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 東京医大が入試で女子に減点して男子学生を優遇していたというニュースは、その世界を知っている人々には「やはり」と苦い思いを持って受け止められたようだが、全く門外漢の私は、憤慨したのは同じだが、まず驚きが先に立った。

 フランスでは大学の医学部は法学部と並んで、女子の方が多くなってかなり久しい。そう思って調べてみたら、現在、医学部は、女子学生の割合が60%である。
 フランスでは大学に「入試」というものはなく、バカロレア(大学入学資格試験)を通れば、原則的に大学の1年目に登録できるからここで選別は行われない。ただ、この1年目を突破できるのは1回目、2回目の挑戦を合わせて全体の3分の1ほどだ。日本もそうらしいけれども、女子学生の方が優秀という現象をそのまま受け、女子の方が多くなるのだろう。

 ひるがえって現役の医師はというと、女性の割合は41%で日本の20,3%と較べると倍になる。とはいえまだ半数に達していなかったとは少々驚きだが、若手医師は女性が多く、2022年、つまりたった4年後には全体でも女性医師が過半数になり、2034年には60%に達するそうだ。

 ちなみにフランスで初めて女性医師が誕生したのは1875年だ。日本初の女性の医師試験合格は1894年だそうだから、それほどの違いはない。
 女医の割合は、1915年から1919年、つまり第一次世界大戦中に、出征した男性医師の空けた穴を埋めるため、いったんは20%に達したが、出征兵士の帰還とともにまた減少し、1960年代になってもまだ10%だった。日本の内閣府資料によると日本では1965年に9,2%だから、60年代には差はそこまで大きくなかったようだ。この50年でここまで大きく水を開けられるとは、いったい何があったのだろう? フランスで業界の女性化が急激に進んだのは90年代だそうだ。一方、日本でも、入試で女子を不利にするなどという人為的なことをしていなければ、もう少し順調に女医率は上がったのではないか?

 さて、女性が大きな場所を占めつつあるフランスの医療界だが、研究職は例外らしく、まだ圧倒的に男性が占めている。医学部長38名のうち女性はわずか4名だ。若い世代に女性が多いことを反映して、これも時間とともに変わって行くと予想されるけれども、研究職は30代、40代に博士論文、学術論文発表、在外研究などをこなさなければならないので、出産との両立がむずかしく、それが女性医師のキャリアにブレーキをかけているようだ。
 外科医で大学で教鞭もとるヴェロニク・デュケノワ=マルティノ教授は、若い医師向けの雑誌、What’s up Docのインタビューに答えて、「大学でキャリアを築くべき時は、出産可能年齢にあたる。そこで諦める女性が多い」と言っている。自身は4人の子持ちで、1人目はインターンの時に、2人目は非常勤講師の時に、3人目は大学教授資格試験受験前に、4人目は課長を勤めていた時に産んだ。最初の2人の時は大変で、夫が手伝ってくれなかったため離婚。現在のパートナーは、その夫より忙しい会社社長だが、もっと協力的だとし、理解があり協力的なパートナーの重要性を強調している。仕事が遅くなったり、出張があることを許容し、買い物をしたり子どものおむつを取り替えてくれる人と出会う幸運が大事だそうだ。
 デュケノワ=マルティノ教授は、女性の少ない外科を専門とし、大学のキャリアも築いたスーパーウーマンだが、「能力があれば認められる」としながらも、難しいのは家庭生活との両立で、それを可能にするには財力と犠牲が必要で、ベビーシッターをつけ、家政婦を雇っていると、その条件を明かしている。

 フランスの医師は、一般医と専門医に分かれる。一般医は女性の方が多く、専門医もいくつかの分野では女性が多い。
 女性医師の割合が多い専門は、産業医(71%)、産婦人科(70%)、皮膚科(67%)、小児科(64%)などで、反対に少ないのは麻酔科(30%)、外科(20%)である。
 勤務形態としては女性医師は開業医より勤務医を好み、3人に1人が勤務医で、男性医師の4人に1人より多い。が、40歳以下に限って見れば、女性医師の60%が開業医ということだ。

 さて、このように医療界の女性化が進むと、職場の環境が変わらざるを得ないことがあちこちで指摘されている。たとえば現場が女性ばかりのため、みんなが同時期に産休に入ったりしないように配慮するそうだ。また、水曜日の午後は学校がないため、休業日にする女性が多いのだが、病院は誰もいなくなる水曜日に対応できるようにしなければならなくなるだろうと前出のデュケノワ=マルティノ教授は言う。
 医療現場での医師の働き方にも変化が現れているそうだ。「女性は学会に参加できなかったり、発表できなかったりして、そのためにポストを他の人に取られるようなことがあっても、子どもを仕事より優先する。変化は男性にも見られ、より家庭との両立がしやすくなってきているとしている。家庭を大切にする分、職場は空いた人の埋め合わせをするため、チームでの対応が必要になってくる」。
 医療現場の女性化が加速的に進むにつれ、働き方の変化が現在進行形で起こっているのが、フランスの現状のようだ。

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中島さおり

中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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