ラブピースクラブはフェミニズムの視点でセックスグッズを売り始めた日本で最初のトーイショップです。

イスタンブール

北原みのり2013.06.16

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 6月の第一週、倒れてた。いろいろ原因はあるけれど、橋下疲れ、ってことだと思った。心も体もカチコチになってた。日本の社会が最もぐずぐずに、曖昧に、だけど強固にばかばかしいくらい誇示&固持してきたジェンダーの問題が一気に吹き出た感じ。ここで怒らなきゃ、いつ怒るのって思った。だけど、もっともっと怒り方をうまくしたいと思った。からだを壊さないように。心をつぶさないように。自分を真ん中において、怒る。いい人と思われたい、なんて卑猥な欲望に捕らわれず言いたいことを言う。はいはいはいっ! 楽しく、自由に、私は生きたいだけなんだ。
 そして私は今、イスタンブール。
 ずいぶん前から決めていた旅で、デモが起きるなんてまるで予想していなかったこともあり、私のホテルはタクシム広場から歩いて十分くらいの場所です。日本語や英語の報道を見ながら、直前までホテルをキャンセルするかどうか迷いながら、それでもまぁとにかく行くべ、とイスタンブールに着いたのですが・・・・ここは、とても、静かです。
 もちろん、タクシム広場には大勢の若者がいる。若者、といってもこの国の平均年齢って27歳らしいので、国の大半が若者というわけ。きらきらとした目の女の子と男の子たちが、“わきあいあい”という雰囲気で、でも力強い意思を全身にみなぎらせながら公園を“占拠”してる。中にはLGBTの旗をかかげたり、フェミニストのグループもいる。炊き出しチームもいくつかあって、トルコ独特の真っ赤なトマトスープとパンを配ってる。公園には、何人くらい集まっているのだろう。わからないけれど、とにかく人、人、人。人の波の合間にマスクを売る子供や、すいかを売るオジサンや、アタテュルクの写真を売る老人などなどが、まるで“お祭り”のように賑やかにいる。
 恐らく私服警官はいるのだろうと思うけれど、それでも日本の原発デモの時のように、警官が大量に出てきてデモ隊を取り囲んでいたりとか、護送車が出動しているとか、拡声器を使って通行人に指示を出すとか、そういうことはまるでなく、、、、つまりは、まるで“ものものしくない”のだった。ここには歌う人がいる、絵を描く人がいる、踊る人がいる、インターネットの中継をしている人がいる、炊き出しを頑張っている人もいる、セクマイの権利を訴えている人がいる、商売している人がいる。みんな穏やかに、自分の声をそれぞれ持っている、という感じで。
 それが私のみた6月14日金曜日夜のイスタンブールはタクシム広場の空気。
「おかしいんだけど。報道されている空気と、全然違うんだけど」
 私のホテルは部屋数10個の小さなホテル。かもめと猫の鳴き声だけが遠くから静かに聞こえてくる、風が気持ちよく通る高台にある。従業員はやっぱりみんな若く、ロビーにおいてある大きな木のテーブルで囲むように、それぞれのAirMacを広げながら穏やかに話しをしている。あまりにも静かで平和な時間が流れてる。ちょっとちょっと! すぐそこでデモが起きてるけど、なぜここはこんなに平和なの?
 きれいにひげをはやしてる、20代前半の男性は言った。
「友だちはみんなデモに行ってる。なぜ行かないか? とも聞かれる。ぼくも少し前まで公園には行ってたんだ。マンダリン弾いたり、空をみあげて祈ったり。でも、だんだんとデモが大きくなり、みんな何に自分たちが怒っているのか忘れているように思う。怒りだけが充満してる。だから今は行きたくないんだ」
 いたずらな目をした、頭のよさそうな20代前半の女性は言った。
「別にここは戦争しているわけじゃない、市民が政府に抗議しているんです。だいたい既にしずまりかけているし、デモそれ自体が、今後大きな問題になるとは思えないんですよね」
 二人が言うには。「これから」なのだと。怒りと怒りが対立した後、その後に静かに何をして、どう変えるか。それが大切なんじゃないか、そのことを考えたい、と。そんな風に静かに言うのだった。ニャー、遠くで猫が鳴いている。
 昨日は、こちらで国際トレードショー(美容関係)があり、一日そこで過ごした。(ちなみに韓国や中国の会社がひしめきあう中、日本の会社はたった一社しか来てなかった。広い会場を歩いていたけれど、日本人に誰も会わなかった)トレードショーで出会った30代の男性にもデモのことを聞いた。
「海外の報道が酷すぎるんだよ。日本の会社は直前でキャンセルしてきたし、というかそもそも二社しかアプライしてないけどさ、まぁそれはいいけどヨーロッパからの客も半分に減ってる。だいたいイギリスなんて今、自分のとこですっごいデモ起きてるのに、そっちを報道しないで、トルコのデモばかり報道してるんだ。あいつら(ヨーロッパ人)は、オスマントルコ時代の恐怖が身にしみてるから、トルコの経済成長が怖いんだろうよ!」
 オスマントルコ・・・・とあっけにとられながら思わず頷いてしまった。それが彼の見ているイスタンブールの世界。
 トレードショーの帰りにメトロに乗っていたら、若い男の子が話しかけてきた。なぜか、どうやってホテルまで帰るのか? ともの凄く心配してくれる。駅からタクシーに乗るつもりだ、と言うと、「絶対にやめた方がいい」と言う。夜10時過ぎてるし、イスタンブールのタクシーに観光客風の女が乗るのはめちゃくちゃリスキーだ、と。で、トラムだとホテルまで歩いて帰れる距離に駅があるから、どこどこで乗り換えてどうどうすればいい、、、、とか教えてくれ、、、いや本当に親切なイケメンだった。ついでという訳じゃないが、彼にも聞いた。デモ、どうなの? 彼はまじめな顔をしながら、言った。
「僕は大きな問題じゃないと、思ってる。大切なことだけど、大きな問題ではない、と。怒っている人もいる。だけど、怒らない人もいる。イスタンブールの今の、一つの、話」

