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「結婚がわかる」

茶屋ひろし2010.08.27

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中山美穂のベストアルバムを買いました。もともと出ていた、三枚のシングルコレクションのCDはもう十年ほど前から持っていたのですが、今回はそれが二枚になって、たぶん音も良くなっているんじゃないかということと、私の好きな中期の曲がまとめて聞ける構成になっていたことと、最近職場のビデオ屋で中山美穂をひんぱんに流していたことも重なっての購入でした。
と書きつつ、じっさいに買うときの心境は、こんなふうに箇条書きになっているわけではなくて、なんとなくこういった理由が一緒くたに漠然とあるような感じでした。
買ったCDを家で聞くことはほとんどなくて、ビデオ屋で聞くのが日常になっています。
その好きな中期の曲(「派手!!」から「Midnight Taxi」、プラス「Rosa」、わからない人には申し訳ありません)を何度か流して満足したあと、ふと、あまり聞かなかった後期の曲が気になり始めました。一緒に働いているオーラちゃんが、「Mellow」という曲が好きだった、と言うので影響を受けて聞いてみます。オーラちゃんは曲が好きだそうですが、私は歌詞を読んでしまいます。恋に落ちてあなたしか見えないという状況から始まって、「いい夢見てたことは 目の前にあるわ 手を伸ばしたら これ以上 進めない気がする」というサビに入ります。(「Mellow」 作詞 一咲 1992)
一読して意味がわかりませんでした。作詞の一咲(何て読むの)は、中山美穂のペンネームだそうです。そのうち、「いい夢」とは結婚のことで、プロポーズされたけど迷っていて、いまはやりたいこと(仕事か)を優先したい、という気持ちを歌っているのか、と解釈しましたが、そのあとの、「守りとおしたことは やさしく やめた 手に残るものは 本当の愛ばかり」を何度か読んでいるうちに、逆だったことに気がつきました。「いい夢」はやりたかったことで、それは一旦置いて、恋人と一緒になることを選ぶ、という内容でした(たぶん)。
結婚を選ぶ歌のようです。そうとわかると、その次の「幸せになるために」も「ただ泣きたくなるの」という歌も、そうした傾向に見えてきて、私が好きだった中期の歌は、恋の駆け引きに夜遊びを歌って夜中にタクシーを飛ばして「あなた」に会いに行くところで終わっていたわけで、後期になると、次々と結婚を受け入れる体勢に入っていったのか、と理解しました。
「次々に友達 結婚してく 現実的に あぁ 夢が騒がしく見える」(「ただ泣きたくなるの」 作詞 国分友里恵・中山美穂 1994)なんて、まさしくそうです。
次々に友達が結婚していったのは、私の二十代でした。その頃は、なぜみんな結婚するのかがよくわからなくて、ほぼ他人事でした。結婚の報告を聞いても、「へーそうなんだ、おめでとう」と、どこに感情を入れていいのかわからないまま、祝う形を取り続けました。それほど意識していたわけではありませんが、ゲイは結婚出来ないからと、選択肢に結婚が入っていなかったのかもしれません。
ところが、三十代の半ばになって、こうして中山美穂を聞きながら、結婚を選ぶ気持ちがなんとなくわかってしまいました。付き合いが長くなってタイミングで、とか、子どもが「できちゃった」から、子どもがほしいから、とか、何かを共有できる人と一緒にいたい、とか、その理由は人によって様々だとは思いますが、「一人じゃさみしいから、結婚したい」ということだったら、わかるような気がしたのです。
関西にいた頃、友達が次々に結婚していくのをよくわからずに傍観していた二十代の頃は、さみしいという感情もありませんでした。一人でいるのが当たり前の日常でした。
上京して半年ほど経った頃、仕事帰りに夜道を自転車で走っているときに、急に「さみしい!」と感じてびっくりしました。どうしよう、とその感情をもてあまして、百均の店で水につかった八センチほどの竹を六本購入しました。ミニバンブーというものでした。机に置くと少し気分が落ち着きました。何がどうさみしいのか、言葉にしないでミニバンブーにたくしてしまって、そのまま放置していたら、竹はどんどん成長して、本体は八センチのままなのに、根と葉が三十センチくらいにわさわさ伸びて、花瓶もどんどん大きくなって、ある日とつぜん怖くなって、ゴミ袋に捨ててしまいました。
それから四年あまりを、私は二丁目で過ごしてきました。周囲はゲイばかりです。その中で、結婚している夫婦と変わりないような、長い時間を過ごしているカップルに何組か出会いました。なぜそういうパートナーシップをつくろうとしないのか、どうして恋を繰り返すばかりでけっきょく一人を選んでいるのか、いつのまにか、そういう問いかけの中にいるような気分になり始めました。周囲はゲイばかりなので、「ゲイは結婚できないから」を理由にして、誰か一人と長く付き合うことを選ばないと、かわすことも難しくなってきました。
そのうち、とくに意志が固くて一人でいるわけでもなかったように思えてきました。二十代の頃の気分のままでいただけのような気もしてきました。クリスマスや正月に一人でいることを気にするようになりました。それが平気なわけではなくなってきました。その孤独に耐えられないのであれば、結婚とまでは行かなくても、それに変わるような関係を選ぶ方にシフトしていくことも、ありかもしれないと思い始めました。けれど、どこか急かされているようで落ち着きません。
二十代で結婚した友人たちを思えば、その理由はコレといったものではなくて、先ほど挙げてみた様々な理由が絡まって、すでに「その孤独」が実感としてあって、踏み切ったことだったのかもしれない、と思います。さみしいとか、孤独とか、そういうものに気がつくのが、彼らに比べて私は遅かったのかもしれません。
小倉千加子さんの「結婚の才能」(朝日新聞出版 2010)を読みながら、そこに取り上げられていたテレビドラマ「やまとなでしこ」をツタヤで借りてきて見てみました。けれど一話で挫折してしまいました。なんとなく今までずっと、松嶋奈々子に関心がなくて、「武器はこの美貌」と言われても、私にとっての「美人」ではなくて、登場する男たちは、堤真一も筧利夫も東幹久もみんな、男性器にしか見えなくなってきて断念してしまいました。
そのあとなんだか心が狭くなってしまって、もうひとつ、本の中で紹介されていた、益田ミリさんのマンガ「すーちゃん」と、その続編「結婚しなくていいですか。」(幻冬舎 2006・2008)を読んだら、出勤前のドトールで泣きそうになりました。
<主人公、すーちゃん、35歳独身、嫌いな言葉 自分探し 仲良しの友達はいる、でも親友はいらない>
帯のプロフィールにホッとします。
すーちゃんの思考を追っていくうちに、周囲の欲望が浸透して、それを自分の欲望と思い込んでしまうことが苦しかったような気がして、誰かと関係をつくるのに、「孤独」を理由にすることも、本当はしたくないような気がしてきて、癒されました。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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