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イエ制度よりも今困っている人たちのいのちと生活を守る法律に!

牧野雅子2021.01.29

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税務署から、確定申告のお知らせのはがきが送られてきた。今年もこの季節が来たか、と身構える。領収書の整理や書類の作成自体は嫌ではない。それでも、書類を書くとき、「うっ……」と、詰まってしまう。普段書き慣れていない名前を書かねばならないのだ。

わたしはいわゆる法律婚というものをしていて、戸籍上の姓は、夫の姓である。
民法は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」(第750条)と、定めている。条文上は、「夫又は妻の氏」と、どちらを名乗ってもよいと、実にジェンダーニュートラルである。しかし、現実はといえば、結婚後に妻が夫の姓に改姓するケースが96%(平成28年度 人口動態統計特殊報告「婚姻に関する統計」の概況と、「結婚イコール女が自分の姓を捨てること」といってもいい状態だ。わたしの場合、事実婚で通すつもりだったのだが、現実は難しかった。その時のことは「『家族の絆をマモルくん』たち」に書いた。

選択的夫婦別姓制度の導入がなかなか進まない。選択的夫婦別姓とは、結婚するカップルは、それぞれの姓のままでも、どちらかの姓を名乗ってもよい、というもので、夫婦で同じ姓を名乗りたい人たちは現状とかわらず夫か妻の姓にできるのだけれど、どうしてだか、反対意見が根強いのだという。
その代わり、なのだろうか、旧姓が使える範囲が広がればいいという考え方があるらしい。とんでもない、とわたしは思う。保険証、パスポート、クレジットカード……普段使うものですら、旧姓の使用は難しいのが現実だ。
研究者はパスポートの旧姓併記が可能だと聞いて、パスポートの期限が切れるのを機に申請をしてみたことがあるが、わたしの場合、旧姓併記はダメだと言われた(このあたりは、「イエ制度の亡霊は2020年にもうろうろしている」に。そもそも通称名を名乗る資格がない、とでも言われているようで、このことは今でも根に持っている。名前はその人のアイデンティティーなのだから。

仕事では旧姓で通しているとはいえ、仕事にかかわる手続きすべてを旧姓で行えるわけではない。旧姓使用OKな大学ですら、給与の支払いや保険の関係、健康診断などなどは、戸籍名で行われる。基本的に、お金と体にかかわることは戸籍名なのだ。
大学の外でも、それはつきまとう。原稿や講演の依頼をいただくと、振込先や住所などを先方にお知らせしなければいけない。そのたび、「牧野というのは旧姓で、戸籍名はこれこれで、口座名義も……」と説明する。ややこしくて申しわけない、と心の中でおわびしつつ、同時に、戸籍名が違うということを伝えることは、法律婚をしていて戸籍上は夫の名前になっているのだが旧姓を使用している、ということまで教えていることでもあるわけで、仕事相手になんでそこまで言う必要があるのか、と思ったりもする。
それは、自分が講演をお願いするときにも、思うことだ。支払いのための書類を書いてもらうとき、プライバシーの侵害をしているようで、とても心苦しい。旧姓使用可能なんていう中途半端な制度が、プライバシーをさらすことを強要しているようにすら思える。だからといって、戸籍名に統一しろという話では、もちろんないので念のため。
ある大学で、旧姓使用を認められて、結婚後も旧姓で研究発表を行い、大学の授業も行っていた女性教員がいた。学生も、その先生を旧姓で呼ぶ、というか、そもそも旧姓だということすら知らずその名前で呼んでいた。ところが、ひとり、その女性教員を戸籍名で呼ぶ男性教員がいた。それは、本人が呼んでほしい名前では呼ばないということに加え、他人が本人の了承なく、戸籍名や、結婚しているのに旧姓を使っているということを暴露する、嫌がらせだった。

伝統や家族の一体感を持ち出して、別姓に反対している人たちがいる。わたしは昨年父を亡くし、相続の関係で戸籍をさかのぼって調べる必要があったのだが、その戸籍には、オンナコドモがイエのために翻弄される様子が残されていた。たとえ、家父長の名前が続いたとしても、その名前に束ねられたオンナコドモは決して一体感なんてものは感じていなかったと、わたしは思う。一体感を抱いて、イエなるものを誇りに思っていたのなら、父はその話をわたしにしていただろう。
相続手続きの過程では、法律婚が「優遇されている」と言われていることの意味をあらためて知った。同性婚制度が認められていない現在、同性カップルがどれほど不平等な状態に置かれているかを思う。
選択的夫婦別姓制度を。同性婚制度を。それらが導入されたところで、異性婚者や夫婦が同じ姓を名乗りたい人たちの結婚生活には何ら影響しやしない。今の制度で不平等な扱いをされている人たちの不利益が解消される、それだけのことだ。守るべきはイエなんかじゃなくて、今困っている人たちのいのちと生活。これって、そんなに難しいことなのか?

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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