ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

banner_2212biird

マナー、ところ変われば

中沢あき2016.03.11

Loading...

子供の頃、ふざけてか面倒だったか、箸を飯椀のご飯に突き立てて、怒られた。行儀が悪い、縁起が悪い、と怒られた覚えのあるのは私ばかりではない筈…。当たり前だが、日本ではまず食べ物の上に何かが刺さっていることはない、お子様ランチの旗を除いては。
ドイツに来た最初の頃に衝撃を受けたのは、カフェなどで運ばれてきたケーキにフォークがぶっ刺さっていることだった。いやほんと、ぶっ刺さる、という表現がぴったりな程、大胆に深くフォークが突き刺さっている。嫌がらせでもされてるのかと思ったが、相手のケーキを見ても、周りの客に運ばれてくるケーキを見ても、皆同じだった。そのカフェだけがそうなのかと思いきや、その後どこのカフェにいっても、フォークはケーキの腹に刺さって運ばれてくる。たまにケーキの横に添えられるようにフォークが乗せられている皿に出会うと、ご丁寧にありがとう、と思わず感謝の言葉を心の中で呟いてしまう。ましてやテーブルの上にフォークが丁寧にセットされるなんて、きちんとしたレストランでもなければそんなサービスはない。
ウェイトレスたちが(そういえば書いていて気がついたが、ドイツのカフェ、特にクラシックなケーキ屋さんのカフェはウェイトレスばかりでウェイターって見たことがない)運びやすいように、つまり運んでいる間にフォークが滑り落ちたりしないようにするためなのだそうだが、なんと合理的な理由。マイスターの作った美しいケーキも、サーブされる前に横っ腹をぶっすりとやられ、時には横倒しになって運ばれてくるその姿にどこか残忍さすら感じる日本人としては、仏壇前の箸を突き立てたご飯を思い出してしまう。日本だと死人に捧げるみたいで縁起悪いんだよねえ、とドイツ人の友人に笑いながら説明しつつ、日本でこんな風に運ばれてきたらクレームものだな、と心の中で苦笑した。 日本でも、かき氷とかアイスクリームに匙やスプーンが差してあることもあるけれど、この場合もテイクアウトで食べ歩きをするときにだけ。テーブルの上に置かれる場合は器の横にスプーンがそっと添えてある。フォークもケーキも元は西洋文化で、日本ではその使い方まできっちり習うマナー教室まであるというのに、本場の現実を見たら、お教室の先生も目を剥くだろう。
食事のマナーといえば、もう一つ。パンの食べ方もこれまたドイツでは変わっている。パン文化が豊かなドイツには実に様々な種類のパンがあるのだが、ざっと分けると、大きな塊のパンをBrot(ブロート)、そしてハンドサイズの小さいパンをBrötchen(ブロートヒェン)と呼ぶ。この小さいパンは朝食に食べるもので、ドイツのホテルの朝食にはこのパンがかご一杯に盛られているのを旅行中に見たことがある方も多いだろう。この手のパン、日本でもレストランのサービスなどで出てきたりしますが、皆さんだったらどうやって食べますか?私の記憶にある限り、日本では手で一口大にちぎってから、バターをつけるなり、ソースをぬぐうなり(これについてもマナーの作法って分れるようですが)して食べる、と習ったので、そのようにしていたら、どっこい、これがドイツでは違ったらしい。 そもそも我が夫の家ではこの小さいブロートヒェン自体を買うことがなく、朝食でも大きな塊のブロートを薄切りにして食べていて、我が家もそれに倣っていたので気がつかなかったのだが、とある日本人女性の話によるとこれはマナー違反であったらしい。曰く、その女性がドイツ人の婚約者の実家に泊まったときの朝食にて。ドイツの一般的な家庭らしく、朝食に出てきたブロートヒェンを彼女は日本で教わったマナー通りに手でちぎった。その瞬間、目の前の将来の義母がはっと息を呑み、しかし視線を逸らして見なかったふりをしたそうだ。怪訝に思った彼女が周りを見れば、他の人は皆、この小さなパンにナイフを横から入れ、ハンバーガーのバンズのように2枚に分けた断面にそれぞれパターやジャムを塗ったり、チーズやハムをのせて食べたり、としていた。そう、ドイツの小さなパンはちぎるのではなく、二つに割って食べるのが正しいのであった。
以来、私も出先ではちゃんとこのマナーに従ってパンを食べ、ドイツのマナーかくあるべき、を守っているつもりだが、先日日本からドイツへ帰る際の飛行機の中にて、久しぶりに衝撃的なものを見てしまった。 機内食のサービス中、斜め前に座っていた女性の手元が見えていたのだが、おそらくドイツ人であろうこの女性、トレイの上の小さなパンをいつものようにナイフを横から入れて二つに割り、バターを塗るまでは普通であった。そして普通なら食後に齧るであろうチョコレートクッキーの封をおもむろに開け、なんとそのバターを塗ったパンに挟んでかぶりついたのである。 うーん、これは初めて見た…。確かにこのときの食事にはジャムとバター以外、ハムとかチーズのような挟めるものはなかった。しかしそこまでしてパンを割って何かを挟みたいのか。しかも粉もの+粉もの。その甘い味ゆえ、ラーメンライスなんかよりももっとスゴい、と思うのは、私、まだドイツ人の感覚を知り尽くしてないのかしら…。
nakazawa20160311-2.jpg
nakazawa20160311-1.jpg
© Aki Nakazawa
地元の老舗のケーキ屋さんにて。それぞれ違うお店なのですが、どちらでもしっかりとフォークが刺さってます。どこのカフェやケーキ屋でも大抵これです。ドイツ旅行中、これに出会っても、ビックリしないように。勿論お味は変わらず絶品です。
Loading...
中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

RANKING人気コラム

  • OLIVE
  • LOVE PIECE CLUB WOMENʼS SEX TOY STORE
  • femistation
  • bababoshi

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOPへ