
つい最近、日本の給食についての記事を読んだ。九州のある街の小学校の給食のおかずが「鳥の唐揚げ1個」だけで、あとは副菜もつかず、ご飯とお味噌汁という内容で、さすがにこれでは子どもにも足りない、いや、給食費が300円以下なのだから物価高では仕方ないし、カロリー計算上は足りている、という議論が巻き起こっているという話だった。40年以上も昔のこととはいえ、私自身は通っていた小学校に給食調理室があり、栄養士が考えた献立がおいしいと評判の給食だったので、今どきの日本の学校給食もそんななのか、と考えさせられた。
我が子が通う幼稚園の給食が「ドイツらしい」シンプルなメニューであることはちょうど一年前のコラムで書いていた。そのメニュー内容は相変わらずなのだが、今年2月からその給食費が爆上がりした。それまでは月額40ユーロだったのが、70ユーロになった。実に二倍近い値上げで日本円に換算したら、なんと1万円以上である。繰り返すが、メニュー内容は変わっていない。我が子の幼稚園は市直営の園なので、この月額料金は市へ納め、そこから各幼稚園と提携しているそれぞれの委託業者に支払われるのだが、値上げの理由は、この十年値上げをしないようにやりくりしてきたが昨今の物価高などで云々。でもいきなり2倍近くである。しかもあの内容でこの高値……。いくら物価が上がったとはいえ、そんなに材料費がかかるか?人件費が爆上がりしたのか?と私はそこに納得がいかない上に、これまでもそしてこれからも続くであろうと予想された、保育士不足によるクラス閉鎖のせいで食べなかった給食費はこれまで、つまりこの3年間返金されたことがない。今まではたいした金額ではないからと目をつぶってきたが、この高値で食べなかった給食費まで徴収されるのは納得がいかない。
おそらくこの値上げへの反発を予想してか、市の値上げ案はこんな条件付きだった。いわく、週5日の給食のうち、何日分を契約するかは各家庭に任せる、としたのだ。我が子が幼稚園に通うのはあと半年余り。それまでの給食費との差額は180ユーロと支払えない額ではないが、理不尽さを感じた私は我が子に提案した。5日のうち、月曜日はママのお弁当にしよう、と。相方は「他の子と同じものを食べられないのはかわいそう」と反対意見だったが、私はもう払いたくない、と突き通した。子ども自身は、それでもいいよー、とあっけらかんとしていたので。それでも10ユーロちょっとの値上げは支払わねばならないが、私のささやかな抵抗である。
そもそも市の提案なのだし、多様性を認めるドイツなんだから問題ないだろうと、我が家の給食契約の希望を園長に伝えたら「でもお宅のお子さんは給食が大好きでよく食べるし、他の子と違うのはかわいそうなのでは?」と言ってきたそうで、ちょっと驚いた。というか、弁当持ってこられるとその管理が保育士さんたちには面倒なのでは?と穿った見方をしてしまったひねくれ者の私ですが。
しかしさらに驚いたのはその後の園長の説明だった。相方が気になって「そもそもこれまでも、クラス閉鎖のせいで食べなかった給食ってどうしているんですか?」と質問したら…。
委託業者からは冷凍で週に一度、まとめて給食が配送され、それを昼食時に配膳担当者が解凍するので、閉鎖したクラスの分は解凍せず、その次の給食に回し、次回の注文は数を減らすなどをして調整しているから食材は無駄にしていませんよ、とのこと。
「なるほど、でも注文数を減らした分、余るはずの給食費はどうなっているんです?」
それはね、そもそも幼稚園の給食は保護者からの給食費支払いだけでは足りず、市からの補助予算が付いているんです。それでも足りないくらいなので、余った給食費もそこに充てられるんですよ。
という園長の説明の理屈を相方から聞いて、私は目が点になった。ちょっと待て。小さな個人会社のなあなあ経営の話ではないのだ。市という、それも百万人都市の大きな行政機関の予算は年度始めに組まれているはずである。それも通常運営を基本に考えられているはずである。それが途中で状況が変わって余ったお金があるのでそれをそのままうちの都合で使います、っていうようないい加減な運用をしているということなのだろうか。それとも鼻から「幼稚園の閉鎖状態」を見込んだ予算を組んでいるのか?
