているわけではないんですが(このあたりをもっと深く考えたい人は、『痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学』(エトセトラブックス刊)第3部を参照下さい)。

わたしは、メディアで痴漢がどんなふうに扱われているのかを、かなり突っ込んで調べたからいうのだけれど、かつて、メディアでは、痴漢を満員電車の中のお楽しみのように扱い、男性はみんな痴漢だと言って大笑いし、どんなふうにすれば捕まらずに痴漢ができるかを教え合っていた。厳格な人柄で知られるドイツ文学者や警視総監までもが、男性はみんな痴漢だと言って笑い合っていた。男性が、自分たちで、男はみんな痴漢だ、痴漢は文化だとまで言っていたのだ。男性の生物としての「性欲」によって痴漢が行われるという説は、いまだに捜査や司法では健在だ。男性が自分たちでそう言っていたくせに、今になって、男はみんな痴漢だというのかと、「女性に」食ってかかるとはどういうことだろう。
男はみんな痴漢だとは、「男性が」言っていたことなのだ。ノットオールメンと言いたいのなら、その人たちに向かって言うべきだ。批判すべきは上の世代の男性たち。先にあげた警視総監といえば東京都を管轄する警視庁のトップ。文句があるなら警視庁に言いに行けばよいのに、と思う。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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