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 衆議院議員の75%が新顔に入れ替わったら?
 そんなことが起こるはずがないと誰もが思う。が、この6月、フランスではそれが起こったのだ。
 大統領選の一ヶ月後に行われるのが恒例の国民議会(日本の衆院にあたる)選挙で、577議席のうち実に429議席が、昨日まで国会にいなかった候補者に占められた。古顔が守ったのはわずか148議席。なかでも昨日まで政権を担当していた社会党(PS)は280議席から選挙協力できた左翼諸派を含めても46議席と、見る影もないほど没落した。大統領選候補だったブノワ・アモンを始め、閣僚だった人々も含む大物が続々と落選。二大政党のもう一方の柱、共和党(LR)は、かろうじて113議席を確保し、「恐れていたより減り方が少なかった」と胸をなでおろしている始末だ。

 社会党にも共和党にも属さない中道左派の新運動「前進!」の担い手、弱冠39歳のエマニュエル・マクロンに大統領の座が射止められたことは既に周知と思うが、これに続き大統領をサポートする国民議会多数派を形成させるために集まった「共和国前進」(LREM)が308議席を獲得。選挙協力した中道政党Modemの42議席と合わせて350議席を占めた。しかもこのLREMの新議員の半数は、これまで全く政治経験がない。
 新人を送り出したのはLREMの専売特許ではなく、大統領選で躍進した極左のフランス・アンスーミーズ(FI)はじめ、他の党でも新人が活躍した。
 女性議員も大躍進した。解散前155人だった女性議員数は一挙に224人に。全議員の26,9%でしかなかった女性議員の割合は38,8%となった。ここでもLREMは一番、女性議員の割合が多く、47%。続いてModemの46%である。

 一体、なにが起こっているのだろう?
 マクロン新大統領の著書Révolutionのタイトル通り、「革命」なのだろうか?
 いや、それにしてはフランス国内は冷めている。彗星のごとく現れた若くハンサムで年上の妻を大切にする大統領にメディアと外国が好意的な目を向ける中、フランス国内では国民議会選挙で歴史的な高棄権率を記録した。第一回投票で51%、第二回投票ではなんと57,4%が棄権、つまり有権者の半数以上が投票しなかったということだ。LREMは第一回投票でModemと合わせて32%を得票しているが、投票率が49%では、有権者全体の16%ほどの支持しかないことになる。これで75%の議席を占めてしまうというのは、小選挙区制のマジックとしか言いようがない。

 実はフランスで起こっているのは「革命」などではなく、既成の政治に有権者が嫌気がさしたところに、極右勢力(と極左勢力)が台頭したが、それを避けるために既得権を持つ現状維持勢力が、形を変えて抵抗した、というところだ。
 マクロンは社会党を離党して自分の政治運動を作り、イメージ戦略で新しさの演出に成功したが、LREMには社会党右派が実はごっそりと移行している。左翼政党のくせにネオリベラル政策を進めた前政権オランド前大統領の路線を踏襲していると言える。
 一方、保守からも政治家が合流し、首相に任命したエドゥアール・フィリップをはじめ、財務相、経済相も保守系で固めた。環境相に元TVレポーターで人気者のエコロジスト、ニコラ・ユロを立て、文化相には編集者のフランソワーズ・ニセンを置くなど、適所適材の人事を行い、現政権はちょっとした「挙国一致内閣」の様相を呈している。

 しかし、国民の選んだ各派から代表が送り込まれたわけでなく、多様な人々が一つのグループが取り込まれてしまっているのは、どこか「挙国一致」よりも「翼賛政治」のような、民主主義の危機を危惧させる。マクロン政権は政策も明確にせずに選挙戦を闘ったし、マクロンは大統領選挙のときから、政権をとったらオルドナンス(政府が発する政令で、法律の領域に属するもの)によって政治を行うことを示唆している。つまり法律を国会討議に先行して内閣が作ってしまうようなもので、国会は追認するだけになる。
 こんな強大な権力を与えてしまって、恐ろしいことにならないのか。それが今やマクロンの人柄ひとつにかかっていることになるのだから、小選挙区制と高い棄権率は深刻に困ったものである。
 しかし一方で、人々が既成政党に絶望しているとき、小選挙区制のもとでは、大きな変化が起こるということも分かった。

 今回の選挙は、既成政治家の多くを民間人に入れ替えることにともかくも成功した。マクロン新党は会社社長や管理職、自由業者が多いのだが、候補者を公募するとともに、側近たちが、これはと思う人に声をかけて候補者になってもらっていた。
 それを見て私は、ふと日本でも、誰か清新で高潔な、多くの人が首相を任せたいと思うようなリーダーの下に見識と実行能力のある民間人がまとまって、既成政治家を排除しようとしたら、「誰がやっても変わらない」と知ったかぶった有権者も心を動かされないかしら、と夢想してしまった。どうしたって多くの選挙民の心を捉えることのできない民進党や、党執行部のいいなりになっていなければ公認がもらえない自民党など離党して、心ある代議士は、そこに合流して政界を刷新する夢にかけたらどうだろう?
 一度、衆院の7割の議員が入れ替わってみたら面白いのではないかと思ったのだった。

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中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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