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No Women No Music 第3夜 あぁ、冬美ちゃん 〈前編〉

ほんま えつ2014.04.14

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1月に坂本冬美のコンサートに行ってきた。演歌のコンサート初体験。まず、なぜ坂本冬美なのか・・・。

ずいぶん昔から気になる歌手だった。たぶんHISの頃くらいから。HISとは1990年に忌野清志郎、細野晴臣、坂本冬美で結成されたユニット。1991年に『日本の人』というアルバムをリリース。忌野清志郎と細野晴臣が詰め入りの学生服、坂本冬美がセーラー服を着たジャケット写真は覚えのある方もおられると思う。「日本の人」と謳いながらもそこは清志郎と細野さんが中心の音作り。心地よさのなかにも一筋縄ではないユーモアとアイロニーを醸している。細野さんは坂本冬美の声を何かのメディアで激賛していた。このアルバムの冬美ちゃん、ジミ・ヘンドリックスのカヴァー「パープル・ヘイズ音頭」でのロックとは一線を画すコブシはさすが。その他清志郎とのしみじみと沁みるデュエット・ソングや懐かしの歌謡曲を彷彿とさせる歌はさらに耳に馴染んで心地いい。ついうっとりと聞き惚れるいい声なのだ。

これを機にちょっと調べてみたら、清志郎と坂本冬美は1988年のRCサクセションの発禁騒動で話題となった名盤『カバーズ』で共演していた。「シークレット・エージェントマン」という金賢姫と大韓航空機爆破事件をテーマにした曲での女性ヴォーカルは冬美ちゃんだったのだ。アルバム発表当時、友人に録ってもらったこのカセットテープを聞き狂っていた25年前、私はぜんぜん知らなかった。
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相変わらず演歌の冬美ちゃん知らずの数年後、大ヒット曲「夜桜お七」(1994年)と出会う。私自身がワケ有り私生活の中で息を殺しながら暮らしていた数年間、日々の気分を紛らわすためにテレビの歌謡曲番組をよく見ていたその時期、何気なく流れていた坂本冬美の歌う「夜桜お七」の儚く華やかな歌とステージにちょっと魅了されてしまった。そしてこの「夜桜お七」の作詞が林あまりさんだと知りびっくりするとともに、私がこの歌に心惹かれてしまったことになんか合点。歌人・林あまりさんと言えば、「MARS☆ANGEL」という短歌集で〈生理中のFUCKは熱し/血の海をふたりつくづく眺めてしまう〉なんていうドキリとする生々しい作品で気になる人だった。この歌集が出されたのが1986年。本の帯には〈愛と性を奔放に歌うアブナイ短歌〉。「夜桜お七」はこの「MARS☆ANGEL」に収められている連歌を改めて坂本冬美の歌仕様に作詞したもの。「八百屋お七」から題材を得た「夜桜お七」。天和2年の江戸の大火で焼け出された寺の小姓と恋仲になり、また火事になれば会えると放火して捕まり16歳で火あぶりになったお七。作詞にあたり〈恋する男のためではなく、自分の行く道を自己の意思で歩もうとする現代女性の強さを『お七』に仮託した〉と林さんは語っている。

坂本冬美が内弟子として師事していた作曲家、猪俣公章氏の確立した、「男歌」演歌の坂本冬美の世界をまったくスルーしながら私は坂本冬美という歌手をなんとはなしに気にかけていた。その師匠猪俣氏が93年に亡くなった後、「女歌」演歌を歌う坂本冬美に私はすっかり魅了されてしまったのだ。「夜桜お七」の歌詞の1部〈口紅をつけて ティッシュをくわえたら 涙が ぽろり もひとつ ぽろり〉と恋情をさらけ出しつつ、たいした恋ではなかったと桜吹雪と共にさばさばと前に進んで行くお七の歌は、これまで「男歌」演歌を雄々しく歌ってきた坂本冬美の男前さが、凛々しさへと変化したのだと感じる。

その後、坂本冬美は1997年父親の突然の事故死を機に、歌を聞いてくれる人たちに人生のエールを贈ることができなくなってきたと心身ともに行き詰まり、故郷の和歌山に戻り長期休業。引退かと噂されるようなその間に、二葉百合子さんの歌謡浪曲「岸壁の母」に出会い、〈胸に突き刺さるような衝撃〉を覚え、二葉さんに弟子入りし、再起をめざす。このあたりのドキュメンタリーを私はNHKのテレビ番組で見てなにか他人ごとではないようなざわざわとするものを感じてしまったのだ。坂本冬美と私は同い年だ。私自身が泥沼のような窮地に追い込まれていた時期、この冬美ちゃんの再起にかける姿にささやかな励ましを与えられたのだった・・・※次回につづく


「夜桜お七」



「日本の人」

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ほんま えつ(ほんま・えつ)

音楽、映画、本をこよなく愛して生きる趣味人女。
小学5年生のとき同級生の友達宅で聴かせてもらった「クィーン」に感動。
以後、洋楽を貪り始める。初めて買ったLPレコードは「アバ」のベスト盤。
いまではこれぞと思った音楽はジャンルを超えてなんでもござれの雑食派。
本連載、約10年ぶりのカムバックです。

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