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「おじさんの役割」

茶屋ひろし2010.06.18

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兄と結婚した人は、私がゲイだと聞いて喜んでくれました。森高千里を好きだった人なのでチサトさんにしておきます。他にチサトさんの好きだった銀色夏生の角川文庫シリーズや山岸涼子全集などの本がチサトさんの家からやって来て、まだ実家に住んでいた頃に兄と二人で順次読んでいました。「花とゆめ」の河惣益巳のマンガもたくさんやって来ました。あと、岩館真理子も好きな人で、会って話すことはほとんどなかったのですが、こうしてやって来るラインナップに加えて、「日本語の本は女性が書いたものしか読めない。翻訳ものだったら男性が書いたものでも読める」と言っている、と兄から聞かされているうちに、なんだか身近な人に思えてきて、私にカミングアウトされたことを兄がチサトさんに話したら、ゲイが親戚にいるってうれしい~ってはしゃいでいたよ、と聞いて、そうでしょう、と私も嬉しく思いました。兄だけ一人、どちらにも困惑していました。そしてこれもなんとなくですが、「兄にはもったいない人だ」と思い始めて、実際に兄にそう言ったりしているうちに、夫婦に子どもができました。
甥っ子は双子の男の子たちで、今小学二年生です。一卵性のそっくり双子で、私はいまだに会ってもどっちがどっちかよくわかりません。二人とも眉毛が濃くて放っておくとすぐつながるようです。以前ひさしぶりに会った時に、二人の服がお揃いで色だけ青と緑に分かれていました。チサトさんは小さい頃からいろんな色の服を着せていたそうですが、小学校に入学してしばらくしたら、同じクラスの女の子に「ピンク着ているなんて女みたい」と言われてから、「青がいい」と言い出したそうです。「二人とも青がいい、って言うから、せめて一人は緑にしようと思って、緑いいなーかっこいいねー、って洗脳したの」と笑っていました。その時の私はたまたまピンクのシャツに赤いジャケットで、子どもたちがなかなか打ち解けてくれなかったのはそのせいだったか、とあとで思いました。
甥っ子たちは私のことを「おじさん」ではなく、「ヒロくん」と呼んでくれているようです。けれど三年に一度くらいしか会わないので、すぐに仮想の人物になってしまうようで、会うときはいつも初対面のようです。私は私で、あの子たちにとっては「オカマのおじさん」になるのかしら、あの子たちが中学生くらいになったら気持ちわるがられるのかしら、でも家出してきたらかくまってあげよう、といろいろと想像して楽しんでいます。
先日本棚の整理をしていたら、今ハマっている内田樹さんの新書が出てきました。そういえば二年前に一度買っていました。その時は、なぜか「気持ち悪い」と思って、あまり読めなかったことも思い出しました。「女は何を欲望するか?」(角川新書、2008)という本です。帯の惹句が、「フェミニズムは正しい。でも間違っている。」というもので、バッシングか、と読む気をなくしたものだと思われます。何の本だったか忘れましたが、みたいに、以前このコラムで、ハリウッド映画の「エイリアン」シリーズについて触れたことがありましたが、その元ネタがこの本でした。面白い、と読み返してしまいました。
チサトさんほどではありませんが、私も日本のいわゆる「男性知識人」の書く文章に前提としての何か抵抗があります。歌の方は明らかに、ほとんど女性歌手しか聞けなくて、男性の演歌も女性がカバーしたものを聞いて、やっと聞くというところがあります。
学生時代には友人に、「あなたは、性別は関係ない、って顔をしながら、いちばん、男だとか女だとかにこだわっている」とよく批判されていました。彼女にはそのほかにも、小室哲哉時代に安室奈美恵のCDを買って聞いていたら、「なぜ、そんなの聞くの?」とあきれられて、明菜のDVDを買おうとしたら、「そんなものは買わなくていい!」と怒られて、私が二丁目に働きに行くと言ったときは、「行く必要がない」と否定されました。彼女の中の「茶屋ひろし」にはナニカアル、とは思いながら、よくわからないまま今に至ります。
ともあれ、今は内田さんの文章が読めるので、さくさく読んでいます。そのうちまた読めなくなるかもしれないから今のうちに読んでおこうと思って、となんとなく職場のオーラちゃんに言い訳したら、「それは茶屋ちゃんが気持ち悪い人になったということなの?」と聞かれたので、わからないけどチャンネルが切り替わった感じだ、と説明してみました。
本の中で内田さんがやたらと橋本治と高橋源一郎と村上春樹にシンパシーを感じていて、「共通項は父ではなくおじさんの立場だ」というようなことを書いていました。親戚のおじさんや近所のおじさんが、ひょいと家にあがりこんできて、適当なことを言って帰っていくようなイメージだそうです。密着しがちな身内の風通しを良くする役目だとか、そんな感じです。なるほど、と思いました。まさに今、私が内田さんに、そういう「おじさん」を求めているんだわ、と納得してしまったのです。
そういえば小さい頃から、父の会社で働いているおじさんや、母の兄にあたるおじさんや、いろんなおじさんが、よく家に来ていたわ、と思い出しました。なかでも母の友達だった山岡さんをよく覚えています。按摩士の山岡さん、女性ですがおじさんみたいな人でした。母が、「ひろしもいつかは家庭を持って・・」と一般的な希望を言うと、山岡さんは、「ヒロは結婚なんかせんでもええ。女つくる前にアフリカにでも三年くらい行ったらええ。世界を見てこい」と言って、「もう、人ん家のことや思って、勝手なことよう言うわ」と母を困らせていました。母の兄にも「ヒロ、親の言うことなんか聞かんでええぞ。好きにせえ」とよく言われていました。「自分とこの子どもにはそんなことよう言わんのに、うちに来たら言うて、ほんまにかなわんわ」と母が文句を言うのもお決まりでした。けれど、母の描く息子の人生コースを選ぶことはできないわ、と思っていた私にはありがたいおじさんたちでした。
これからは私も、「オカマのおじさん」(=おばさんか・・)で、風になりたい、と思います。この先、結婚という型にハマることがないならないなりに、母や父や、姉や兄や、チサトさんや甥っ子たちや、友人たちが、型の中で息がつけるような役割を演じることくらいは、「男だとか女だとかにこだわってきた」分、できるような気がするのです。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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