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「切実な違い」

茶屋ひろし2012.04.16

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前に、このコラムを読んでくださっている方から言われたことが、なんとなくずっと胸に残っています。父親の話を書いていたときでした。父が小さい規模の(余計かしら・・)出版社と書店を経営していることに、その方は驚いたそうです。
その時、どう言われたかは覚えていないのですが、ニュアンスはとても強く残りました。なんだ、お金に困ることはないんじゃん、的なことです。何かあっても泣きつくところがあるじゃん、とか、だから毎日のように飲みに出て給料を使い果たして貯金しなくても余裕かましていられるんだ、とか、おそらくそういったことでした。
彼の中では、私がそれこそ身一つで上京してきて、親兄弟には頼れない状況下、自分のことは自分でやって生きている、そのドキュメントを読むようにこのコラムに接していて、そこに親和性を感じていたようなニュアンスでした。
そこまでは言われませんでしたが、ちょっとがっかりした、というか、萎えた、といった印象でした。
私は内心焦りました。この人にとって、私の書くもののリアリティが失われてしまった・・それはもう彼には楽しめなくなってしまうということではないか・・云々です。
けれど確かめることが怖くて、なんとなく核心から遠ざかったまま、今に至ります。
二月、三月と、立て続けに父と会いました。それでも一年ぶりの再会でした。毎月のように出版組合の会合で東京に来ている父ですが、なかなか私の休みと都合が合わなかったから、と言っていました。仕事を休ませてまで会うことでもないし、といった調子で、前日に突然電話をかけてきますが、無理やったらええねんぞ、ええんか? と気を使ってくれます。
私のこれからについて、これまでも色々な提案をしてきてくれた父です。自費出版のゴーストライターをやってみないかの件、盛岡の知り合いの出版社で働いてみないかの件、書店の隣で喫茶店をやってみないかの件、どれも丁重にお断りしてきましたが、今回の案件は少し様子が違いました。
「俺も今年で七十になるんや。たかし(長男)が会社に入ってきたから、あと五年はやろうと思ってる。そうすると七十五までということやな。もうあまり時間がないわけや。そこでや、おまえが書店のほうを手伝ってくれたらとても助かるんや。どうや、出版のほうは兄貴にやってもらうとしてや、書店はおまえがやってくれんか。俺を助けると思って。いやいや、まあ、そういう話なんや」
そう言って、なぜか私より困った様子で話を続けます。
「それでおまえにはな、こっちで一年ほど、アルバイトで十分やからどこかの本屋で働いてもらって、大阪へ帰ってきてくれたら、と思ってな。お父さんは、『あゆみブックス』がええと思うわ。それでまあウチの仕事をしながら、小説でも書いたらええんちゃう?」
「あゆみブックス」は私も好きな本屋さんです(早稲田店、愛しています。父親の会社との関係はありません)。それに、小説でも書いたらええんちゃう? という言い方に笑ってしまいました。
その話をいつもの店のママに話したら、「いいお父さんじゃないのぉ~!」と言ってくれました。「あんたを手元においておきたいのよ、戻ってきてほしいのよ。そこまで気にかけてくれる人なんてそうはいやしないものよ」だそうです。
しかし、大阪に帰るということは、実家に戻るようなものです。しかもすでに兄が父の会社で働いています。茶屋(仮名です)だらけじゃないですか。それに血統主義はちょっときつい。「もっと他に経験者がいるでしょうに」と父に言ってしまいました。
「何がよぉう~」とママは詰め寄ります。ほら、だから、私はあの家にいることが苦痛になって飛び出したようなものだから・・、今は離れて暮らしているから丁度良い距離感を保てているというか・・としどろもどろになる私に、「あんたはもうニ十年前のあんたじゃないんだから、そんな若い時の理由で拒絶し続けているのもいかがなものかと思うわ」と失笑されました。
この先どうしよう、とか、将来は何になるんだろう、とか、親と会うとついそんな気分になってしまいますが、ふと我に返って、もう私はその将来を生きているんだわ、と思いなおします。親の引力が強いのか、頭のネジが緩いのか。
父親の七十から七十五までの人生は、私が関与しないと完成しないような画なのか、と言うとまたママに叱られそうですが、親の気持ちなんてそんなものよ、ずーっと子どものことを心配し続けるのよ、と返されると、少しホラーな心持ちもします。
父親と会うときにいつも同席してくれる編集者の人には、父親が帰った後に、「あまり気を持たせないで、はっきりと断ったほうがいいと思うよ」と忠告されました。
そんななか、田房永子さんのブログを読んでいたら、別件で回答を得たような気分になりました。彼氏ができない、という人は、モテないからというより、必死さがないからではないか、親との関係が良好で、「新しい家族をつくる必要が体にないからなんじゃないかと思う」(『むだにびっくり』 2011年12月04日より)といった内容でした(勝手に引用してしまってごめんなさい)。
ほんと、そうだわ、と腑に落ちた私は、男を切らしたことがないというゲイの友人にその話をしてみました。すると、そうなのそうなの! と田房さんの見解に大きく共感しました。「切実さの違いだったのね・・」と言うと、「ぼく、彼氏がいないと超不安定になるもん!」とのことでした。それを聞いていた別の友人も、「茶屋ちゃんなんかは、家族に恵まれたパーフェクトな人に見える」と同意してきます。
パーフェクトの意味はよくわかりませんが、やはりそうでしたか。私にはなんだかんだ言って気にかけてくれている父親がいるから、彼氏を欲しいと強く思わないのか。この場合、同性の親との関係が響くのかしら、などと考えていると、母親から手編みのマフラーが届きました。
お、おもい・・、としばらく押入れに突っ込んでいたら、せんだってのママにまた叱られました。これなの、と持って行って見せると、「まあ、この編み方、とても時間がかかるのよー。それにこの深みがかったグリーンも素敵じゃない。気持ちを汲んであげなさいな」と諭されました。そのあと、二週間ほど着用しました。親との確執の問題というより、私の場合は自分を気にかけてくれている人に流されやすいだけかもしれません。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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