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もともとコンサートにはあまり行かないほうですが、東京に来てからは、けっこういろんな歌手のコンサートに行っています。安室菜美恵、浅川マキ、美輪明宏、小椋佳、松田聖子・・そして先日は、小林幸子に行ってきました。

幸子ファンのゲイ男子30歳(・・若いのに、と言う意味で付け足してみました)に連れられて、中野サンプラザまで行きました。
芸能生活45周年記念コンサートでした。いっしょに行った子は45本の薔薇を用意していました。内30本は赤い薔薇で、それは今年の紅白出場が決まれば女性歌手で初の30回連続出場を果たす快挙となるからだそうです。その願いを込めて、というか、前祝の意味を込めて、ということでした。残りの15本は白い薔薇の、紅白でまとめた花束です。いつ渡すのか、と聞くと、コンサート中に客がプレゼントを渡すコーナーがちゃんとあるのだ、と言います。ファンって事情に通じていておもしろいと思いました。取ってくれたチケットの席は一番前の真ん中です。

サンプラザ前の広場に着くと、あちこちでおばちゃんたちがお弁当を食べていました。夕方6時の開場です。おばちゃんたちは、それが何時でも開演前にはとりあえずお弁当を食べるのだそうです。

客層はダントツにおばちゃんが多く、あとは夫婦と、ゲイのカップルがチラホラいました。全体的に年齢は高めでしたが、私たちの席の後ろには30代のゲイカップルが座っていました。

着席すると、目の前に、たぶん幸子が歌いながら下りてくる階段が、舞台の下に取り付けられていました。演歌のコンサートは初めてです。

いよいよ華麗なる小林幸子ショーの始まりです、と朗らかな男性のナレーションが響き渡りました。会場が暗くなり、まもなく舞台に巨大な衣装が浮かび上がりました。紅白のセット衣装です。見上げると、巨大な三角形の形をした金の布の頂点に幸子の顔がはめ込まれていました。後ろのゲイカップルが黄色い声をあげました。私もそうしてみました。隣の男子は静かです。ファンとしてはあまり好きじゃないようです。

紅白衣装は一曲に一セットらしく、歌が終わると舞台は一転して、生バンドが現れ、バレーリーナのような女性ダンサーが次々に出てきて、宝塚の男役のような白いシルクの衣装を着た幸子が歌謡曲を歌いながら登場しました。
とたんに隣の男子は立ち上がり、口に両手を添えて、「さっちゃん、今日もキレイ! 今日も可愛い!」と野球の声援のような野太い声を出して叫びました。驚きました。気が狂ったか、と思いました。幸子は、「いくつになっても男性から可愛いと言われるのは嬉しいものですね」と笑顔でコメントを返しました。

誰よりも前に出て応援をしたいんだ、とコンサート前に言っていました。その後も絶妙な合いの手を入れて(叫び)、プレゼントコーナーで45本の薔薇を渡して、じっさい彼は観客の誰よりも目立っていました。

小学生の頃からファンだったという筋金入りです。なぜ好きなのか、なんていう理由がわからないくらい好きなのだ、と聞いています。
不思議な子・・代わりにその理由を私が考えてみようかしら、と思いましたが、幸子の舞台が進むにつれ思考停止ボタンが押されました。

幸子の歌は演歌です。吹雪く日本海を、失恋には涙で割った酒を、心配をかけてばかりの故郷の母を、歌います。がんばって、がんばって、つらくても我慢をすればきっと来ますよ、春の日が。
幸子のショーは昭和です。戦後米軍キャンプを回っていた時の様子を再現したり、日舞や歌舞伎を取り入れた衣装と歌を披露したりします。
幸子の客あしらいは水商売です。客席の男性を立たせて、「ここまで健康でやってこられたのはきっと隣にいらっしゃる奥様のおかげですね」と、会場を沸かせます。

ちょうど一週間前に、私はイトー・ターリさんというひとのパフォーマンスを見ました。これは一人で見に行きました。
女性であることと、レズビアンであることを軸に活動をしているアーティストだと、噂には聞いていましたが、じっさいに見たことはありませんでした。

私が見たのは、体に装着した緑の薄いゴムで出来たオッパイやお腹やお尻を膨らませて割ってしまうというのと、従軍「慰安婦」の映像を流しながら座って玉ねぎを剥いて何度か後ろにひっくり返るというのと、軍装をした姿で五寸釘を床に大量に投下して、それを磁石で這うように集めて、壁に貼ってある沖縄の米軍基地をすべて東京に持ってきたら面積はどれくらいになるかを赤く塗りつぶして示した東京の地図の上に貼り付けていく、という3つのパフォーマンスでした。
それぞれにタイトルがあるらしいのですが、ちょっとわかりません。
米軍基地の説明以外は全て無言でしたが、さまざまな体の動きが出す音と、ゴムや釘を触って出す音と、吐いたり吸ったりする息が大きく響いていました。

私は、玉ねぎを素手で剥いているのを見て自分の手が痛くなるようだったり、目を見開いて虚空をみつめる顔を見て緊張したり、立ったまま全身を小刻みに震わせて行く様子に驚いたりしました。
とても社会的な問題を投げかけているパフォーマンスでしたが、私はこのときも思考停止をしていたように思います。
それは幸子のときとは違う停止でした。
幸子の世界は、これをすべて肯定してしまったらまた不幸な幸子が生まれてしまうのではないか、という気がして一時停止です。それ以上考えるとステージを楽しめなくなってしまいます。
ターリさんの場合は、目の前のパフォーマンスを頭で処理しはじめたら身体的なメッセージを受け取り損ねてしまうのではないか、という意味合いで思考を停止したような気がします。
その辺りが、私はオカマで男子なんだわ、と思います。
昔、従軍「慰安婦」問題を知った頃、男友達が「彼女たちの痛みがわかる」と言ったことがあって、最近では、ターリさんのパフォーマンスを見たゲイ男子がおなじような発言をしていて、ほんまかいな、と思っていたのです。
頭痛や腹痛ならまだ分かりますが、制度による生殖器の痛みは、簡単に分かると言えない私がいます。自分の痛みとかぶせていいものか、迷います。
その辺りが、男の体を持つという意味で、私は男子なのか、と思います。
オカマの部分は、以前書いた、狂った女に喜ぶオカマの話につながります。
幸子とターリさんが同年代の日本の女性という現実になんだかクラクラします。どういうことなのか、よくわかりません。ただ、幸子を見ていたときは、一週間前に見たターリさんの表現が私の思考にストップをかけていて、ターリさんを見ていたときは、幸子の世界からの身体的な距離感を味わっていたような気がします。

ターリさんは玉ねぎを剥いたあと、無言の笑顔でゆっくり観客と握手をして回りました。私は後ろの方にいてターリさんと握手をしませんでした。
幸子は舞台から下りてきて、笑顔で観客に話しかけながら握手をして回りました。私は通路側にいたので握手をしました。
無理に結びつけなくていいと思いながら書いていますが、二人のパフォーマンスの共通点は、観客と握手をしたことだけでした。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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