園長の理屈に私たちの理解は到底追いつかなかったので、市の児童課のこの幼稚園の担当者に問い合わせの電話をかけたのが3月。その数週間前の2月後半から毎週のように半分のクラスが交互に閉鎖する状態が続いている時だった。その市の担当者の説明では、保育料に関しては、閉鎖が一定の日数を超えた場合は年間の終わりに保育料返還の申請ができるのだが、給食費についても同様の措置があるのかは調べてみる、とのことだったので、その際に園長の理屈、すなわち、余ったお金は市の予算運用の中に充てられるという話をしてみたら、その担当者はこの話を知らず、これについても調べてくれるという。
そこから現在6月半ばを過ぎたところだが、実は半閉鎖状態は学校機関のイースターの春休みの2週間を除いて、まだ続いている。PTAの保護者たちが何度も市に直訴した結果、他の市直営の幼稚園から助っ人の保育士が期間限定で数週間ずつやってきたが(「どこも保育士不足」と聞いていたのに、転送できる余裕はあるのか、と不思議に思った)、なぜかそれでも半閉鎖の状態が続いた。他の保護者たちのぬか喜びを気の毒に思いながら、昨年までの似た状況を思い出しながら私は、助っ人が来てもその分うちの保育士が有給を取って居なくなっているんだろうと想像した。「そもそも給食費を払っているのに子どもが家にいる時の昼食も各家庭は負担するわけで、二重に払わせる仕組みになっている」と憤る相方の隣で私は、ホント週4日の給食にしてよかった、とつくづく思った。クラスが閉鎖するのは月曜日とは限らないが、そもそも月曜日は祝日に当たる回数も多いので余計に休みになる。無駄払いをしなくてよかった……。
そしてよく理解できなかった園長の理屈を確かめるべく、先日再び市の担当者に電話で問い合わせたら、驚いたことに園長と同じ話が返ってきたのだ。いわく、この給食の予算というのは実際の食材だけに充てられるのではなく、給食を準備する配膳担当者の給与報酬もそこから支払われているということ、そして本当に予算は足りていないから、たとえ余った分があっても余剰になることはないし、ゆえに給食費は返還できないという。そもそも給食費支払いの契約の条件として、実際に給食が出ない日の分も支払いは発生し、その分を返還することはない、と契約書に記載されているという。なるほど、その記載は見落としていた、と一瞬思ったが、いやいや、それは一括払いというドイツの慣習とも言える払い方で夏休みや冬・春休みなどの長期休暇期間でもこの支払いが発生することや、急な事情で園児が登園できなかった場合のことであって、こんなに予定外の、それも園側の事情による頻繁な閉鎖の事情にも適用される条件ではないですよね?と突っ込むと、担当者もちょっと口ごもった。そもそも会社でも行政でも普通は年度初めに予算が組まれ、その時にはクラス閉鎖なんて状況は予期しないで組むわけですよね?だったら余った給食費は一体どこへ?と疑問を持っているんです、との私の問いかけに、上部の決定なので私はそこまではわからない、と言う。いずれにしても給食費の内訳をPTA担当の保護者に近々送ります、という回答で電話は終わったが、いやあもう絶句。まさか市からこんな回答が来るとは思ってなかった。
我が子はもうすぐ卒園である。夏から小学校に入学となるが、そこでの給食費も月70ユーロである。正確に言うと、ドイツの小学校は午前中で授業が終わってしまうので、ほとんどの子どもが同じ校内で別の団体の担当者による児童保育を受けるのだが、ここで給食が出て、しかし給食費や保育費は市を通して支払う。さすがに今の幼稚園のようは閉鎖が起きたりすることはないと思うが、保育も学校もない長期休暇分も給食費を支払うシステムは同じである。配膳担当者の給与報酬も含めているとはいえ、はっきり言って、休暇分の給食費も含めたら、あんな簡素な内容でこんなに値段の高い給食があるのか?と大きな疑問というか、もう謎のレベルである。以前同じ小学校に子どもを通わせていた友人も、この70ユーロの値上げには驚いていた。しかも、それでも足りないっていうのはどういうことなんだろう。我が幼稚園の給食費。この3年間、何度も頻発するクラス閉鎖で子どもたちが食べなかったお金はいったいどこへ行ったんだろうか?本当に謎である。
©︎: Aki Nakazawa
これはとある週のメニュー。月曜日のパスタの日は「レンズ豆ボロネーゼのパスタと野菜スティック」、火曜日の肉料理の日は「チキンのトマトソース、マッシュポテトと茹でカリフラワー添え」、水曜日のスープとデザートの日は「ブロッコリースープにパン、チョコプディング」、木曜日は「トマトとチーズのピザ、野菜スティック」、金曜日の魚料理の日は「スケトウダラと野菜の炒めご飯と野菜スティック」。この週は他の週に比べてわりと豪華めなメニュー内容。シンプルな内容のときは、トマトソースがけパスタとかチーズソースのパスタ(具なし)、とか、ジャム添えパンケーキだったりします。いや、いいんです、これで値段が以前のように安ければ。しかしこの何ヶ月に渡る半閉鎖状態で、このメニュー予定も当日突然変更になったりします。一度などはひよこ豆のコロッケとメニュー予定にあったから、コロッケと他に何かおかずか何かあったのかと思っていたら子どもいわく、本当に一口大のコロッケが数個だけだった、とのこと。さすがにこの時は保育士さんたちが何かの間違いじゃないかとあわてて、ご飯の足しになるようにパンをスーパーに買いに行ったそう……。唐揚げ一個だけ、の記事を読んだときはこの「事件」を思い出しました。
ちなみに我が子は本当によく食べる子で、給食も毎回おかわりをするそう。いいぞ、給食費を無駄にしないように存分に食ってこい!と心の中で思う母なのでした。それにしても月額1万円を超える給食って高いよね!