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「ありのままに」

茶屋ひろし2014.08.05

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父親の策略によって、この仕事に就いて2年も経たないうちに、店を任されようとしています。
アルバイト期間を含めて20年勤務している副店長と、10年経った主任を差し置いて、この私が・・。社長の息子だからというこの暴挙に、彼らの本音はよう聞きません。


先月まで、65歳の女性が店長を勤めてくれていました。その中井さん(仮名)は、もともとウチで勤めていたわけではなく、40年余りを様々な書店で働いてこられた方で、すっかり引退していたところを、社長が、ウチの店をちょっと見てアドバイスしてくれないか、と3年前に引っ張ってきたという話でした。


最初の頃は、週に一度か二度、店に顔を出されて指導に当たられていたそうですが、半年ほどで、そのとき店長だった男性が体調を崩して辞めてしまい、なしくずしでそのまま店長を引き継がれる形となりました。
そこで、私が呼ばれ、ベテランの中井さんに、本屋の仕事を一から教えてもらう、という話になったのです。


中井さんは、銀色になった髪を刈り上げていて、耳に鉛筆を差して仕事をする昔ながらの職人タイプでした。大阪の書店を中心に働いてこられた方で、取次ぎや版元の多くの人の間でよく知られた人でした。性格は、熱しやすくて冷めやすく、カッと怒ったあと、しばらくすると、もう別件で笑っているような人でした。岸和田に一人で住んでいて、だんじり祭りのために休みを取りました。


もともと、一所に長くいるのが苦手なことと、社長との約束が長くて2年位だったことと、年々悪くなる腰の具合と施設にいるお母様の介助もあって、早く私に仕事を覚えてもらって辞めたい、といったことを出会った頃からおっしゃっていました。


それで、超特急のように1年と半年で、仕込んでいただきました。
中井さんはこっちで言うところの「イラチ」で、ぼんやりした私は、何度も矢のような速さで、毎日のように叱られ続けました。
いったい、人生で何度、こういう巡り合わせがあったことでしょう。
もう、叱られることはないと思っていました。20代ならいざ知らず、もはやありがたいことなのかどうか、よくわからなくなっていました。


ウチの書店の購買層は高年の男性が大半を占めますが、だからというわけでもなく、中井さんの品揃えはその層に合ったものでした。若い人や子どもが読むような本は、「こういうチャラチャラしたのは、ねえ・・」とあまり置きたがりませんでした。
代わりに、彼女がセレクトした、落語と酒関連の棚は、それぞれとても充実していて、一定のお客がついていました。


私と唯一の共通点はお酒が好きなことでした。
彼女は日本酒が好きで、私はビールという違いはありましたが、酔う速度も似ていて、酒好きを公言する割には、意外と早く前後不覚に陥ります。


何度目かの宴席で、まだ飲み始めて間もないときに、突然中井さんは笑顔で、
「私は女ですから、いつも男のひとたちに守ってもらって感謝しています!」とグラスを掲げました。
そんなことをおっしゃると思っていなかった私は、驚くと同時に、苦い気持ちになりました。
そんなこと言う必要ないのに・・! と思ってしまったのです。
勝手に私は、彼女は長く男性社会で働いてきて、なめられないように「男」のように生きてこられたんじゃないかと、イメージしていました。
それでジェンダーがおっさん寄りになったんだわ、とか、失礼な。


なんだか、惜しいというか、悔しい気持ちになりました。
さらに、そういうことを随所で発言することで、身を守ってこられたのかと穿ちましたが、嬉しそうに、「そうですよね、茶屋さん!」となぜか私に同意を求めてくるので、見渡せば確かに周りは男ばかりで、え、なに、お姫様気分だったの? と少しずっこけました。


私が彼女に「男」のイメージを重ねていただけで、本人はそんなふうに自分のことを思っているわけではなく、むしろ、私が彼女から「女」のイメージを重ねられていたようでした。
ジェンダーバイアスを解こうとして、逆にからめとられてしまった気持ちになりました。総じて余計なお世話でした。

 

 

そういえば先日、書店員が集まるセミナーで、軽く自己紹介をしたらなぜかウケて、20代のイケメン二人に飲みに誘われました。
いつもなら、酔うより早くカミングアウトしてしまいますが、「ノンケならでは」の至近距離で言い出せません。言ったとたんに二人はそっと離れるのではないか、それはもったいない、と一人の結婚指輪を見ながら、ためらってしまいました。
「物腰が柔らかくて京都の人みたいですよね」と言われましたが、そうじゃなくてゲイなんだよ! と、またしても言えませんでした(ダサい・・)。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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