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捨ててゆく私 Vol.46「ブスの使い方」

茶屋ひろし2007.10.18

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ある日の夕方、隣のゲイバーでビンが数本倒れる音がしました。女子の怒鳴り声が続きます。酔っ払った女子は立ち上がろうとしますが転んでしまいます。入り口に出てきました。やっぱり立ち上がれないようです。店員の男子がなだめています。ビデオ屋のカウンターにいる私にその光景は見えませんが、物音で勝手に想像していたら、「おはよー」とオーラちゃんが出勤してきました。
スゴイ騒ぎだねー、ほんと、みたいなことを目でやりとりしたあと、その様子を見たオーラちゃんは笑いながら、「ブスが騒いでいるよー」と言いました。

なぜか私はオーラちゃんから「ブス」という言葉を聞くのが苦手です。
「ブスなの?」と問い返すと、「ブスもブスだよー顔も中身も」と、オーラちゃんは調子付きます。知らない人なのに、もう中身までわかっています。でもそれはスピリチュアルパワーではないと、私は判断します。
オーラちゃんは「ブス」と一回口にしたら、そのあと何回か繰り返したくなるようで、放って置いたらいつまでも「ブースブース」と言ってそうなので、話題を変えました。

オーラちゃんは女子に対して「ブス」を使います。とても無邪気に使います。
まるでノンケ男子が使うように使って、私にその感覚の共有を求めてくるので困るのです。男子同士が女子について共有する感覚は、たいがい苦手です。

先日、「いつまでもデブと思うなよ」(岡田斗司夫、新潮新書)という本を読んでいたら、「今の日本は『見た目主義社会』だ」という展開のあとに、その根拠のひとつとして、「首相や都知事が顔で選ばれている」という例が挙げられていて、私は少し驚きました。それは、小泉(時期的にたぶん)や慎太郎をイケメンだと思うことに共感できなかったからです。のけぞるほど驚かなかったのは、イケメンだと思っている男もいるかも、と思ったからです。

「ブス」は女子への悪口ですが、私は男子にも使っていいと思っています。ノンケ男子はノンケ男子に「ブス」とは言わないと思いますが、二丁目にいると、ゲイ同士だとけっこう言い合っていることに気づきます。それは言う方も言われる側も、「オネエ」であればあるほど使っているように見受けます。私も普段レジを打っていて、高圧的な態度でお金を投げるように払うオカマには、「なによ、このブス!」と心の中で毒づくことがよくあります。

けれど、ブス! と思った私は、そのオカマよりブスではない必要が出てきます。でもそれを誰がどのように判断するのかについてはよくわからないので、このオカマより自分はブスではない、と思い込むしかありません。
このとき、それを心の中で思っているだけに収まらず、例えば、隣にいるオーラちゃんに「ねえ、さっきのオカマ、ブスだよね」と共感を求めてしまうと、今度はオーラちゃんにも私があのオカマよりブスではないことを証明しなくてはいけないような気持ちにかられてしまいます。

すると、「だって、お金を投げるように払うことないじゃない? 性格が歪んでいるのよ」と、顔の造作から心の問題へのすり替えが起きやすくなります。それは、自分の顔がブスかそうでないかを他人に判断されることへの恐怖が生まれるからだと思います。でも「性格ブス」という言葉を使い始めると、「顔の造作のブス」よりも、どんどん自分に返って来て収集がつかなくなるので、なるべくそこまで行かないようにしています。

そう、自分はブスではないと思い込む、といえば・・。
私は五歳の時に見知らぬ女の子たちから突然、「変な顔!」と言われたことがあります。それはやっと乗れるようになった自転車で楽しく近所を徘徊しているときでした。五歳の私とあまり変わらない年頃の二人の女の子たちが突然目の前に現れて、びっくりしてブレーキを踏んだ私に向かって、二人そろって指を差し、「変な顔!」と叫んだのです。私はショックのあまり全身の力が抜けていったことをよく覚えています。

それから、私はずっとその「変な顔!」という一言から抜けることが出来なくて、小学生の時は「ヒラメちゃん」(じゃりんこチエ)、中学生の頃は「ナメック星人」(宇宙人)そして「ベム」(妖怪)と言われるがままで、高校生で「研ナオコ」と言われて、やっと人間になれた気がしたのでした。

そしてその頃から、今に至るオカマキャラも生まれつつあったので、私は自分をもう少しマシな方向へ思い込む、という手段をとり始めたような気がします。

私の例はちょっと違うかもしれませんが、ゲイ男子はノンケ社会に「キモイ」とか「オカマ」とか見た目や仕草で否定されてきた経験を持つ人が多い(と思う・・)から、ノンケ男子とは女子に対する「ブス」の使い方が違うかもしれません。女嫌いも加わってさらに攻撃的になる場合もあるような気がします。ゲイというか、オネエ同士だと最終的に「ブス」という言葉を、愛情の証(脱構築?)みたいに持っていけるフシもあるかもしれませんが、オネエがオカマでない女子に使う場合は袋小路という気もします。
そんなことより男子に対して「ブス」という悪口をもっと使えばいいのに、と思います。うまく言えませんが、セクシュアリティーを問わず「ブス」の使い方は、ぜんぶヘテロが基本という気がするのです。

ここ数年、私は島田紳助に「ブス」を使っています。だから何だという気もしますが、あの人がテレビの中で、「ホンマ、ぶっさいくやな~、ジブン!」と誰かに言うことはあっても、言われているところを見たことがなくて不思議だからです
手始めにイッコが言わないかしら・・カバでもいい。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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