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迷惑・東電

北原みのり2011.08.20

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新聞で。円高なので留学する際に親に迷惑をかけないで済む、という女子大学生の言葉が紹介されていた。サラリと読み流せなかった。
なぜ“負担をかけないで済む”、じゃなくて”迷惑をかけないで済む“というのかと、とっさに思った。なんだよ、迷惑って、と思った。ちょうど東電から「(原発の件で)ご迷惑をおかけしております」とかいう手紙が督促状と一緒にきたところだった(電気代を払ってない)。すごく違和感があった。私は東電に「迷惑」をかけられているんだろうか。迷惑・・・なんてもんじゃない気がしてるんだけど、と。
最近「迷惑をかけてごめんなさい」という謝罪方法が蔓延してる気がする。「他人への迷惑になるから○○は謹んで」という注意書きも増えている気がする。「迷惑」という言葉が乱用されているが、いったい「迷惑」って何よ。
先日、電車の中でケータイで話している女性がいた。私は彼女とは二人挟んだ並びに座っていたので、彼女がどういう人かは分からない。声やお話の内容からは大学生のようだ。おかしかったのは、向かいの席の人たちが一斉に顔をあげ、彼女を睨みはじめたことだった。それはそれは凄い顔をしていた。はっきりいって、皆、一様に醜かった。憤慨している感じ、思い切りの軽蔑を露わにしているような人、いらつきを露わにして新聞をバサっとめくる人。車内に「迷惑行為」を咎める空気があっという間に蔓延した。
それは「電車の中の携帯使用は迷惑であると決まっているから」怒ってもいいという感じに見えた。私は彼女の話し声は気にならなかった。人の話し声が気になるのは映画館とかライブハウスとか何かを鑑賞する時で、電車の中では、あまり気にならない。気になる人もいるのだろうが、あまりに煩いようであれば「もう少し静かにして」と言えばいいだけで、「電車の中で電話するな」なんて、変な話、と思う。
“迷惑と決まっている迷惑行為”に、苛立ちを隠さない人は多い。が、一方で、自ら「迷惑かけてごめんなさい」とか謝ってくる東電に対して暴動が起きないのはなぜなんだろう。誰もが皆、電気料金を当たり前のように払い続けるのはなぜなんだろう。
東電批判をすると「東電だけを批判しても仕方ない」と言う人は多いし、放射能のことを声高に語ることで「生産者に迷惑がかかる、風評被害が広がる」と本気で言う人もいる。そもそもテレビなんかは、そんな感じになっている。
確かに東電“だけ”が加害者ではない。でも、東電のエライ人が誰一人辞職もせず、誰一人退職金を辞退することもなく、誰一人責任を取らないでいる状況に、もっともっと怒っていいはずじゃないか。生産者に迷惑をかけているのは消費者の「風評」ではないことを、もっと突き詰めて考えるべきじゃないか。怒るべきじゃないか。
身近な者の些末な迷惑にひどく不寛容で、深く思考し真摯に怒らねばならない事態に非常に不真面目。他の文化の人には絶対に分からないような細かなルールと気配で社会が動いている。心のあり方そのものがガラパコス化してはいない? 電車の中の携帯電話使用にあそこまで苛立てる人々の顔を見ながら思う。私たちは今、自分たちを自分たちで追い詰めながら生きている。
震災からそろそろ半年になる。「どのくらい気にしていいかわからないから、気にしない」とかめちゃくちゃなコトを言い切る人が増えてきた。私自身だって、もう神経がギリギリで「慣れたくない」と思いながら、慣れてしまっていることに気がつく。狂ってるこの状況、遅々として変わらない状況、放射能がだだ漏れしている状況、それなのにまだ「原発は必要だ」とか言っている人が政府の真ん中にいたりする状況に。
「迷惑」の語源を調べてみた。
迷惑とは文字通り迷い惑うこと。今は他人の行為によって自分が迷い惑うことだけを指すが、昔は自分がした行為でも「迷惑」というと言葉が使われていたという。迷い迷うことはいくらでもある。人生そのものが迷い惑い続けることだとも思う。つまり迷惑とは自然な、大げさに言えば人生そのものの状態なのだと思う。だからこそ、迷い惑っていいじゃん。迷惑かけられてありがとう。迷惑かけてすまんね。お互い様さよねっ! ていうくらいの飄飄が必要なんじゃないかという気がしてくる。
だからなのだ。東電から「迷惑をおかけして申し訳ありません」と言われると、非常に腹立たしい。何言ってんの? 迷惑ってのは、お互い様、が前提なんだよっ! だいたいね、私は迷惑をかけられてるんじゃない。あんたらに虐待されているんだっ! 暴力そのものだよっ! と思った。バカにすんなっ! と思いながら電気代を払わないと電気を止められると脅されるので払うしかないこの状況に、もう手足をバタバタさせて悔しがり怒ってる。
怒るってのは苦しいことです。辛いことです。だからこそ、電車の中の小さな“迷惑行為”で発散させたがる人の弱さもわからないわけじゃない。でも、迷い惑うことを受け入れられない世界の狭量さから逃れ、本気で怒りに向かい合わないことには、ココは変わらないんじゃないかと、ぞっとする思いに駆られたりする。
・・・電気代は払いました。悔しいです。せめては、まず、電気を選べる送電システムを求めたい。

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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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