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「英語はひとつ」

茶屋ひろし2013.08.19

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あまちゃんか壇蜜か、それとも櫻井翔か。毎朝雑誌を並べていると、その表紙への登場率に、だいたいこの人たちで今年の夏はできているのかしら、と勘違いしてしまうほどです。なんだか、甘い夏ですね。
世間では夏祭りで、祇園祭に天神祭、それにいくつかの花火大会、ウチの店がある商店街でも、神社のお祭りがありました。
その夜のことです。閉店間際に、二十歳くらいの女の子が駆け込んできて、「通訳の本はありますか」と訊ねてきました。その格好は、ハッピ姿で長い髪をアップにしている祭り姿でした。「通訳ですか?」と、その意味がわからなくて聞き返せば、「通訳の辞書みたいな」と新たな単語を付け足しました。それでよけいにわからなくなって、「英語の本ですか」と聞きなおしました。
「そうそう、それで、言いたいことを英語でどう言うんか、調べられるやつ」
だったら・・と、こういうときはこう言う、みたいな英会話の本をいくつか紹介してみました。どうでしょう。
ああ、と見ながら、思っているのと違う、というような顔をします。
「もっと、辞書みたいな・・」
「辞書となると、単語を調べるようなものしか置いていないんですが・・」
うーん、と唸りながら、彼女は英会話の本をぱらぱら眺めています。そして、「英語はひとつですか」と新たな質問をしました。
「ひとつ?」
「うん、いろいろない? これはみんなが喋ってるやつ?」
広げた本を私に見せます。
「うん、ひとつ。英語はひとつしかない。英語喋る人、これで通じる」
中国人のモノマネみたいになってしまった私を、胡散臭そうに見上げると、「まあ、いいや」と、本を返してあわただしく出て行きました。
方言みたいに、いろんな訛りがあると思ったのでしょうか。これは標準語みたいなものよ、とか言えば良かったかしら、などと思いながら店じまいのシャッターを下ろしに表に出ると、先ほどの彼女がウロウロしています。目が合うと、公衆電話の在り処を訊いてきました。「それは知らないわー、そこの駅員さんに聞いてみて」と答えながら、いったいあなたに何が起きているの? とようやく訊ねてみたくなりました。泊まっているホテルの場所がわからなくなった外国人の相手でもしているのかもしれません。
店に戻って、彼女に見せていた英会話の本をパラパラめくりながら、英語表記の上にカタカナのふりがながないことに気がつきました。読めなかったのかも、と思い当たりました。
私もほとんど英会話ができませんが、そっか―、読めなかったかー、とそこまで思い至りませんでした(想像ですが)。それに、日本語、とか、中国語、みたいに、英語の英が、国の名前だと思えなかったのかもしれません。
以前、友人と電車に乗っていて、英語のアナウンスに、「こういうのって、アメリカ人が喋っているのかなー」と私が漏らしたら、「英語を喋る人はアメリカ人って・・いつの時代の認識や」と笑われたことを思い出しました。
けっきょく、どういう事情だったのかはわかりませんでしたが、通訳をしたかったのであれば、英語を話せる人を探したほうが早かったように思いました。それとも、探したけれど見つからなくて、自分で何とかしようとしていたのかもしれません。
必死といえば、コミック店では万引きの被害が相次いでいます。『ジョジョの奇妙な冒険』や、『キングダム』という少年漫画が人気です。ごそっ、と盗られては、あとで防犯カメラの映像を見直して、怪しい人物に目星をつけて、以後気をつける、ということを繰り返すのですが、なかなか現行犯逮捕をできないでいました。もちろん犯人は一人ではありません。
そんななか、私が休みの日に、店長が捕まえた、という話を、家に帰ってきた父(社長)から聞きました。
「(ふだんは寡黙な)あの店長が、『ドロボー!』って、大声を出して追いかけんや。何を思ったか、犯人は地下の階段を下りていったもんやから、行き止まりで捕まえたんやで」と、嬉しそうです。
警察も呼んで事情を聞けば、犯人は三十歳の男性で、沖縄から出てきたものの、仕事が見つからず、マンガ喫茶に泊まる日々で、いよいよお金もなくなったので、『ジョジョ』を盗っては、中古ショップで換金していたとのこと。財布からは二千八百円で買い取ってもらったレシートが出てきたそうです。
「三十歳で仕事が見つからん、って、社会がオカシイで。財布には三百円しかないねん。オレ、これでなんか食え、言うて、二千円やってしもうたわ。沖縄には弟夫婦しかいなくて帰れない、言うんや。せやけど頭下げて弟を頼るか、それが無理やったら生活保護を受けたほうがええと思うわ」
彼の事情を聞けば、私も父と同じように同情的な立場になります。
けれど、彼と同い年のスタッフの男子は、「だからって、万引きするか? と思いますけど」と批判的でした。
別の場面では、私が『ひとりも殺させない それでも生活保護を否定しますか』という本をファックスで注文しようと、そのタイトルを、長いねー、なんて言いながら書いていたら、そばにいたスタッフの女性が、「私は否定しますけどね」と力強く言いました。タバコに酒、ギャンブルをやめられない受給者をよく見ているそうで、許せない、といった面持ちです。私は、その生活が税金でまかなわれていても、不健康でいたり、金をなくしたりしてもいい、と思ってしまいます。
「英語はひとつか」と訊いてきた女の子を思い出して、日本語もひとつじゃないようね、と意味をかぶせてしまいました。同じ言語を発しているはずなのに、共有できないことが、ままあるからです。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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