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ギザギザ領収書

北原みのり2010.03.08

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突然ですが、クイズです。
朝日新聞に実際にあった投書を二通をご紹介します(2010年2月1日)。書いた人のセックスと年齢をあててみてくださーい。
 
 
問題1:声の欄への投書。タイトル「選手『ちゃん』付けに違和感」
内容要約:バンクーバー五輪関連ニュースに違和感がある。女性フィギュアスケーターを、姓ではなく名前で、しかもチャンづけで呼ぶメディアが多すぎやしないか。職場で女性をチャンづけしていけない企業もある昨今、一流選手をチャンづけで呼ぶのはいかがなものか。だいたいほかの競技のスポーツ選手は、チャンではなく、姓を敬称略で呼んでいるではないか。
 
 
問題2:生活欄への投書。タイトル「ケータイ依存」
内容要約:妹とレストランで食事をし別れた後、ケータイを持っていないことに気がついた。公衆電話からレストランに電話して、トイレに置き忘れてきたことを確認したが、手元に戻るまでひどく不安な思いになった。今まで意識したことはなかったが、失くしてみて初めて、ケータイに依存している自分に気がついた。
 
 
 答えはこのコラムの最後に。
 
 
最近、同世代の友達と会うと「日本がおかしくなっている」という話になることが多い。別に私たち、坂本竜馬ブームに影響されているわけじゃないし、日本をどうにかしたい、とか思っているわけじゃない。でも、なんていうか、「今まで知っていた社会と、なんだかうっすら違くない? ルール、変わってない?」みたいに感じることがあるんだけど・・・というような話になると、そうそうそうそう、と共感しあう瞬間が増えている。こういうのを「年をとった」っていうことなのかもしれないけど、でも、「昔はもっと、女は男をたてていたものよ」「最近の若い人は、礼儀がなってないわ」とか、そういう類の懐古じゃなくて、昔の若者はもっとルーズでよかったんじゃないかとか、昔の女はもっと自由だったんじゃないか、っていう、婆が今の閉鎖的で保守的な時代に不満をもつ、という状況は、やっぱり変じゃないかと思います。
 
 
だいたいおかしいと思っていたのだ。レストランで注文した時、「ご注文は以上でよろしかったでしょうか」と言われるのがフツーになってきた頃あたりから。いったい、なにが、よろしかっただ! と違和感を表明する間もなく「常識」はあっという間に変わった。「丁寧の基準」もすぐに変わるのだ。身の回りにそんな「話」はいっぱいある。最近使う地下鉄の駅で、トイレの前で自動音声が繰り返し繰り返し説明している。
「ここはトイレです。ここはトイレです」
私は人間です、私は人間です、と心の中で唱えながら電車に乗れば、大きなボリュームのアナウンスが延々と流れている。
「本日は雨天のため、大変、傘のお忘れ物が多くなっております。皆様お降りになるときに今一度、お確かめ下さい。また、車内大変こみあっております。一人でも多くのお客様がご利用いただけますよう、座席はつめてお座りください。また、お立ちのお客様は吊革などにしっかりおつかまり下さい。ほかの方の迷惑になる行為はお控ください。優先席付近では携帯電話のご使用はお控ください。本日は○○線をご利用いただき、ありがとうございます。」
最近、抑揚をつけたしゃべりをする車掌が増えている。 “しっかりおつかまり下さい”を強く明るい調子で言ったり、“優先席付近では・・・”あたりは、なんだか神妙で深刻な調子の声を出したりするのだ。強制的に聞かなければいけないインフォメーションって、なんて苦痛なの? と思いながら家に着けば、
「コンクリートは音が伝わりやすくなっています。深夜、お部屋で歩くときは階下の方へのご迷惑にならないようにうんうんかんぬんかんぬんかんぬん」とか
「水道・ガスメーター設置場所に私物を置かないでください。こちらは、物置ではありません。うんうんかんうんうんぬかんぬん」
というような張り紙がエレベーターの中に何枚も貼られている。最近、新しい張り紙が一枚増えた。あろうことかエレベーターのボタンの上に、
「乱暴に押さないでください」
というシールが貼られたのだ。ああ!!
 
 
ねぇ、昔から、こんなに貼り紙やアナウンスって、ありましたっけ? しつこくない? 大げさじゃない?やりすぎじゃない? ボタンに「丁寧に押して」って書かないと、叩き割るやつが出てきても文句が言えないって考えるのか? ここはトイレですってトイレが叫び続けていないと、視覚障がい者から怒られるのか? 
 
 
しつこいが、「ご注文は、以上でよろしかったでしょうか」「こちら、コーヒーになります」なしゃべり方をする人が増えてきたころから、“過剰”傾向は強まっているように思う。「ご注文は以上ですか?」という言い方が切り口上で失礼に聞こえる社会の空気、「コーヒー、どうぞ」という言い方が上から目線に聞こえる社会の空気の方が、おかしくないですか。必要以上に上から目線であることを気をつけ、相手を傷つけないように配慮し、互いに「迷惑」にならないように生きることを強い、妙ないいかがりやクレームをつけられないようにギスギスしながら生きているみたい。
・・・・と、そんな話で同世代と盛り上がる。これが年をとっていくということなのかと思いながら、早く空気が変わんないかなー、不景気でギスギスしているのだとしたら、早く景気回復したらいいのに、って心から願うよ。息苦しいもの。
 
 
それでは、お待ちかね。冒頭のクイズの答えです。
問い1は、76歳の男性。問い2は67歳の女性でした。わーお、老人のイメージが変わりますねー。いろんな風に、日本は変わったんですねー。
 
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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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