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「トイレの貼り紙」

茶屋ひろし2013.05.30

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あの、西部劇に出てくる立ち飲みバーの扉とか、カウンターに入るときに手をかける扉とか、スーパーの店内からバックヤードに入るときの両開きの扉とか、ノブも鍵も音もない、あの扉は何て言うの? と三日くらい脳内を巡ってみましたが、その名前は現れず、いまネットで検索したら、「スウィングドアといいます」と、すぐに答えに出会いました。同じような質問をした人に誰かが答えてくれていました。
スウィングね、なるほど・・動き方で、と、知ればあっけないものです。
その扉はトイレの入り口につけられています。
地下にある私の職場は店にも事務所にもトイレがないので、ビルの共同トイレを使用しています。地上や地下街とつながっているため、誰でも使うことが出来ます。その入り口に、片開きで白い正方形のスウィングドアがついているのです。身長が140センチくらいの人だと視界がさえぎられるくらいの大きさで、三歳くらいの子どもならその下をかがまないで抜けることができます。しかも一度開けると勢いがつくので、その前後で何気に注意を必要とします。
奥にもう一つ、完全に中をさえぎる取手のついたドアがありますが、スウィングドアで目隠しができているせいか、いつも開けっ放しになっています。
スウィングの方に、右が女性で、左が男性と、ヒト型のマークが貼り付いています。
さて、その白いスウィングドアには男女どちらにも貼り紙もしてあります。
「男性が女性トイレに入った場合は痴漢とみなします」
これ、私は知らなかったのですが、けっこう色んなトイレでみかけます。わざわざ貼ってあるということは、あきらかに覗き見を働いた男が、「まちがえちゃったんだよ」とあとで言い逃れをするということでしょうか。「まちがえたからなんなんだよ」という話ですが、見るたびになんとなくザワつきます。
この違和感はなんだろう、と思っていると、ある日その貼り紙の上に、「だったら、男の扉は青く、女の扉は赤く塗ればいい」と鉛筆で書かれていました。男性用のドアの方です。それを読んだ途端、ザワつきを通り越して苛立ちを覚えました。
そうじゃないでしょう、まちがえることが前提の話ではないでしょう、この貼り紙は。
そもそもまちがえるわけがないじゃない。男女のヒト型マークも目の前についている。
百歩譲って本当にまちがえたとしましょう。でもそれはここでわざわざ警告されている問題とは別次元の話でしょう。
と、私もその下にマジックで書いてやろうか、このドアをいっそ、青と赤でどこかの国旗みたいに塗り替えてやろうか、と思いましたが、そうするとイっちゃった人みたいになって、さらに多次元になりそうです。
嗚呼、鉛筆で書いた人のことを想像するとムカつきます。
きっと親切心で、あるいは、人々にグッドアイデアを教えてあげるつもりで書き込んだことでしょう。ましてや、痴漢とみなす、という文句に腹をたてて殴り書きをしたわけではないでしょう。
この貼り紙と女性専用車両は応急処置で解決策ではないはずです。
あまりにも痴漢が多すぎて、しかもそれが犯罪であるという認識が薄すぎて、逐一書いて貼って、毎日駅でもアナウンスをしているのであって、性別をまちがえないように呼びかけているわけではありません。
ここまでしなくちゃわかんないのか、おい、と日々怒っているわけです。
鉛筆の書き込みを見たときに、それでも伝わらないのか、と愕然としました。
メタメッセージの怒りは感じているのか、それで自分を否定されたように思って逆切れする人がいることに、唖然としたのです。
私は違和感をこうして言葉にできるまで、毎日その書き込みを読もうと思っていましたが、翌日には清掃の人にはがされてしまいました。健全です。
一連の橋下徹発言にも同じものを感じました。
主語を言い換えたり、謝罪したり(アメリカに?)していますが、発端の「慰安婦は必要だった」発言をなかったことにはできないでしょう。
そんなもの、必要なわけがないじゃない。
その、「最初の」彼の認識が、鉛筆の書き込みとかぶりました。
貼り紙にわざわざ書きこんだ人も、男はそういう生き物だからしょうがない、とその前提はゆずりません。人はまちがえてしまう生き物だ、とはわけがちがう。
そういうもんだ、って、どういうもんだ。
日本軍が必要としていたなら、それは「男の性欲」を暴力に結びつけておかないと戦争を正当化できなかったからじゃないか、と疑います。
「処理」は「レイプ」に、そして「殺人」にすげ替わる。
結びつけないでよ、もう。
おかげで、ただの勃起や射精が、暴力行為の過程に組み込まれ、あるいは、おさえきれないみっともないことになってしまった(処理とか言うな)。
「男だからしょうがない」と言う人がまだこんなにもいるということは、それこそ戦後問題じゃないかと思います。
私はといえば、通勤電車に乗っていれば好みの男は幾らでもいるもので、ふいに勃起しそうになって慌てます。そんなときは、目の前の窓に貼ってある文章の、言葉のひとつを置き換えて暗誦します。
「マナーモードに切り替えて、勃起はご遠慮ください」
三回くらい頭の中で唱えると治まります。そうするのは誰かに気づかれたら恥ずかしいからで、誰かになんとかしてもらおうとは思いません。
まったく関係ありませんが、スウィングドアでもうひとつ。
巨大な倉庫のような舞台装置で歌い終わった中島みゆきが、奥にあつらえてあった木戸のような両開きを軽やかに開けて退場していった姿も思い出しました。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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