 メトロからトラムに乗り継ぐ途中でも、トルコの国旗をかかげた小さなグループにいくつもあった。土曜日の夜は賑やかだ。でも、旅行者の私には、いつも以上に賑やかなのか、いつもと同じように賑やかなのかは、わからない。ただ彼の言うとおり最寄り駅までトラムを乗り継ぎ最寄り駅で降りたとたん、デモをしている人たちと正面からぶつかるように出会った。公園組とは違う、街を練り歩く100人くらいの人々。警官は誘導していない。だからなのだろうか、自由に、自分たちの街を、自分たちの声をあげながら歩いている感じ。確かに怪我をした人はいるけれど、でもだからといって「声をあげる」こと自体がものものしくなったり、怒りを深めるという方向には向かない理性が、街のあちこちにある。少なくとも私には、そう感じられる。
 ホテルに帰ると、「デモ対強制排除だって? 大丈夫?気をつけて!!!!!」という日本の友からの連絡、いくつか。今日の自分を振り返る。私は今日、猫の写真を何枚も撮った。夜9時になっても夕焼けが美しいイスタンブールの空をみあげながら、シルクのようになめらかなマルマル海の浜辺で水たばこを吸いながら、公園の遊具で遊ぶ子供たち(夜9時なのに!)の笑い声を聞きながら、夜を過ごした。同じ町では警官にガスをまかれ怪我をし病院に運ばれた人たちがいる。同じ町で、「私はデモに行かない」と決めている若者もいる。同じ町で、外国人に道案内をして「じゃあね! ほんと気をつけてね!」と握手をしてくる若者もいる。そんな感じで、イスタンブールの時間が流れているのを感じてる。

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北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めて、女性だけで経営するセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」を始める。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)など。佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・最新刊は香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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