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「頼まれてない」

茶屋ひろし2014.09.18

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これまでは面接と言えば、受ける側でした。すべてアルバイトの面接でした。履歴書なんて書きたくない、と毎回のように思いました。
親が社長だからと言って、面接もなしに正社員になってしまった私が、急遽アルバイトの面接をすることになりました。
その状況に頭がついていかなくて、へらへらしてしまいます。相手は真剣なのに、悪い癖です。
質問も、「あなたのおうちはどこですか」レベルです。
ところが相手だって、志望動機の欄に、「本屋さんが好きだから、本屋さんで働きたいと思いました」と、つたない感じで書いてくるのです。ウチの店のことでもなさそうです。平成生まれの大学生たちと、いい勝負になっています。
「割引があるから」と書いてきた男の子もいました。従業員は1割引で購入出来ます。募集要項に載せています。そうだけど・・。
見開きタイプの履歴書の右ページには、その言葉しかありません。
「本はよく読みますか?」と、訊き方が失礼になっていくのを止められません。
「あ、読まないんだ。じゃあ、マンガは読むのかな? そう、それは良かった」
ダメだこりゃ、と瞬時に判断してしまった気持ちと裏腹に、口が勝手にしゃべっています。
もう30年はジャンプを読んでないくせに、「うんうん、やっぱりクロコよね(『黒子のバスケ』というベストセラーです)」と、知識だけで相槌を打ってしまうから、場が白けていきます。
コミック店の夜間は、ほとんど大学生のアルバイトの人たちで回していますが、長期でいてくれる人が少なくて、私が働き始めて2年弱の間に、定員が4人の枠で、15人くらい入れ替ったはずです。根付かない。
原因はいろいろと考えられますが、1人が辞めると連動してしまうパターンが多いようです。それで、また3人雇って、するとまたその3人が次々に辞める、みたいな。
同学年をまとめて雇うから、テスト期間や就職活動期に、みんなが入れなくなってしまうという問題もあります。
やっぱり学生の中にフリーターが1人くらいいたほうがいいですよ、と他の社員に言われて、そうね、と答えながら、気持ちはうなずけないところもあります。
いま、ウチの店で働いているフリーターの人たちは、その8割が親と暮らしています。扶養を離れて1人暮らしをして家賃や年金を払うとなると、生活が一気に厳しくなるからだと思われます。
なんでこんなことになっちゃったのかしら・・、と思います。どの人も社員と同じくらいの労働時間なのに社員じゃない、その差はなんなのか。
責任や義務は、社員になったから求められるものでもあるまいし。
私がフリーターを続けていたのは、そのほうが「自由」だと思い込んでいたせいですが、30を過ぎたあたりで線が交差して、「自由」が失われていくような感覚に陥りました。そもそも、思い描いていた「自由」などなかったのかもしれません。
ベテラン勢を飛び越して正社員になった後ろめたさから思う部分もありますが、人件費を削るためにアルバイトを雇う、という方法はすっきりしているようで、何もすっきりしません。
希望者は全員社員にすればいいのに、と言うと、「金がない」と社長は顔をしかめます。
だったら、社員が7割くらいの規模でやっていける業態に縮小すればいい、と思ってしまいます(人を減らすことになりますが)。
企業は成長を続けなければならない、儲けを生み出し続けなければならない、というのが社長の理念で、それが企業家ということなのかもしれません。
成長と儲けのほかに、働く人たちの生活の維持があると思いますが、どうも順序が逆になっているようで腑に落ちません。
通勤途中によくみかける、体の大きなホームレスの男性は、もう素材が何だったのかよくわからないズボンをはいています。色がワインレッドに見えます。くすみ過ぎて鈍い光沢を放っています。ベルトはないので、いつも片手で引き上げています。手を添えていないときは半ケツになります。そのとき前は、豊かな陰毛を見せるところで止まっています。髪が伸びすぎて洗ってないせいでいくつかのダマになっています。顔は日焼けと汚れで表情がわかりません。
ああ、洗いたい・・と自転車を漕ぎながら思います。
服を脱がせて全身を洗って歯も磨いたら、丸坊主にして・・って、すごい暴力。
それに、突然のことで風邪をひいてしまうかもしれないわ。
でもどうやって? 自宅に招待したら風呂場の排水口がすぐに詰まりそうよ。なによりあの人の臭気に耐えられないかも。
じゃあ、水圧が強めのシャワーボックスをトラックの荷台に載せて、そこに誘導するのはどうかしら、とそこまで妄想して、エロではなく、自分が洗ってあげなくてはいけないと思い込んでいたことに気がつき、ハッとしました。1人で歩いて食べて寝ているんだから、それぐらいは自分で出来るでしょう。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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